第7話 バスケ最強決定戦!!




「それにしても、やっぱりあそこのチームは強いですね」

「…だね」



 試合が終わったので俺たちは他のチームの観戦に移る。

 俺たち5人は固まって座っていて、俺は浜松さんと話していた。

 遼太郎はと言えば明美さんとバスケの話をし、高橋さんがそれに混ざろうとしている。がんばれ!高橋さん!




「あそこのチームは山下がいるからね」

「運動神経抜群ってああいうことを言うんでしょうね」



 俺たちが見ているコートで試合をしているのは野球部のホープ。山下だった。そして、そのチームにはちひろもいる。

 山下はちひろにいい所を見せたいのか随分と張り切ってバスケをしている。運動神経の良さを存分に発揮して、シュートをバンバン決めている。


「そういえばちひろさんは運動神経いいんですか?」


 コートの中をウロウロとしているちひろが気になるようで浜松さんはそんなことを聞いてきた。


「う〜ん、まぁまぁって感じだよ。普通」

「…へぇ。そうなんですか」


 ちひろは運動神経は一般的だ。だから今も無理に前に出ることはせず、ボールが来たらパスして、ちょっとドリブルしてなんてことを繰り返している。俺と変わらない。


「それにしても、あの人、胸デカすぎませんか」

「ごめん、何の話?」


 ちひろを眺めながらそんなことを急に口走る浜松さん。

 ごめんだけど、体育中だよ? 何言ってんのこの人。


「だから、あの人胸デカすぎませんか。高校生の域を出てますよね」


 あ、続けるんだこの話。1回とぼけてみたのに。



「ま、まぁ大きい…かな」



 仕方なく話を合わせる。

 あんまり元カノの胸の話とかしたくないんだけど…。

 って、あれ?




 俺は違和感を覚える。




 ちひろの話をしているのに悲しみを感じたり、自己嫌悪に陥ったりしない。

 先週まではちひろの話をすると、その笑顔が他の人に向くことを意識して悲しくなっていたのに。…なんでだろう。



「変なこと聞いてもいいですか」

「え、あ、うん」


 浜松さんの声で我に返る。


「小野寺くんは、胸、好きですか?」


 ちょっと近づいて小声で聞いてくる。

 何聞いてんの?この人。

 

「えっと?」

「おしり派ですか?」

「…答えなきゃダメかな…?」

「聞いてもいいと言ったのは小野寺くんです」

「あーっと、強いて言うなら…、おしり?」

「そうですか。良かったです」

 

 何が!?

 俺は何も良くないんだけど!?

 浜松さんは隣で胸を見ながら、安堵したような息を吐いている。




 …まさか、気にしているのか?

 胸が小さいことを?

 確かに、浜松さんは胸が大きくない。一般的な大きさだろう。多分。

 それで男子はどっちが好きなのか気になったのか。そういうことか。


 はぁ。仕方ないな。



「大丈夫、浜松さん。成長って人それぞれだから」

「…は? 何を勘違いしてるのですか?」


 あっれ〜?

 かける言葉を間違えたようだ。声が一段と低くなったんだもの。目は前髪であんまり見えないけど、怒っているのが分かる。


「すみませんでした」

「…はい」


 とりあえず謝っておいた。

 完全に間違えた…。











 春成と浜松胡町がそんな話をしている所を見ている者がいた。

 バスケをしながらコートの中からその様子を見ている。




「は? 何あれ」



 彼女は酷く不快感を抱いたようだった。

 最近まで恋人だった春成と浜松胡町の距離感が近すぎることに、仲良さげに話していることに。




 …なに楽しそうにしてるのよ。



 彼女は春成が楽しそうにしていることが酷く不愉快だったのだ。

 まだ別れてから1ヶ月も経っていない。

 なのに、悲しみにくれるわけでもなく、新しい女の子と仲良くしている。それが気に食わなかった。



「おう、ちひろ。見ててくれたか? 俺のシュート」


 山下がちひろに話しかける。


「ええ、見たわよ。凄かったわね」

「なんだ? 不機嫌そうだな」



 声の調子で分かってしまったらしい。

 山下が不思議そうな顔で見てくる。



「なんだ?何見てんだ?」



 山下は私の視線の先を追う。



「なんだ。あいつかよ。随分仲良さげだなあいつら」

「……」

「てか誰だあの女子生徒。見るからに暗そうだな」

「……そうね」

「お似合いじゃねぇか。陰キャと陰キャで仲良くしてりゃいい」


 春成と胡町を見た山下はそう言って言葉を吐き捨てる。


 …そうよね。あいつは私とは違う。陰キャ同士仲良くしてればいいわ。



 彼女はそう思い、視界から2人を外した。

 イライラする。あいつが楽しそうにしているのが。私という人と別れたことを悲しむことなく、楽しそうにしているのが。


 私はあいつとは違う。もうあっちには戻らない。本当の私は陽キャなんだ。あんなのと付き合っていたのは私の汚点だ。あんなやつは私には相応しくない。




 自分は変わったのだ。クラスの端で縮こまっていた自分からクラスの、いや学校の中心人物へと。それを証明するようにみんなが私をもてはやす。みんな私をものにしようと頑張る。



 それなのに。それなのに、あいつはそうしない。それが酷くムカついていた。








***







「よーし、じゃあ、ここまで勝ち続けている2チームの対戦だ!」

「おおおおお!」


 森下が生徒たちを煽る。ここまで勝ち続けている2チームの対戦ということもあり、生徒たちも興奮している。



 …体育の授業だよな??



 そんな疑問を覚えるくらいには熱狂的だった。



「圧倒的な身長と、運動神経で相手チームをボコボコにしてきた、山下チーム!」



 ついには森下はナレーションをし始めた。これが採用されるこの学校。大丈夫なのだろうか。

 イケメン山下は周りに手を振る。それに続いてちひろなんかもにこやかに手を振っている。それに周りの観客が黄色い声援を送る。まるでアイドルとスポーツ選手の入場のようだ。



「そして、それに対するは! バスケ部期待の新人と、元エースが率いるダークホース! 小野寺チーム!」


 明美さんが手を振っている。遼太郎もノリノリで腕組みをしている。

 高橋さんも何故かノリノリだ。

 周りの生徒たちも黄色い歓声を上げる。

 

 いやどっちも応援するんかい。



「さぁ!最強を決めようか!」


 森下は最近なんか見たのかな。明らかに教師では無いぞ


 真ん中に山下と俺が並ぶ。

 俺のチームで1番身長が高いのは俺だからな。でも190cmに勝てるとは思っていない。



「じゃあ!はじめ!」



 ボールが上へと投げられる。思い切り飛び上がるが、案の定山下にボールを取られてしまう。


「はっ! チビが!」


そんな言葉を俺にしか聞こえないように吐く。お前がデカすぎるんだよ。

山下が弾いたボールはちひろへと渡る。


わざとだろう。ちひろにいい所を見せるために。

でも、それは悪手だね。だって。


「きゃ!」

「よしっ!」


 ちひろにボールが渡った瞬間、明美さんがちひろからボールを奪い取る。

 ちひろは運動神経は普通だ。そんな彼女はバスケ部の明美さんからボールを守れるわけがない。


「ちっ!」


 ボールを取られたと気付いた山下は急いでボールを取り返しに向かう。

 しかし、明美さんは山下の接近に気付くと、ボールを遼太郎にパスする。


「ほいきた!」

「くそっ!」


 パスを受け取った遼太郎はあっという間にゴールしたまで入り込む。

 しかし、そこはさすが山下。遼太郎に追いついてしまう。


「おらっ!」

「バスケじゃ負けねーよ!」


 遼太郎はボールを取りに来た山下にそう言って吠え、躱す。

 そしてレイアップシュートを打つ。


「ちっ!」


 シュートは当然の様に決まる。

 その瞬間、周りから大きな歓声が上がった。ここまで無双してきた山下のチームから軽く点を取ったことで、盛り上がっていた。


「行くぞ!」


 山下も本気になり、再びゲームは再開された。

 これまでの試合で負けがないチーム同士に相応しい、接戦が始まった。




 






 

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