第9話 放課後はやっぱりクレープだよな!
午後からの授業は数学、生物基礎、日本史だ。
その全ての授業をウトウトしながら受け終え、俺たちは放課後を迎えた。
「な、春成。この後どうする?」
「ん~、今日は暇だから行ってもいいぞ」
「お、マジか。よっしゃ行くか」
「どこに行くのかしら」
「……」
会話に自然と混ざってくる浜松さん。
え、結構席離れてるよね? チャイムなった瞬間からこっちに来ないと今の会話には混ざれなくない?
てか、よく話かけてくるな…。実は結構おしゃべり好きなのかな?
「えっと…」
「二人でゲーセ」
「ク、クレープでも食べに行こうかなって!」
おや? クレープ? そんな話聞いていないが。いつも通りゲーセン行って峠を走るんじゃないのか?
「おい、遼太郎」
遼太郎は俺の首に腕をかけ、頭を近寄せる。
「春成…! 俺たちの聖域に呼んじゃったら次からも来ちゃうだろ…!」
「なるほど。天才だお前は」
遼太郎の作戦だった。ゲーセンは俺たちの聖域。真剣に峠を競っているのだ。そこによく知らない女性を連れて行くのは確かに彼女らも暇になるだろう。
……あれ? 何で連れて行く前提?
「そうなの。じゃあ、私達も着いて行って良いかしら?」
「い、いいよ!」
遼太郎が返事をする。
おい、遼太郎。あいつ今私達って言ったぞ。
「行ったわね?」
浜松さんは携帯に素早く文字を打ち込む。
「少し待ってね」
浜松さんにそう言われて俺たちは、帰る準備をしながら、教室で待った。
数分後。
「私も行く!」
教室に入ってくるなり、俺たちの所に来てそう言う女子生徒。高橋さんだ。
その目は遼太郎をじっと見て、連れて行って欲しいと訴えかけている。
「あ、うん。一緒に行こうか!」
「やった!」
小さくガッツポーズをする高橋さん。
それ、見えてますよ。言わないけどね!
「じゃあ、行くか! クレープ!」
俺もそう言っておく。どうせ行くなら楽しまなければ損だ。
ゲーセンは別の時にでもいけるしな。
「そうね。行きましょうか」
「おー!」
俺たちは元気いっぱいでウッキウキの高橋さんに続いて教室を出た。
やってきたのは俺たちの高校生がよく出入りしている大きな商店街。昔からある商店街で一時期は廃れていく一方だった。
しかし、幸い、シャッター商店街にはなっておらず、数年前から知事が力を入れて商店街復活に取り組んだおかげで今や人気の商店街だ。人気ブランド店やチェーン店、流行りの店など様々である。
俺たちはその中のクレープ屋を目指して商店街内を歩いている。
「ね、遼太郎君。遼太郎君は何クレープが好き?」
「俺はチョコバナナかな~」
「そうなんだ! 美味しいよね! バニラアイスとかトッピングするともっと美味しいよ!」
「まじか! 今日それやってみるわ!」
前を歩く二人は意外と楽しそうだ。案外合うのか…?
「ねえ、あなたは何が好き? 小野寺君」
「…あ、俺?」
前の二人を見ながら歩いて居ると隣の浜松さんから好きなクレープを聞かれる。前の二人に感化されてのことだろう。
「そうだね~、…イチゴとかバナナとかフルーツ盛りだくさんのやつ」
「そうなの。私も、そういうの好きよ」
「へ~、意外だね」
「意外?」
「いや、あんまりスイーツとか食べなさそうだなって思って」
「…?」
「今日だって高橋さんと遼太郎をくっつけるために来たし、呼んだんだろ?」
「……うわよ…」
浜松さんが何かを小声で呟いた。でもマスクのせいも合ってかうまく聞き取れない。
「ごめん、なんて?」
「……そうよって言ったの」
「いや~、あの二人くっつくかね~」
「………」
「?」
浜松さんが疎ましげな目で俺を見上げてくる。
な、何か失礼なことを言ってしまったのだろうか…。ちょっと不満げだ。
「お、着いた着いた」
俺が浜松さんの顔を見て困惑していると、前を歩いていた遼太郎が足を止めた。
「お、着いたか」
俺も合わせて足を止める。もちろん女子ズ二人も。
「さてさて、どれにするかな~」
俺たちは思い思いにクレープのメニューを見てどれにするかを話し合う。主に高橋さんは遼太郎と。俺は浜松さんと。先ほどまでちょっと不満げだった浜松さんもクレープを見ると機嫌を直したようで目を輝かせている。
やっぱり女の子なんだなぁ。
結局、遼太郎は言っていたチョコバナナにアイスを乗せたクレープ。高橋さんはチョコにイチゴをかけたもの。俺はソルトアイスなるものがのったクレープ。浜松さんはフルーツ盛りだくさんのやつ。ほんとに好きなんだ…。
商店街の近くにある公園で俺たちはクレープを食べている。冬と言うこともあり、アイスが少し寒いが、美味い。俺の頼んだソルトアイスはアイスの中に塩か何かが入っており、甘みの中にしょっぱさがある。その相反する2つがお互いを引き立て、非常に美味い。
「おいしいな、これ」
「そうね。クレープはやっぱりいいわ」
浜松さんもクレープを頬張っている。ご満悦だ。
「ね、遼太郎君。イチゴも美味しいよ!」
「バナナも言ってたとおりアイス乗せたらめっちゃ美味いわ!」
向こうも順調のようだ。
今日、バスケの時に遼太郎のことをいいなと思ったのか以前から思っていたのかは知らないが、高橋さん頑張ってるな…。遼太郎も遼太郎であんなに女子に心を開くなんて珍しいな。いつもは逃げるのに。
「ね、ねえ、遼太郎君。ひ、一口くれないかな…?」
「うえっ!? ほ、欲しいの…?」
おっと、高橋さんが攻勢をかけた。一口下さいか。いわゆる間接キスと言うやつだ。遼太郎はあの顔でありながらなぜか彼女が出来たことがない。女性と間接キスなんてしたことはない。少なくとも本人はそう言っていた。
「ほ、欲しいです…!」
「い、いいですよ…」
でも遼太郎はご存じの通り根は優しい。なので欲しいと言われれば断れないだろうな。
お互い緊張しているのだろう。なぜか敬語になっている。
高橋さんはクレープを遼太郎から受け取り、その代わりに自分の持っているクレープを渡した。
「わ、私だけ貰ってもアレですので、ど、どうぞ」
「あ、ありがと」
お互いに交換したクレープに恐る恐る口をつけた。
茜色に頬を染めながら。心なしか、高橋さんの方は耳まで染めているように見える。
「や、やるわね…」
隣でなんか呟いている人はちょっと無視しよう。まじまじと高橋さんと遼太郎を見て頬をちょっと紅くしている。まさか…、間接キス、したことがないのか…? 自信満々でモテてたとか言ってたくせに…?
「お、小野寺君…」
「はい」
「た、食べる?」
「じゃ、もらおうかな」
ちょっと照れながら渡してくるんじゃない! 間接キスでドギマギするとか中学生かよ!
こっちまでちょっと恥ずかしくなるじゃん!!
「じゃ、こっちも食べなよ」
「う、うん。ありがとう」
お互いにクレープを交換し、口をつける。
イチゴの甘酸っぱさとクリームの甘さが相まって華やかな味が口の中に広がる。
う~ん、美味い!!
「は? 何あれ」
そんな春成達を見る人達がいた。
面高ちひろとその一行だ。山下は部活でいない。
「あれ~? ちひろの元カレじゃん」
「お、まじじゃん。うっわ~、陰キャ同士で放課後デートか~。きっつ~」
「あれ? でもあれ、高橋さんじゃん」
「うわ、マジじゃん。高橋さん、ああいうのがタイプなんだ」
よってたかって、彼らを馬鹿にする一行。
そしてその中で唯一いらだっているちひろ。
「……」
またあの女といる。
何? 私のことはもう忘れて自分は新しい恋始めましたって? もっと私にすがりなさいよ。それがあなたの正しい姿でしょ?
春成は、持ってたイチゴのクレープを隣の女に渡して交換する。そしてそれに口をつけて食べた。
「きっも」
思わず声が出てしまう。何に対しての言葉なのかは分からない。でもそう感じたのだ。
…イライラする。本当に気に入らない。私と別れて幸せそうにしているあいつが。陰キャのくせに私と付き合えていたことに感謝して、私にすがることもせず、新しい女とイチャイチャしているあいつが許せない。
「えちょっと、ちひろ?」
「おいおい、マジかよ突撃すんの?」
「うっわ~、こえ~」
気付くと自然と足は、春成達の元へ向かって行った。
気に入らない。何もかも。あいつの何もかもが気にくわない。
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