第4話 図書館での出会い
休みの日。
俺は図書館に来ていた。もちろん学校の図書室とかではなく、市が建てた大きな図書館だ。目的は特にない。ただ、家に居たらちひろのことを思い出して落ち込みそうだなと思ったからとりあえず外に出て図書館に来ただけの話だ。
図書館の中は暖房がよく効いており、暖かかった。しかし暑すぎることもなく、ほどよい温度を保っている。
さて何しようか…。
さきほども言った通り、来てみただけだ。だから特に目的がない。
図書カードも家に置いてきたので何かを借りることもできない。
ま、図書館だし本でも読むか。
俺は書架を練り歩き、小説の書棚にやってきた。
読むなら小説。歴史書とか世界のなんちゃらなんて本には一切興味がなかった。多分読んでも途中で閉じて帰ってしまうだろう。どうせ読むなら面白いものがいい。
……これにするか。
目にとまったファンタジー小説を手に取る。
大分分厚いが、どうせ今日は何もないのだ。のんびりここで読んでもいいだろう。
この図書館はなんと飲食と読書を同時行えるスペースが2階に設けられている。本を汚したりしたら自己責任とはあるが。
なので俺はそこで読むことにして取りあえず、自販機に飲み物を買いに行った。
「お、まじかよ…」
自販機にはなんと『牛乳王国』のペットボトル500ml版が置いてあった。
これは迷わずこれにすべきだな。
素早くスマホを操作し、自販機で『牛乳王国』を買う。
『牛乳王国』を飲みながら、面白そうなファンタジー小説を読む。これぞ至高…!
読書スペースに入ると、午前中と言うこともあってかあまり人は居なかった。
適当な所に座り、牛乳王国を一口。
さ、読むか。
俺は牛乳王国に満足し、分厚いファンタジー小説の思い扉を開いた。
***
………。
………。
…ふう、良かった。来て良かった…。
俺はファンタジー小説を静かに、かみしめるようにパタリと閉じた。
勘でとった小説だったが、非常に良かった。特に、普段は弱気な主人公が友のために勇気を振り絞って剣をとるところが良かった。傑作だった。
「ん」
読書スペースから外を見ると、もう暗くなり始めていた。時計を見ると17時を指している。どうやら約7時間ほど、本を読み続けていたらしい。あんまり本を読むのは速いほうではないこともあるがこの本がとてつもなく分厚いことも原因の1つだろう。
途中で牛乳王国がなくなったので2本ほど買ってから戻ってきたのだ。そこからトイレ以外では席を立っていないし、トイレも2回とかしか行ってない。
帰るか。腹も減ったし。
俺は席を立ち、読書スペースを後にした。
本を元の場所に戻して、また来るのもありだなと思いつつ、図書館を後にしようとする。
「あ、小野寺君じゃない」
誰かに声をかけられる。
この声、最近きいたような…。
「?」
声のした方に振り返ると、知らない人が立っていた。
細身のデニムに、黒のニット。手にはコートとバック、本を持っている。
黒い髪を下ろし、前髪を上げている。目が少し切れ長だが大きく、鼻をすらっと通っている。それでいて口は可愛らしげ。耳にはピアスをしており、化粧もうすっらしているのだろう。
まあ要約すると、とんでもない美人でスタイルのいい人が現れたってことだ。
でも、俺こんな人知らない…。
「…えと、どこかでお会いしましたか…?」
「あ、ごめんなさい。確かに分からないわよね」
「分からない…? やっぱりどこかで?」
俺がそう言うと、その女性は斜め上を見て何かを考えた後、こちらを見た。
「この後、ちょっと時間あるかしら?」
「あ、ありますけど…」
「良かったわ。ちょっと…そうね、ファミレスにでも行きましょ」
「…え!?」
「まあまあ、奢ってあげるから、行きましょう」
その女性はそう言って、本を片付けると出口に向かっていく。
俺がその場で何が何だか分からず、突っ立っていると振り向いて手招きをする。
知り合いだったらいけないし、ついていくか…。奢ってくれるらしいし。
はい。やってきたのは緑色のところだ。
ファミリー席に俺たち二人で座っている。少しだけと言ったのになぜか大量に頼まれた料理の数々。ピザ、ドリア、チキン、パスタ、サラダ、ホウレンソウ。
目の前の美女はにっこにこです。どうしようこれ。
「あの、こんなに食べられないです。帰ったら夕食もあるので」
「え? ああ気にしないで大丈夫ですよ。言ったでしょう? 軽くと」
うん。言ったよね! 軽くって!! でもさ、軽くって言う量じゃないけど!
「そ、そうですか…」
「はい。気にしないで好きなの食べて下さいね。お代は私がもつので」
「あ、はい。ありがとうございます」
当り前だよね。だって俺何も頼んでないんだもん。しかも大体一人で食べるつもりだろこの人。これで割り勘ね!とか言われたら俺は走って逃げる。
「うん。これ美味しいわね」
もう食べ始めている。
最初はピザらしい。バクバク食べてる。口にめいいっぱい詰め込み、リスみたいに食べている。とんでもなくお腹がすいていたのだろうか? もし、そうじゃないとしてもそう思いたい。図書館で会ったときのかっこいい美人な人って印象が今全て崩れています。
あれ、そう言えば。
「あの」
「ん? どうはひまひたか?」
「あ、飲み込んでからでいいです」
「……んっん」
噛んでるのかこの人。飲み込んでからって言ったらすぐに飲み込んだぞ。アナコンダかなにかかな?
「はい、飲み込みました。それでどうしましたか?」
「いや、あの、あなたって誰なのかなって」
「…誰だと思います?」
「え、俺に当てさせる感じですか?」
「当てることが出来たら、賞賛ものですね」
なんだこの人。見た目はキリッとした顔の美人で、口調も丁寧なのにひどく残念な気がする。
「…え~と、小さい頃に会いました?」
「ん~、割と最近ですね」
「じゃあ、高校入ってからですか?」
「その通りです」
「……?」
質問してみたものの、全く分からん。
こんな美人なら忘れなさそうだが。しかも高校に入ってから会っている? まじで誰だこの人。
………。
俺が考えている間も彼女はピザを食べて…、あ、ピザなくなった。
…う~ん。
「すみません。分からないです」
「でしょうね。分かると思っていませんよ」
「………」
「私、この格好してるときに知り合いに話しかけられたことないので」
「…やばい。ぶっ飛ばしたい」
「まあ、まあ、落ち着いてください」
「……」
誰にもバレたことないとかそんなの分かるわけないじゃないか。
余裕綽々で次はドリアを食べ始めた。
ちょっとむかつく…。
「じゃ、ヒントね。…っとこうしたら分かるでしょう?」
彼女はそう言ってバックから”丸眼鏡”を取り出し、かける。そして前髪を下ろし、鼻から下を手で隠した。
「………あ! え? マジで?」
「ンフフフフフ。マジで」
ここまでされれば同じクラスなら誰でも気付くだろう。
俺が気付いたのが分かったのか、彼女は面白そうに目元が笑っている。
マジかよ。ギャップなんてもんじゃないぞこんなの。もう別人じゃん…。
「……浜松さん」
「はい、正解ですっ!」
再び髪を上げ、眼鏡を外す。てか、あれだて眼鏡だったのか…。
俺の前に姿を現した美女はなんと、クラスの端っこにいつも居る浜松さんだった…。
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