第12話 俺の幼馴染


「うい~、今年もお疲れ様でした!」


「おっつかれーい!」




 12月23日。


 土日の関係で少し早く冬休みに入ることになる俺たちはまだ授業は午後も残っているにもかかわらず、昼飯の段階でもう終わった感を醸し出していた。




「まだ午後も残ってるよ!」


「そうです。真面目に受けましょうね?」




 女性陣が俺と遼太郎に釘を刺す。


 でも実際、午後からの授業は、と言うか授業はなく終業式があるだけだ。なぜかこの高校は午前中に授業をして午後からは終業式をする。まったく何を考えているのか。




「終業式だけと考えていそうですね」


「終業式もちゃんと聞かないと!」




 そんな無邪気なことを言う高橋さん。純粋過ぎて少し心配になってきたよ。隣の浜松さんなんか見てごらん。あなたのことを見て楽しんでるよ。




「わかったわかった! うけるうける! な!春成」


「あ、うん。うけるうける」




 遼太郎はそう言って高橋さんがプンプンしているのをなだめている。


 「受けるから」とか言いながら高橋さんに説明している。




「なあ、あいつら仲良しだよな」




 ふと思った俺は浜松さんに近づいて、小声で話す。




「っ! きゅ、急に近づかないでください…」




 俺が近づいて声をかけた瞬間、なぜか耳を押さえてのけぞってしまった。


 


「え、傷つくんだけど…」


「あ、いや、そう言う意味じゃなく…。そ、それでどうしたんですか?」




 ちょっと傷ついていると今度は浜松さんの方から近づいてきてくれた。


 よかった…。嫌われていた訳じゃなかった。




「あの二人さ。あんだけ仲良かったらそろそろくっつきそうじゃない…?」


「…確かに。もうお互い好きなんじゃないでしょうか」


「…いいこと思いついた」


「え?」




 顔を上げる。




「なあ、二人とも!」


「ん、なんだ? 春成。俺は忙しい」


「どうしたの~?」




 どうやら遼太郎は高橋さんの機嫌取りに忙しいらしい。でも高橋さん、めっちゃこっちの話聞くつもりだけどな。


 まあ、そんなことは置いといて。




「明後日空いてる? 遼太郎はどうせ空いてるだろうし、高橋さん空いてる?」


「おいまて、それはいったい」


「空いてるよ! どうしたの?」




 遼太郎がなんか言ってたけどそんなことはどうでもいい。




「浜松さんー」


「空いてますよ?」




 食い気味だなこの人。




「よし、じゃあ。クリスマス会をやりましょう!」


「賛成!」


「…いいですね」


「え? 俺の予定は…?」




 クリスマス会。と言う名の遼太郎、高橋さんくっつけ大作戦だ。


 これには浜松さんも賛成のようだ。今、めっちゃなんか考えてるし、作戦でも組んでいるのだろう!




「どこでする~?」


「遼太郎の家」


「賛成!」


「…いいですね」


「じゃ、決定!」


「え、俺の意見は…?」




 遼太郎がなんか言ってるがもう決まったものは仕方ない。許せ、遼太郎。お前の幸せのためだ。


 遼太郎の家にしておけば、俺たちが帰ったあととか、俺たちが買い出しに行った後も高橋さんと二人で居れるじゃん? 最高の作戦だ!!




 こうして強引にも、二日後、遼太郎の家でクリスマス会を行うことに決まった。














 ***








「じゃあな~」


「ええ、また明後日」






 偶々帰るタイミングが一緒だった浜松さんを家に送って、帰路につく。


 丁度タイミング良く雪が降り始めた。




「冷た」




 鼻に雪がのり、体温で溶けていく。


 雪か。クリスマスに降ってくれればホワイトクリスマスになって良い思い出になると思うんだけどな。クリスマスにも降ってくれないかな。




 やがて雪はシンシンと地面に舞い降り始める。


 今日は暖かくして寝よう。一段と冷えそうな気がする。
















「春成…」




 もう少しで家に着く。


 そんな所まで歩いてきた所で声をかけられる。最近は全く聞かなかった、でもよく知ってる声。




「ちひろ…」




 声のかけられた方向を見ると、マフラーに顔をうずめ、鼻を赤くしたちひろが経っていた。一体いつから居たのだろう。頭には少し雪がのっている。




 寒そうだな…。


 風邪を引かないだろうか。少し心配になる。すこし、痩せたか?




「春成、聞いて欲しいことがあるの」




 ちひろはそう言って伏し目がちに俺を見る。


 その目には以前のような嫌悪感や蔑むような感情は込められていないように見えた。公園での一件から、ちひろとは会ってすら居なかった。学校に来ていたかも怪しい。そう思えるくらいには姿を見なかった。




「なんだ。ちひろ」




 もし、謝ってくれるなら、反省してくれているなら、戻りたい。以前のように話せるように。




 少しの期待を込めながら俺は彼女見た。














「本当に、ごめんなさい」










 彼女は雪の降りしきる中、深く、深く頭を下げた。






「ちひろ…」




 少し嬉しくなってしまう。ちひろは改心してくれた。




「本当に、ごめんなさい…!」




 声が震えている。泣いているのだろうか。


 頭を下げ続けたまま、彼女は謝る。




「ごめんなさい…!」


「いいんだ。ちひろ。頭を上げてくれ」


「いいえ…! 私は許されないことをした…!」




 俺はちひろに歩み寄る。


 ちひろが謝ってくれた。以前の様に優しくなってくれた。それだけで俺は十分だ。




「大丈夫だ、ちひろ」


「本当に…ごめん…なさい」


「ほら、まだ俺たち高校1年生だろ?」


「……」


「間違ったこともしてしまうよ。だから、顔を上げてくれ」


「でも…」


「俺はちひろが謝ってくれただけで嬉しいよ」


「春成…」




 ちひろの背中をさする。懐かしい感じだ。でもやっぱり少し痩せたかな。背骨が服の上からでも分かる。




 ちひろは顔を上げて俺の方を見た。目は腫れていて、目の下には隈がある。余程思い悩んで後悔したんだろう。もう、いいだろう。充分に彼女は反省した。




「ちひろ。俺たちさ、こんな感じになっちゃったけどさ」


「う゛ん゛」


「小さい頃から一緒に生きてきた幼馴染じゃん?」


「う゛ん゛」


「だからさ、また付き合ったりはちょっとアレだけど、また前みたいに話せるといいなって思ってるんだ」


「…ありがとう…! こんな、私とまた、幼馴染に……!」


「簡単には切れないよ。幼馴染ってそう言うもんだろ?」


「ほんどうに、ありがどう……!」




 ドバドバと涙を流すちひろ。


 そうだ。簡単には切れない縁。だからこそ幼馴染と言えるんだ。


 ちょっとやそっとじゃ絶対に切れない。絶対に切ることの出来ない縁。俺はそれが幼馴染ってもんだと思う。




「ほら、風邪引くから。もう家に帰りな?」


「うんっ…! ありがとう…!」




 ちひろは制服の袖で、ゴシゴシと涙を拭う。


 顔を上げたちひろはまだ少し涙が浮かんでいるが、それでも少しだけ晴れやかな顔をしていた。




「私、頑張るよ」


「ん?」


「また、好きになってもらえるように。魅力的な人になるよ」


「んん??」


「だから、待っててね。私、また春成のこと貰いにくるから!」


「????」




 そう言って俺の幼馴染は帰って行った。


 小さい頃によく見た、無邪気な笑顔を浮かべながら、大きく手を振って。






「ははっ」






 思わず笑ってしまう。


 小さい頃を思い出して。あの背中に、小さなちひろの姿が重なって見えた。






 




 彼女のことを好きな気持ちは今はもうない。でもそれは他者を蔑んでいた時の彼女に対してだ。でもそんな彼女はもういない。なら、もしかしたら好きになるかも知れない。


 絶対に好きになることはない、なんてことは言えなかった。


 






 




 




 














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幼馴染に釣り合わないと振られたらクラスの眼鏡女子が話しかけてくるようになった @anaguramu

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