幼馴染に釣り合わないと振られたらクラスの眼鏡女子が話しかけてくるようになった
@anaguramu
第1話 幼馴染に振られました
「ごめん、春成。私と別れて?」
乾いた空気があたりに漂い、息が白くなるそんな季節。
俺の目の前で、彼女はそう告げた。
その目は俺を見ていない。気まずそうに斜め下を見ている。
「……なんで」
心臓がバクバクと胸を打つ。
以前彼女に告白をしたときよりも激しく騒いでいる。息をするのも苦しいくらいに。
「…言わないと分からない?」
彼女は眉の間にシワを作り不機嫌そうな顔をした。そんなことも分からないのかと言わんばかりに。
…ああ、分かっているよ。君に振られる理由くらい、想像がつく。
「…いや、うん。分かったよ」
以前からその兆候はあった。
分かってはいてもやっぱり言われるのはつらい。
声が震える。あまり喋りたくない……。喋ったら声と同時に溢れてしまいそうだ。
「そう、ならこれでバイバイね。ありがとう」
「……」
「……じゃあね」
彼女は俺に背を向けて去って行く。
振り返ることはない。そしてこれから俺に笑いかけることもないのだろう。
その笑顔はだれか他の人へと向けられるのだろう。
「ありがとう」とそんなことさえ言えない自分に無性に腹が立った。
高校1年生の冬。
俺は中学校から付き合っていた幼馴染、面高ちひろに振られた。
***
「お、帰ってきたか」
教室に戻ると、俺の親友と呼べる人物、一ノ瀬遼太郎が席に座ったまま後ろを振り向きながら言った。俺の座席の前に座っており、手には小説を持っている所を見ると昼食が終わって本を呼んでいたみたいだ。
「……ああ、うん」
「元気ないな。やっぱりか?」
「うん、振られたよ」
「そうか~…」
以前から遼太郎には相談していたのだ。
ある日、廊下でちひろとその友達が話していたことを。
「まあ、なんだ、無理すんなよ」
「ぁ…ああ」
座席に座ると、遼太郎は肩をトントンと叩きながら、優しく笑った。傷心中の俺はそれだけで泣きそうになるほどだった。
今朝、急に話があると言われた時からなんとなく分かってはいたが、心にぽっかりと穴が開いたような、大きな何を失ったかのような気持ちだった。
「理由はやっぱりあれか?」
「…多分な。俺じゃだめだったってことだよ」
「気にすんなよ。俺は好きだぜ? お前のこと」
「……俺はそっちのけはない」
慰めようとしてくれているのだろう。普段は絶対言わない様なセリフを言い、ニコッと笑っている。
「大体、そんな理由で振る方がどうかしてるから、お前は気にすんなよ」
「…ああ、そうだな。まあでも、精神的にこう、くるものがあるな」
「そっか。失恋は時間が解決するって言うからな。気付けば忘れてるさ」
「そういうものかな」
「多分な」
時間が解決する。か。
時間が経つとこの今のつらさは消えるのだろうか。でもそうすればまだ、ちひろのことを好きなこの気持ちも消えてしまうと言う事だ。それはなんかちょっと嫌だなぁ。
「ほら、とりあえず飯食え、飯」
遼太郎は俺のいつものお弁当袋から弁当を取り出し、目の前に置いた。
わざわざ、蓋も開けて、箸も用意してくれている。
優しいなぁ。
「ほら、食べろよ。お姉さんが作ってくれたんだろ?」
「あ、ああ。ありがとう。食べるよ」
「うん」
姉が作った弁当に手をつける。
唐揚げを口に入れて、その後に米を入れる。肉汁が溢れてとても美味い。あ、こっちの卵焼きも食べるか。うん、うまい。ここでまた唐揚げをひとつまみ。うん、美味い。うまいなあ。美味しいはずなのに、何でだろうな。食べている気がしない。
ああ、振られるってこういうことなんだなぁ。小説で振られた青年が何も手に着かなくなるなんて所を見たけど、実際にそうなるんだなぁ。
…ああ、くそ。なんでだ…。なんで俺じゃだめだったんだ。俺と付き合ってるのが恥ずかしかったのか…? 俺がもっと頑張って、友達もたくさん作っていれば良かったのかな。
涙が溢れそうになる。俺の何がいけなかったのか。俺じゃだめな理由は何なのか。そんなことは分かっている。本人が以前、言っていたのだ。「私と春成じゃ釣り合いがとれない」と。知っているさ、そんなことは。
中三の卒業後、うんと可愛くなったもんな、ちひろは。人見知りもいつの間にか克服して今や学校の人気者だ。対して俺は中学校のときから、いや、小学校のときから変わらず静かに本を読んだり勉強したりしているだけ。きっと、面白くなかったんだろうなぁ。
…くそ。今すぐ家に帰って布団にくるまりたいなぁ。
「お、そろそろ食べ終わるじゃん」
「え…」
遼太郎の言葉で我に返り、手元の弁当を見る。するとそこにはもう唐揚げ一個しか残っていなかった。
「終わったら俺は静かに本でも読んでるからな」
「…分かった。ありがとう」
「おうよ!」
俺が唐揚げを食べ終わると、遼太郎は前を向いて再び本を読み始めた。
俺は弁当を終い、机に突っ伏した。何も考えたくない。そういう俺の意図を遼太郎は感じ取ってくれた。こいつは本当にいい奴だな…。
俺は机に突っ伏している内に、いつの間にか微睡みの中へと落ちていった。
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