第12話 マロトと衝突
この数日、教室内でちょっと様子がおかしい所がある。
トールとマロトが毎日言い合いをするようになっていた。
それに以前までのマロトと違ってやけに冷静に見える。
マロトは頭が良い方だが感情のコントロールが上手い訳じゃない。
それなのにトールと言い合いをしているマロトは滅茶苦茶煽ったり馬鹿にしているが余裕そうに見える。
一方でトールの方は相変わらずで無鉄砲で感情のコントロールが出来ていない。
あれを見る感じだとマロトの方に何かがあったのだろう。
もしかしたら既にロウ・セブリスに何かを吹き込まれた後なのかもな……
ゲームの頃よりもしつこく突っかかってるけどゲームと違うのは今更だな。
にしてもメリルの心労が目に見えて分かるなコレ……
毎回毎回トールを落ち着かせてマロトにいやらしい目で見られながらも頭を下げる。
クラスメイトも基本我関せず、寧ろこの状況を楽しんでるみたいだしな。
全然関わりの無い俺ですら疲弊しているのが丸わかりだぞ?
メリルがトールを止めている理由をトールに説明していないとは思えない。
だとしたらトールは何であそこまで過剰に反応するんだ?
やっぱり正義感からなのか?
ていうかこの状況はちょっとまずいな。
マロト・ララース及びマロト公爵家を潰す為に男爵家だが『賢者』と言う事もあり人脈が滅茶苦茶広いアルスが協力してくれるんだが……
あの二人が話してる所を見た事ないぞ?
トールがマロトとの模擬戦で勝利した頃にアルスがトールの強さに興味を持って仲良くなっていってたはずなんだが……
「キース君?あの人達の事を最近よく見ていますが気になるんですか?」
俺が考えに耽っているとセリアスに話しかけられた。
「そうだな、ちょっとうるさいなって思って」
「ふふっ、本当ですか?」
「ん?どういう意味だ?」
「キース君は優しいですよね?自分ではそう思って無いのかも知れませんが」
優しい?何故急にそんな話になるのかは分からないが、俺が優しくするのは俺が気に入った人と味方だけだぞ?
どうでも良い人は別にそこまで優しくしようとは思っていないのだが……
「何を思っているのか分からないけど俺は別に優しくなんてないぞ?」
「そうですか?でもさっきのキース君は明らかに心配そうな顔になってましたよ?表情に変化は余りありませんでしたけど私には分かりましたよ」
心配か、確かにメリルの心配はしてたな。
サーラといいセリアスまで……何でこんなに俺の気持ちに気付けるんだよ。
「まぁ、そうかもな……」
「やっぱりキース君は優しいですよ♪私は直接動けませんがキース君が助けたいなら裏から協力しますよ♪」
「……その時はお願いするよ」
「はい♪」
助けるか……
俺が関わる大義名分が全くなかったのもあったし、マロト・ララースとの件は俺が関わる必要なく解決すると思っていたから放置していたが、そうも言ってられそうにないかもな。
トールも冷静には見えないしアルスも全く興味なさそうだし……
◇
――放課後になり帰ろうとしていたのだが、サーラとセリアスはどうやら30分位用事があるとの事だったので俺は待つことにした。
「ちょっと忙しくなりそうだな」
学園襲撃まで約二週間、メリルの事に関しては場合によってはそれより前に動かないといけない可能性すらある。
俺はアルスみたいに伝手がある訳じゃないし、調べるなら俺が直接調べるしかない。
セリアスにその情報を伝えれば後は片付けてくれるだろう。
幸いララース領の近くには行った事があるから1日丸ごと使えれば調べる事は出来るだろう。
しかし次の休みは一週間後だ……ちょっとタイミングが悪いんだよな。
俺がそんな事を考えながら教室に戻ると誰かが激しく言い合いをしている声が聞こえて来た。
「てめぇ!!!それ以上ふざけた事は言わせねーぞ!!!」
言い合いをしていたのはいつも通りトールとマロトなのだがマロトがトールの近くで何かを囁いた瞬間トールが怒り出してマロトに殴りかかった。
メリルにも聞こえていたのだろうか?酷く顔が青ざめている。
(ドンッ)
マロトは避けようともせずに殴られて床に倒れた。
その後暫く三人にしか聞こえない位の声で話していて俺には全く聞こえなかったが、トールは怒っているが戸惑ってもいる感じで、メリルはもっと顔が青ざめている。
そしてマロトはニヤニヤしながらメリルの手を掴んでその場を連れて離れようとしていた。
トールはそれを止めたいが出来ない……そんな感じで今にも暴れそうな表情をしている。
クラスメイト達から見たら今回の件はトールが一方的に暴力に出てマロトはやり返さずに落ち着いて対処しただけだ。
貴族云々関係なしにしてもトールが悪く見えるだろう……
メリルを連れて行って何をするかは明らかだな……
「はぁ、また俺の評判が悪くなっちゃうかなこれ……まぁ仕方ないか」
そう思いつつも俺はマロトの行く手を妨げる事にした――
「なぁ、マロト・ララース、その子を連れて行ってどうするつもりだ?」
「はぁ、なんでそれをお前に教えないといけないんだ?」
「ならいいけど俺はメリルに用があるからマロトに連れて行かせる訳には行かないんだよ」
「それだったら後日にしてくれない?こいつは俺と行きたいらしいからさ、な?」
マロトはメリルにそう問いかけた。
メリルはその解答として酷く震えながらも小さく頷いた。
さっきの会話の流れが分からない以上俺が口を挟むのもおかしな話だ。
今の状況は皆から見れば俺がただただマロトに突っかかっているだけにしか見えないだろう。
悪評だらけの俺と裏ではゴミみたいな事をしてるが表では貴族たちに良い顔をしているマロト、皆が信じるのは間違いなくマロトだ。
この方法は出来ればしたくなかったが、いきなりの事過ぎてこの方法以外思いつかない……
「無理だな。俺が先に目を付けた奴をお前に汚される訳にはいかないんでね」
俺がそう言うと教室に残っていたクラスメイト達がどよめいた。
「え?マロト様から女を奪おうとしてるって事?」
「ていうかマロト様あの女を狙ってるってなんで確信してるんだろ」
「確かに、でもキース・グリッドだし横暴なやり方で女を自分の物にしたいだけなんじゃ?」
「それはあり得る。てかそれでしょ」
「顔が良いだけに残念過ぎるよね……」
「流石にあれは無いよね、あの見た目で正々堂々と女を堕とせないってそうとう性格終わってるんでしょ」
「でもあの子聖女でしょ?あんなに勝手な事言って大丈夫なのかな?」
「聖女でも庶民だよ?あの子を認めている貴族は僅かしか居ないし大丈夫でしょ」
「そうだよ、庶民の癖に可愛いのもムカつくしどうなってもいいでしょ」
聞こえてるっつーの……まぁそれでも相手にしないで俺が無視してるから皆気にせず言うんだろうな。
てかメリルは毎日こんな事を言われてのか?聖女だぞ?俺と大差ないんじゃないかこれ。
まぁ今は外野を気にしてる時間は無い。
「ははは、面白い事を言うね君は、でもそんな勝手な事許される訳無いよね?こっちは同意のうえで一緒に行こうとしてるんだぞ?」
マロトはニヤニヤしながらそう返して来た。
同意ね……あくまでそういうよな。
「マロトの用事は本当に今日じゃないといけないのか?」
「あぁ、当たり前だろ?」
「そうか、でもそれは俺も同じなんだよ」
「はぁ?だからこっちは同意済みでそっちはお前が一方的に言ってるだけ、分かる?この違い?」
はぁ、一見こいつの言ってる事は間違ってないから尚めんどくさい。
いきなりの事で対策を思いつかなかった俺にも問題はあるが……ここはメリルに決めてもらうしかないか?
「ようするにメリルが俺の言う事に同意して俺と来たいと言えば良いんだろ?」
俺がそう言うとマロトは大笑いした。
「フハハハハ、あぁそれで良いんじゃない?てかそんな事があれば今日は譲るよ?絶対に無いけどね?ね、メリル?」
マロトは馬鹿にしたような笑い方をしながらそう言った。
クラスメイト達もクスクス笑っている。
誰もメリルがマロトじゃ無くて俺に着いて行くとは思っていないんだろうな。
ここからはメリル次第だ。
悪評だらけの俺と来るか上っ面だけ良いマロトと行くか……
悪役で最低最悪の公爵家3男に転生したのでゲーム知識で自由に生きていく 青猫 裕 @aoneko_yuu
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