第11話 マロト・ララースの狙い


★メリル(side)


 私とトールは学園の授業が終わったので寮に帰っていた。


「なぁ?メリル?最近ちょっと暗くないか?」

「え?あっ、ううんそんな事ないよ?」

「んーそんな事ないと思うけどな?時々上の空って感じだしさ」


 正直に言うと最近は考える事や大変な事が多くて疲れている。

 でもこれはトールに言っても解決出来ないし、ただただ心配をかけるだけだから言う訳には行かない……


「そんな事ないよ?それよりトールはどんな感じ?最近かなり頑張ってる様に見えるけど」

「そうだな……いろいろあるんだよ、それにそうしないと落ち着かないからだよ」


 トールはやっぱり常に前を向いて歩けて凄いな。

 ちょっと危うい時もあるけど貴族相手でも私みたいにびくびくしてないもんね……

 まぁ、悪い方向に行く事も少なく無いけど。


「トールは強いよね……心が」


 私がそう言うとトールは少し間を開けて答えた。


「分からねー、俺は庶民とか貴族とかそんなもので虐げられる……それが嫌いなだけだ、だから俺は俺が正しいと思った行動をしてるだけだ」

「そう……でもね……」

「ははは、何あほな事言ってんだよ」


 私の話に割り込んで誰かが話した。


 振り返るとそこには良く私をいやらしい目で見て来るマロト・ララースさんがいた。

 私はこの人が凄く苦手です……


「またお前か!何なんだよ?何で俺達に突っかかって来るんだよ?」

「それはお前たちが庶民だからだよ?庶民の癖にSクラスとか身の丈に合わないと思わないか?」

「それは学園が決めたんだぞ!俺達はしっかりと努力してきたんだよ!」

「そんな事はどうでも良いんだよ?庶民って事実だけでそう言うには十分なんだよ、お前の強さ何て興味無いんだよ」

「その俺に負けたお前は何なんだよ?」

「だからあれはお前がズルしたからだろ?クラスメイトの反応を見てなかったのか?」

「はぁ、頭の悪い貴族には付き合ってられないよ……」


 いくら煽られたからと言って貴族、それも公爵家の人に面と向かってその言い方はまずい。


「トールそれは……」

「君は黙っててくれる?」

「……」


 そう言って私の方を見る彼の目は……凄く気味が悪かった。

 私の苦手な目……貴族から良く向けられる私をなめ回すような目……私を利用しようとする目……

 私が庶民だからって言って貴族の大半がこの目だ……私だって好きで『聖女』なった訳じゃ無い。


「それでさっきの発言はどうかと思うよ?頭の悪い貴族?そんな事いっちゃっていいの?」


 マロトさんはにやにやしながらそう言った。


「は?事実だろ?」


 トールの悪い所が出ちゃってる……正義感が強いのは良い事だが、今は違うよ……

 私達はただ学園に守られてるだけで外に出ると貴族相手だと何も出来ないんだよ。

 それに私は『聖女』だからまだましだけど、トールはそうじゃ無いんだから……


「やっぱり馬鹿だね君」

「は?お前が……」

「トール!もう行こ!」


 私は止めないとと思ってトールの発言を遮った。


「すいません、マロト様……私達は用があるので失礼しますね」

「良い訳無いだろ?大体庶民のくせに貴族に意見するなよ?」

「貴族だからって……」

「すいません、本当に急いでるんです……」


 私は再びトールの発言を遮った。


「ふーん、意外と簡単そうだな……」


 簡単?一体どういう意味?


 マロトさんが私に近づいて小さな声で言った。


「その馬鹿と一緒にいると君も痛い目にあうよ……俺の所に来れば守ってあげるからね」


 ニヤニヤしながらそれだけ言って去って行った。


 背筋が凍るようだ……

 今日のキースさんの言葉を借りて言うとマロト・ララースは間違いなく信用してはいけない貴族だ。


「メリル?どうしたんだ?」

「トール……いくら馬鹿にされたからって貴族相手にあれはマズいよ……」

「なんでだよ?間違ってる事は言ってないだろ?」

「それでも貴族に相手だと私達庶民は何も出来ないんだよ?」

「学園では関係ないだろ」

「学園ではね……外に出た時に狙われたらどうするつもり?」

「大丈夫だ!そのために努力してるんだ!俺は悪に屈服したりしない!」


 そんな簡単な話じゃないんだよ……


「とにかくダメ!少しは我慢してね!」

「はぁ、まぁ、分かったよ……」


 本当に分かってるのかな……


 


★マロト・ララース(side)


「くははっ!!!」


 思ったよりあの女を手に入れるのは難しそうじゃ無いな。

 あいつはやけにあのトールっていう庶民に気を許しているみたいだし、それを利用してあの男を餌にすればいいだろう。


 あの女は庶民だが見た目だけはそこらの貴族より遥かに良い。

 

「はぁ、『聖女』ってのがネックだよな」


 『聖女』じゃ無かったらとっくに無理矢理手に入れていただろう。

 それもできなくは無いが後始末がめんどくさそうだ。

 だからあの女が自分から俺の所に来るように立ち回る必要がある。


「ラッキーだな。あの男がいてくれて、ふはは!」


 早くあのクソ庶民の悔しがる顔が見たいよ。

 あいつに受けた屈辱は絶対に晴らしてやる!


「にしても、本当にあいつの言う通りだな……」


 あの庶民に負けた後、クラスメイトをどうやって味方に付けるかや、あの庶民を煽れば簡単に女を手に入れる事が出来るって言われて半信半疑だったが本当だったな。


 後はどうやってあの男に問題を起こさせるかだよな……

 まぁそれは今から考えるか。


「ふははははっっっ!!!!」


 ほんと楽しみでしかたないよ……

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