第8話 3皇帝、それぞれの成の果て

●あれから数か月、地区予選大会初日



「はじめ!今日が初戦だ万年初戦負けのチームとは言え油断は禁物だ気合入れていくぞ!!」


「お―――う!陣も頼りにしてるからな!」


俺は必死に練習に喰らいつき、レギュラーポジションを勝ち取った


「はは、皇帝に頼られるとか恐れ多いな」


【ハハハハハ】良いチームだ、明るい中にも競争があり、お互いを尊重する雰囲気が皆を貪欲に成長させる・・・準レギュラーのメンバーも他の高校なら余裕でレギュラークラスだ




両校が入場する・・・そこには見たことの在る奴がいた・・・


「よぉ~はじめぇ~名門高校の11番の着心地はどうだぁ~~?」


「翔・・・お前・・・何で・・」


数か月ですっかり人相の悪くなった翔は俺に対し威圧的な目で睨み付けると


「あぁぁん!お前と同じでサッカーするために転校したんだよ!!ただお前と違いこんな弱小高校だがなぁ」


翔の言葉にチームメンバーも顔をしかめる・・・


「お前・・自分のチームメイトに対して・・・」


「はぁ?本当の事だろ、この試合も所詮お遊びだろうよ、負けて当然・・・さっきもミーティングで全力を尽くそうだとさ」


「・・・・・」


「笑いたきゃ笑えよ・・それでも俺は感謝してるぜぇお前ともう一度やれんだからなぁ」


【そこ!私語は慎みなさい!!】審判に注意され捨てるように言葉を吐く翔「思い知らせてやるよ・・・・」




【ピィィィィ】試合が始まった、翔のチームが先攻だしかし練度が桁違いだ、すぐにパスをカットされ此方のボールトなる


右サイドを駆け上がりゴール右手前でトラップすると、先行してゴールへ駆けだしているFWの頭に併せてパスを蹴る


【くらえぇぇぇぇ】パスを蹴った瞬間に後ろから足に強い衝撃が走る


おれはたまらずその場に倒れ込む


【ピィィィィィ】ゴールの笛とファールの笛が混じって聞こえる


悶絶する俺の横で翔が審判に訴えてる


「はぁ?ワザとじゃないでしょ?ボールとカットに行っただけでしょ」


イエローカードを掲げられ「ちっ!」


舌打ちをしながら自陣に戻る翔は蹲る俺のを一瞥するとニヤリと笑う


「はじめ!!大丈夫か!?」


「ああ、大丈夫だ・・・」しかしソックスからは血が滲む


「無理するな!大会はこれからだ!」「ああ無理そうなら頼んだ・・でもまだ行ける」




試合が再開されたが、その後も翔の執拗なタックルや足への蹴りは続きとうとう2枚目のイエローカードが掲げられる


「あぁあ、退場かぁ~」ピッチで蹲る俺を見てニヤニヤしながらピッチを去る翔の先に私服の紫苑の姿があった


俺の方を見て悲しそうに何か言おうとしたが、翔に肩を抱かれてそのまま通路の奥に消えてった


俺は此処までと判断されベンチに下がった「はじめ先輩!こんなになるまで・・・」「私が相手のチームに抗議に行ってくる!!悪質すぎだ!」


元々格上の俺らのチームで11人対10人では試合になるはずも無く9対0の大勝で初戦を突破した




処置を終え治療室からでるとそこには・・・


「がんばったね・・はじめ・・・その・・久しぶり・・・」ぎこちなく語り掛ける葉子がいた


「そ、その応援に来たぞ・・はじめ・・翔の事は本当にすまない」その横には大樹の姿も


「翔は青高を転校したんだろ?大樹お前のせいではないよ・・」


「そ、そうだが・・翔があんなになったのは俺にも責任が・・・」


俯く大樹に片足を引きずりながら近づき肩を叩く・・・「責任か・・・俺達はまだ学生だ・・責任を感じるにはまだ若いとおもうがな」


「うっうっ・・・すまない・・ごめんな・・・はじめ・・お前が羨ましくて・・恨めしくて・・妬んで・・・」


目頭を押さえ泣く大樹の肩を叩くと、葉子の方を向く


「そっか・・お前等つきあってるのか・・・幸せにな・・葉子・・」


俺の言葉に驚き「ぷっ・・・アハハハ」「ふっははは」急に大樹と葉子が笑い出す


「何言ってんの?大山君とは付き合ってないし偶々客席で席が近かっただけ、勘違いする癖相変わらずだね」


「そうだぞ!俺はもうしっかりと葉子君に振られてるからな!」


その割に清々しく笑う大樹を呆れた様に見る葉子


「俺は先に出てるから、ここからは二人でゆっくりな・・・またな、はじめ」


そういうと大樹は治療室の廊下から見えなくなった



「そ、その・・葉子がここに応援に来てるって事は・・・その・・・」


おれが戸惑いながら訪ねると


「もう!!察しが悪い義兄ちゃんだ!!」そういうと俺の顔を挟みあの日の様に口付けをする


「私は重い女だからね、簡単に諦めたり心変わりしたりしないの、私が好きなのは、今も昔もはじめだけだよ!」


「ああ、ありがと葉子・・・」


そして今度は俺の方から口づけをする、足が痛むのでフラフラして恰好が付かないが涙ながら俺を抱きしめてくれる葉子を俺も強く抱きしめる




俺は葉子の肩を借りながら競技場の外にでる・・・すると今一番で会いたくない奴に出会う


「よぉ―――~赤羽の11番、足を引きずってどうしたよぉ~」


ニヤニヤ笑いながら俺の方へ歩み寄る翔・・・紫苑は翔を引き留めようとするが鬱陶しそうに払いのけられる


「勝利の余韻はどうだぁ?まぁその足で次の試合出れるか分かんないけどなぁ、アハハハハ」


この半年で此処まで人が変わるのかと・・・恐怖すら覚える

青高で一緒にボールを追いかけて泥だらけになり笑い飛ばしていた親友の面影はもうない


「お前こそ、こんなサッカーしてて満足なのか?」


「ああぁん?どういう意味だぁ?」俺の指摘に頭では理解できてなくても心が動揺してるのだろう必死に止める紫苑を押しのけ俺の目の前で睨み付ける


「そのままの意味だ、そんなサッカーしてて満足なのかと聞いてる」


「ああ満足だね!俺のサッカー人生を無茶苦茶にした、お前の大会を台無しに出来て俺は満足だね!!」


俺を支える葉子が翔を睨み付ける


「高田君、哀れだね・・・・」


「はぁ?葉子なに舐めた事ぬかしてんだ!!てめぇ」


【バゴッ!!】翔は急に殴られ倒れる


「だ、誰だ・・・って大樹・・・てめぇなにしやがる!!」


「うるさいこの大馬鹿野郎!!!」

大樹は倒れた翔の上に跨ると翔の顔面を何度も殴った


「ごって、てめぇぐっ大樹、な、うぐ殴るなら、あ、ぐっアイツだ、ぐっへ、アイツだろ!!」


大樹は翔を殴りながら涙を浮かべてる


「お、お前は大馬鹿だ・・・青高でサッカーが出来なくなったのは俺達のせいだ、それをはじめに逆恨みして!!」


「こ、こいつが、俺達の謝罪をうけいれて許すとだけ言えば俺達は・・」


「じゃぁ今のお前はなんだ?全く許せてないじゃないか!!しかも逆恨みで・・・葉子君の言う通りお前は哀れな負け犬でしかない!」


「て、てめぇも負け犬だろうがぁぁ」


大樹は手を止めて静かに翔をみると


「ああ、俺は負け犬だ・・・男としても葉子君に選ばれなかった「大山君・・・」サッカーでも結局高校では何も残せないまま終わるだろう」


「ぎゃははっは、ほれぇ~お前も同じ惨めな負け犬だぁ」


「だが、俺は大学でもう一度サッカーと向き合う・・「なっ!?」はじめと同じように新しい環境で一からやり直す」


「はぁはぁぁ?それなら俺だって・・「無理だな・・お前には・・」な、なんでだぁ!!」


大樹は立ち上がり何処かを指さしている、すると此方に駆けてくる翔のチームも顧問と大会運営のバッジを付けた人が駆け寄る


「高田・・・「ちっなんだよ、お飾りの顧問がなんだぁ?」お前に伝える事がある、お前は今日限りでサッカー部を追放する」


「ふっはははは、これはいい!良いぜこんな弱小チームこっちから辞めてやらぁ大学で活躍し「それは出来ない」・・・はぁ?誰だてめぇ」


「私はサッカー協会で大会の運営をしてる者だ・・・君の故意の危険なプレーは到底看過できない、よって君は今後国内の公式の大会への出場を一切禁止とすることを協会で決定した」


「え?どういう事だ?禁止?うそだろ・・・ちょっとまてよ!高校生では無理でも大学生・・社会人なら・・・」


運営委員の人も呆れて溜息を吐く・・・


「君わかってないんだね・・サッカー協会だと言っただろ・・・君は今後国内の公式の試合には一切の出場が認められない・・・自分の行いを反省するんだね」




「ふっはははは、なんだこれ・・・俺がなんで・・・あははっはは」「翔君・・・サッカーだけが全てじゃないよ見つけよう一緒に」


「うっせ―――!」翔は紫苑を平手で殴り再び俺の方へ詰め寄る、その手には折り畳みのナイフが握られていた


「け、警察!!警察を!!」急な展開に慌てる顧問と協会関係者


「最初からこうすれば良かったんだ・・・はじめ・・・死んでくれ」

自分の腹の前にナイフを構え、狂気を宿した目で俺へ向かって突進してくる


「はじめ!!」咄嗟に俺の事を庇い抱き着く


「どけ!!葉子!!」そんな葉子と体を入れ替えて翔に対し背中をむける形で葉子を守る、これから来るであろう痛みを想像し目を瞑る





【ドッッッ】




痛みは・・・・・こない・・・ゆっくりと目を開けると・・・


「うっっ・・・いでぇ・・いでぇよ~~・・・」


翔が前のめりで倒れ込み、何やら痛みで呻く


翔の足元を見ると、紫苑がタックルしたのか必死に翔の足に抱き着いている・・・・


皆で翔の方に駆けよると赤い血の水たまりが翔の周りに出来ていた


「いでぇぇ・・・いでぇぇぇ・・・助けてくれぇぇぇ・・死にたくねぇぇ・・・いでぇぇ」


「きゅ、救急車!!!」





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