第3話 幼馴染みと義妹を傷付けた俺


長いトンネルを歩いている様な感覚だった

そして出口は突如現れる



「ここは・・・」


「はじめ!?気が付いた!!良かったぁぁぁ」

誰かに抱き着かれる・・・


「こら!葉子!ダメでしょ!!まず先生を呼ばなきゃ!!」


・・・・誰だ?この人たちは?・・・先生?ここは・・・病室みたいだ・・頭・・・包帯・・・


暫くすると、先ほど部屋から出て行った女性が病院の先生らしき人を連れて戻ってきた


「花田君・・自分が分かりますか?答えながら、このペンを目で追ってください―――「はい、僕は花田 はじめです」では、今日は何年何月何日かわかりますか――――少し口を開けて下さい」


「わ、わわびまでん」

この人何言ってんだ?口を開けて答えろとか無理だろ・・・


「はい、もう大丈夫ですよ、ではあなたの住所は言えますか―――少し頭を左右に振りますね「東京都〇〇区〇丁目〇番地です」はいありがとうございます、頭を動かした時痛みは有りましたか?」

「いいえ、特には・・・」


そう答えると先生らしき人は先ほどの女性と向き合い話をはじめる



「花田君は今は少し記憶の混濁が見受けられますが、身体への後遺症は無さそうです」


「記憶の方は大丈夫なのでしょうか・・・」


「こればかりは何とも言えません、申し訳ございません」


その日は目覚めたばかりで簡単な検査をこなす、そして夕方に病室に戻ると



「この度は、孫を助けて下さい誠に有難う御座います」


「お兄ちゃんありがと!ミントの分もありがと!」


「娘の命を救ってください有難う御座います!」



見ると病院の先生らしき人が2名と小さな女の子・・・・正直全く分からない・・・が知り合いの様なので苦笑いして答える


それから1週間の検査治療を終えて頭の混乱も収まり、俺は退院する


「父さん忙しいのに悪いな」


「何言ってる・・お前は小さな命を救ったんだ、誰でも出来る事じゃない誇っていい」


「ゴメン父さん・・事故の事、俺全く覚えてないんだ・・」


「・・・そうか・・お前が助けた女の子は、あの病院の院長先生の孫で、お前の担当医をしてくれた方がお父さんらしいぞ」


「そうなんだ・・全然身に覚えがないからお礼を言われてもピンとこないね」


「お前は立派だったが・・・俺達家族は心配したんだ・・帰ったら、義母さんと葉子には心配かけたことちゃんと謝れよ」


「うん・・・判ってるよ・・・」


しばらくぶりの自宅だ・・玄関先で車の後部座席から降りると既に玄関前で義母の葉月さんと葉子が出迎えていた


「はじめ、お帰り・・・無事で・・・うっうっ・・・」口元を押えて涙を流す葉月さん


「はじめ――――!!」俺に抱き着く葉子


「葉子・・・義母さん・・ただいま・・・そして心配かけてゴメン・・」


二人は首を振りながらも精一杯の笑顔で頷いてくれた、そんな中で


「はっはっ・はじめちゃん!」誰かが駆け寄り、再び横から抱き着かれる


「し、紫苑!?こんな夜に!」


「心配したんだから!!もう!無茶してぇ!!」」泣きながら叱られる


「ああ、紫苑にも心配かけたね・・・ゴメン」そう紫苑の頭を撫でてると何故か俺も涙が出そうになる


「紫苑ちゃん、もし良かったら、はじめの退院祝いで皆でご飯にするから紫苑ちゃんも一緒にどう?お母さんには私から電話しとくから」


「はい!!有難う御座います!!」


「いこう紫苑ちゃん」「うん、葉子ちゃん」二人は手を繋いで先に家の中に入っていった



「・・・・ねぇはじめ・・あの二人と何かあったの?少し様子がおかしかったけど・・」


父さんが少し離れた駐車場から帰るまでの間で葉月さんから聞かれたが


「?俺には分からないけど・・・父さんと義母さんにだけ言うんだけど、俺ここ数日の記憶が無いんだよ・・」


「!?それって・・・」「うん数日とか言ってるけど本当かも確証が無いんだ・・練習試合があった事は覚えてるけど実際に試合をした記憶はないんだ・・・」

「元の記憶が分からないから、何を覚えて無いのかすら分からないんだ、記憶を失うって漫画やアニメと違って、ハッキリしない曖昧な物なんだって、自分がなって初めて解ったよ、だからそんな曖昧な事で心配かけたく無いから他の人には黙っておいて、特に葉子と紫苑には・・・」



「そう・・でも、もしかしたら二人とその間に何かあったのかもしれないわね・・・葉子も義兄ちゃんから名前呼びになってるし・・・紫苑ちゃんは人前であんなベタベタする子じゃないかったから・・・」


確かにそう言われると違和感を感じる・・・俺の無くした記憶の中で何があったのか・・・




楽しく団欒する食卓を囲みながら俺の心は何か忘れてはイケない事を忘れてる気がしてチクチクと痛んでいた・・・




俺は翌日から登校することになった


「はじめ―――!いくよ―――!」玄関先で俺を呼ぶ声が今日も元気な葉子と


「相変わらず朝が弱いね、はじめちゃん」ケラケラと笑う紫苑


「二人とも待ってないで先に行けばいいのに・・」


「何言ってんの?ずっと一緒に登校してたじゃん!」「そうだよぉ~はじめちゃんが早めに準備すればいいだけじゃん~」



確かに・・・俺は手早く準備すると二人の待つ玄関に向かった


「それじゃ行こうか♪」「いこ―――♪」そう言うと二人が俺の腕に抱き着く


「え?!?ふ、二人とも?!普通に歩こうよっ!」


「もうぉ~どうしたの今日は?少し変だよ、はじめ―――」「そうだよ~おかしな、はじめちゃん」





昼休みにスマホにメッセージが届く


紫苑【今日の放課後あの時の返事きかせて・・】


葉子【事故の前に呼び出した件、放課後に聞かせてね】


(まずい、まずい、まずい、なんのことか全くわかんない・・義母さんの言ってた事はこれか・)



授業どころじゃない、必死に自分の記憶に語り掛けるが全く思い出せない・・・


そして無常にも授業終了を知らせるチャイムが鳴る・・・タイムアップだ・・もう正直に何のことか分からないと伝えるべきか・・


覚悟を決めて、まずは紫苑の待つ部室の裏に行く今日は部活は休みで周囲に誰もいない


言い知れない恐怖と絶望に頭がクラクラする・・

しかし向かった先には俺を待っている紫苑の姿があった


「ま、またせたな・・・紫苑・・・」


「う、うん大丈夫私も緊張してて・・その返事だよね?」


何の返事だ・・・土壇場でも思い出せない・・・俺は自分の口の中を噛んだのか血の味がするのを感じながら覚悟を決める


「あ、あの・・・俺・・・その・・紫苑に何の返事をするのか・・・分からなくて・・ゴメン・」


「え・・・どういう事・・私の事なんかどうでも良いって事・・・私の告白なんか・・・」


「え!?告白!?「もういい!!【パァ――ン!】」


目に涙を浮かべ俺の頬を思いっきり叩いた紫苑は俺の事をキッと睨み付けると走り去ってしまった


(告白・・・そうか・・・俺は紫苑に告白されてたのか・・・アハハ・・・)「アハハハハ・・・ハ・・ハ・・」


「最低だな俺・・・」そのまま自分のカバンを拾いあげ今度は葉子の待つ公園に向かう・・・


(この流れ・・恐らく・・葉子も・・・・でも・・・ここで紫苑を傷つけて気付けたからといって、知ってるような態度で葉子に話すのはフェアじゃないな・・・だったら・・」


葉子に対しても覚悟を決め公園に向かう


ベンチに俯きながら座りじっと俺の事を待つ葉子が見えた


「葉子・・・待たせたな・・・」


「ああ、はじめ・・・・うん、結構待ったよ・・紫苑ちゃんとも会ってたんだよね・・」


「ああ、そうだ・・・」


「そう・・でも結果は聞かないからちゃんと、はじめの口から返事を頂戴!」そういうとスッと目を閉じ唇を僅かに震えさしながら身構える葉子


「おれは・・・葉子になんの返事をすれば良いのか分からない・・・だから返事は出来ない・・」


予想外の俺の話しに目を見開いて驚く葉子・・・するとスッとベンチを立ち上がると俺の前に立つ


おれはギュッと目を瞑るが、何もしてこない・・・俺の横を通り抜ける気配がする・・・


「そっか・・・紫苑ちゃんにそう言ったから引っ叩かれたのか―――それで、私達の求める答えを察したけど敢えて知らないと言った訳ね・・・不公平にならない様に・・」


「葉子・・・そうじゃない・・・俺は本当に・」


「・・・・・・・・・・今日は先に帰るね・・・義兄ちゃん・・・」











その日葉子は部屋から出てこなかった・・・俺も夕飯を食べる気にならなくて、仕事で忙しい中作ってくれた義母さんには申し訳ないけど、断って風呂に入って寝る事にした



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