第5話 皇帝の居ない学校にて

俺が学校に行かなくなってから数日が経った頃、校長先生の元に来客があった駐車場に停められた高級外車に生徒も興味深々だ


「この度は、学園の支援者でもある、持田病院の院長先生とご子息の持田先生がわざわざお見えになるとは如何されましたか?」


スーツ姿の持田病院の院長と先生が手土産を持って校長室にきていた


「いえいえ、この度は私どもが、お礼にお邪魔さして頂きました」


終始笑顔の持田院長が手土産をテーブルに置き答えると


「はて?お礼?なんのお礼でしょうか?」


校長の返事に少し驚いた様子の持田親子は首を傾げ


「校長先生がご存知ないとは・・・いえ実は先日、この学校の生徒さんに我が娘が車に撥ねられそうな所を命がけで助けて頂いて」


持田院長も大きく頷きながら


「そうなんです、自分の身を顧みずに、見ず知らずの子供を身を挺して守るとは、誰もが出来る事では無いですよ、今の若者にも素晴らしい人格者が居たのだと感心しました!」


自分の高校の生徒が、そのような立派な事をしたと知って校長も満面んお笑顔だ


「おおお、我が校の生徒にそんな素晴らしい模範生が!?誰なのですか?」


「ええ、お名前は花田 はじめ君です」


「彼はサッカー部に所属してると聞きました、是非我々に微力ながら協賛させて頂きたいと思いまして、彼個人にお礼を申し入れたのですが【覚えてないので】と固辞されまして」


持田先生は申し訳無さそうにしながら

「申し訳ない事です、我々も全力で治療に臨んだのですが、頭を強く打っていて少し記憶をなくしている様で、本当に申し訳ない・・」


生徒の後遺症の話しを聞いて少し表情を暗くする校長・・・


「なるほど・・・名誉の負傷というには余りに過酷ですね・・・分かりました」


そう言うと校長は電話をして花田 はじめのクラス担任とサッカー部の顧問を校長室に呼び出した


「「失礼します」」


校長室に少し緊張した様子の二人の教員が入ってきた、持田親子は立ち上がり軽く頭を下げる


「こちらは、わが学園の支援をして下さってる持田さんだ、持田病院と言えばわかるかな?」


教員二人も学校の大物支援者の名前はしっているので、慌てて頭をさげる


「「!?いつもご支援有難う御座います!!」」


二人を見る持田親子は嬉しそうに笑い校長に向き直ると


「いえいえ、このお二人の日頃の指導のたまものですな、校長先生!」


と教員の二人に賛辞をおくる、部下を褒められて嬉しさを隠せない校長が


「いや――まだ若い先生とばかり思っていたのですが、本校の誇りですよ」


呼び出されて、急に褒めちぎられる身の上に覚えが無い二人は恐る恐る尋ねる


「・・・校長、どういう事でしょうか・・お褒め頂けるのは有難いのですが・・・」


「いや~、君たちの教育指導、サッカー指導してる生徒の花田 はじめ君が、ここにおられる持田院長と持田先生の孫娘さんを命がけで救ったと聞いてね、私も鼻が高いよ!!」


「「・・・・・」」


二人の頭の中に、焦りと不安がよぎり、黙りこける・・


「先生方、彼は記憶にすこし障害が残っていて大変だと思いますがどの様にケアされてるのでしょうか?」


記憶障害?知らない・・・聞いてない・・・ケア・・・そんなのしてない・・・そもそも花田は・・・


「い、いえ・・・・その・・・・」「花田君は・・・その・・・・」


「ん?なにかな?ああそう言えば本人を呼んでないじゃないか!持田先生すぐに彼を呼びますので少々お待ち下さい」


なにやら煮え切らない二人をよそに本人を呼ぼうとする校長は自分の電話から構内アナウンスしようとすると「おまちください!」


クラス担任から止められた


「実は・・・花田君はサッカー部を退部しまして・・・」「彼はここ最近不登校になってまして・・・・」


二人から予想してない返答に驚く校長と持田親子


「「「!?」」」「どういうことですか!?」


「そ、その・・・彼の行動がチームの輪を乱すからと・・・「やめさせたのですか!?」い、いえ!辞めたのは彼の意思であって・・・」


「そ、そのクラスでも彼の噂が「噂!?」はい、痴情のもつれでサッカー部の練習中に故意に相手を怪我させたとか・・・」


二人は青い顔をして額に汗をかきながら、なんとか上手い言い訳を考えているようだ


「本当かね!?顧問の立場で、その現場をみていたのだろう!どうなんだ!!」「い、いえ・・・そんな事は「嘘をついても彼に聞けば判りますから」!?そ、その彼は普通にプレイをしていて怪我した方の選手がラフプレイを仕掛けて自分が怪我を・・」


校長は席に倒れるように座ると、頭を抱えて絶望の表情をうかべる


「なんて事だ・・・二人とも・・・このあとしっかり責任を追及しますからね!まずは花田君に誠心誠意謝罪を・・」


そんな校内の醜態を冷ややかな目で見ていた持田親子は席を立ち


「校長、もほや此処に用は無いので我々は失礼します・・・まさか娘の命の恩人がこのような扱いを受けてるとは・・・耐えれません!」


無責任な二人の先生を一瞥すると部屋を出ようとする


「お、お待ちを持田先生!」


引き留めようとする校長を振り払い


「花田君と直接会ってきます、校長先生達は彼の名誉の回復をお願いします」


「はい!勿論です!!君たち直ぐに緊急の全校集会だ!」「「はい!!」」










●30分後の体育館


館内は緊急で集められた生徒によりザワザワしている


【しずかに!!!】校長の怒声が響き渡ると音響がキィィィィンと不快な音を立てる


【今日は大変残念な話を皆さんにしなければ、なりません】


【その前に、まず我が校始まって以来の美談を話します、先日とある生徒が登校中に小さな女の子が車に轢かれそうになるのを身を挺して助け、結果自らは車に撥ねられ入院する事になりました】


紫苑は誰の事か気付いたのか・・(え?それって・・はじめちゃんの事よね・・・)(おい紫苑、校長の言ってるあれはじめの事じゃないのか?)


【助けた子供の親御さんからはお礼を申し入れられたそうですが彼は固辞したそうです】


【彼はいいました【覚えてないから】と】


紫苑達は校長の言葉の意味が理解できない(!?え?)


【彼は記憶に障害が残っていました、どのくらいか本人も分からない範囲の記憶を無くして苦しんでいました】


「そ、そんな・・・はじめちゃんが・・・はじめちゃんが・・・【俺・・・その・・紫苑に何の返事をするのか・・・分からなくて・・ゴメン・・】・・・あああああぁぁ」


あの日の記憶が蘇る(はじめちゃんが苦しんでるのに、私は自分の事ばかり・・・はじめちゃん・・ゴメン・・・)


急に泣き出す紫苑の傍で翔が「おい・・紫苑・・どうした・・」


【そんな彼を陰で悪く罵り、仲間であるはずのチームで彼を貶めたそんな生徒がこの中にいると聞きました】


サッカー部のメンバーも翔もザワつく(!?おい、大樹俺達の事じゃねぇか!)(・・・・)(黙ってないで何とか言えよ!!)(お前が、はじめに仕掛けたんだぞ!翔!)(はぁ~!!お前も同調したから同罪だろ!!)


【クラスメートの皆さんには彼に対し憶測で陰口を言い、身を挺し人命を救い自らは後遺症に苦しむ彼を傷つけて不登校に追いやった!】


【これは皆さんだけでなく、当然クラス担任もサッカー部の顧問も、そして私も責任を取るべき問題です】


クラスメートもざわつく(嘘だろ・・・お前らが花田の事悪く言ったからだろ・・・)(私は何も言って無いよ!!)


【先に伝えときます、私と担任の先生の進退は教育委員会の方に委ねます、そしてサッカー部の顧問の先生は今日限りで顧問を辞めていただきます】


【クラスの皆さんについては、書面でこの度の事を親御さんに連絡し各家庭で反省を促すと共に、全員の内申点に今回の不誠実な対応を反映させて頂きます】


クラスの中で悲鳴が上がる(そ、そんな大事に・・・そんなつもりでは・・)(私達どうなるの・・)


【そしてサッカー部は当面活動停止です、大会も練習も練習試合も禁止とします】


この日一番のざわつきの中で悲痛な訴えが上がる「な!!そ、そんなもう直ぐ地区大会なのに!!」「俺達そこに賭けて」


【黙りなさい!!チームの仲間を冤罪で追いやったサッカー部に大会のピッチに立つ権利はありません!!】


校長からの怒声に会場が静まり返る


「お、おい大樹!!どうすんだ!」「・・・・・」「そ、そうだ!紫苑、はじめに話を・・・」「・・・そ、それは・・」「葉子君なら・・」「!?そ、そうだ義妹の葉子なら、はじめに口を聞いてくれるかも!!」




緊急で開かれた全校集会はまさに生徒も教員も阿鼻叫喚だった一人を除いて・・・


「義兄ちゃん・・・・」

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