マスクの下に隠した声と心、それを解き放ったのは彼との出会いだった

 高3女子の藤島は、自分の声が好きじゃないという理由をきっかけにマスクを外せなくなっていた。が、そんな彼女にふと同級生の男子である織原が話しかけてきて、こんなことを言うのだ。「笑ってみてよ、藤島さん」。なんとなく縮こまって生きてきた藤島の日常は、たったそれだけのことから少しずつ色づいていく。

 いろいろなこととうまく折り合えないのが思春期ですが、藤島さんはまさにそのただ中にいる主人公ですね。

 自分の声に対するささいな嫌悪感が絶対隠したいものになり、ついには封じて窮屈に生きることになってしまって。でもそこに現れるわけですよ、織原くんというヒーローが!

 人は本当にささいなことで心を動かされます。本作の魅力は織原くんに動かされた藤島さんの心が少しずつ動いていく「変化」にこそあるのです。そして、その微笑ましさが一気に転じる瞬間――結果として読者は自身の心を大きく揺り動かすのですよ。

 読後感の切なさにほろっと香る甘やかさ、極上のひと言です。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)