テーマパークにはご注意を。

シーラ

第1話


私はテーマパークが大好き。国内外、楽しそうと思えば一人で足を運ぶ。


そんな私だが。気まぐれで送った貸し切りイベントのペアチケットに当選した。一人で行っても二人で行ってもチケット代は二人分取られるので、誘う恋人も居ない私は古い友人を誘ってみた。

彼とは、学生時代は頻繁にパークに行っていた。しかし社会人になると、暑い夏はエアコンの効いた家で引き篭もる事こそ至高と断られ続けていた。


今回の貸し切りイベントも始めは断られたが、チケット代を奢ると提案すると重い腰を上げた。『貸し切りイベントだから、人が少ないので贅沢に回れる。』と言ったのが響いたのかもしれない。


貸し切りイベントはとても楽しく、お互いに学生時代に戻ったかのように張り切って回った。待ち列が無いので乗りたいものに全て乗れ、楽しい時間はあっという間に過ぎた。

閉園時間になり、楽しかった気持ちをお土産にパークを出る。近くのホテルに宿をとっているので駅に向かい、改札口を抜ける。貸し切りのおかげであまり人はおらず、今回取った宿は混む路線とは反対車線の為、歩く者は我々以外誰もいなかった。

ホームに向かうエスカレーターに乗ろうとしたが、まさかの点検中の看板が置かれて利用できない。汗をかいて疲れているのに階段は使いたくないな。


「人も居ないし、エレベーター乗ろうぜ。」


「賛成。」


エスカレーター近くに設置されているエレベーターに友人が向かい、ホームにいるエレベーターを呼ぶボタンを押そうとした時だ。


「…………!?」


真っ白な人型のモノが友人の上にフッと出現した。両手を前に突き出し、抱きしめるかのようなポーズでゆっくり降下し、彼の肩にそっと乗る。私は両目を擦ってみたが、ハッキリといる。まるでデッサン人形のような姿で、顔は無いが楽しそうにしているのを感じた。いや、ライブ会場にいるかのようなノリで踊っている。こんな幽霊を見たのは初めてだ。


「どうした?エレベーター来たぞ。」


「………あ、ああ。」


11人乗りのエレベーターはそこまで広く無いので、なるべく彼に近寄らないように角に立ち下を向く。気にしたらこちらにも来そうなので、見ないでおこう。誘われても困る。


「どうした?」


「いや。」


友人は霊感が無く、霊的な現象を全く信じない。怖がらせるなと怒るだろうから黙っていよう。

白いのは悪意が全く無く、友人の肩を組んで軽快にノっている。この幽霊、まさかパレード帰りか?エレベーター内は密室で更に暑いが、ノリノリな雰囲気で変に涼しく感じてきた。

長く感じたエレベーターがホームに到着し、私は一目散に先に降りる。振り返ると友人が不審そうに降りてエレベーターから離れると、白いのがフッと掻き消えた。すると。


「………うおっ!?何だ!?寒いっ!肩が、両肩が重いっ。全身が、お、重いっ!?」


友人が手に持った荷物を地面に落とし、体を抱えて震え出した。夜でも35℃の中、寒くて重くて堪らないと体をさすり出す。

私は心の中で念仏を唱えつつ、彼の肩に手を置いてみる。すると。


「……あれ?うそだろ。治った。」


友人は急に元に戻った体に驚き、私の肩に置いた手や周囲をキョロキョロと見回している。もういないよと言いかけて、言葉を変える。


「それは良かった。電車来るぞ。」


良いタイミングで来た電車に乗る。車両には私達だけでお互い黙って座っていると。暫くして友人が口を開く。


「なあ。見えてたのか?」


誤魔化しても仕方ないな。正直に言おう。


「エレベーター乗る少し前に、上から白い人みたいなモノが降りてきて、君の肩に手を乗せてさ。一緒に乗ってきた。でも、エレベーターを降りる時に居なくなったから大丈夫だよ。」


「マジかよ………。」


友人はシートに背を預け、揺れる電車に身を任せる。暫くそのままになった後、私に向き直ってきた。


「俺さ、霊とか超常現象系を信じてこなかっただろ?見えるお前を馬鹿にもしてきた。

だけど、先程のアレは………あんなの初めてだった。寒くて重いんだ。」


「そうか。」


「……すまなかった。」


「いいんだ。」


私は彼の謝罪が心からのモノだと分かるので、快く受けた。自分が変人だと思われているのは知ったいた。だが、それでも友人を続けてくれている彼にはいつも感謝している。


「それでさ、俺についてたのってどんなのだった?」


「え?う、う〜ん………パリピだった。」


友人の表情が変わった。これ怒ってるやつだ。


「あ?ふざけんなよ。そんな幽霊いるわけねぇだろ。」


「いや、マジ。僕も初めて見た。」


「はぁ!?俺、パリピ幽霊に取り憑かれたのかよ。」


「取り憑かれたというか、ノリノリで絡んできたというか。まあ、僕達と同じでテーマパーク帰りだったんだと思うよ。」


友人は頭を抱えて下を向く。初めての幽霊がまさかのパリピだった事に衝撃を隠し切れないようだ。


「パリピ…パリピ幽霊とか。ふざけんなよ。」


友人の呟きは、静かな車内に消えていった。

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テーマパークにはご注意を。 シーラ @theira

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