コンパクトな異世界を守り続ける

冷蔵庫って他の家電製品とはちょっと違う、わくわくどきどきがあると思うのです。扉を開けた瞬間、すっかり忘れていたおいしいものを発見して驚喜したり、カビの生えた何かを発見して驚愕したり、腐ったものは見当たらないのに異臭が鼻を突いたり。テレビという箱もドキドキを生み出す家電ですが、実物がおさまっているという点で、冷蔵庫の生々しさには到底かないません。

でも、いちどその扉を閉めてしまうと、中に入っているものは、見えず、におわず、その存在自体がきっぱりと消え失せてしまいます。開けると瞬時に現れる。まさに冷蔵庫は小さな異世界だと思えます。

「私」はそこに夏を閉じ込めました。ひと夏ではなく、なんども、なんども。扉を開ければ、いつでも、あの夏がまどろんでいるのを見ることが、嗅ぐことが、触れることが、味わうことができるのです。ただ、それは変わらないわけではありません。静かにゆっくりと変容し続けています。わずかにこの世界とリンクしているのを感じ、それは嬉しさではなく、むしろ悲しみにつながっています。

かすかにどこかから腐臭のただよう蒸し暑い夏の夜を写し取ったような作品です。