一頁の語り手

何故、君は正しくあろうとするのだろう。


何故、正解を探し求めてまで伝えようとするのだろう。


誰かに聞かれたから?


答えられないことが恥ずかしいから?


確かに君に聞けば答えてくれるだろう……だが、当たり障りのない模範解答のような正論で逃げていることが本当の答えなのだろうか。


今の君はまるで参考書のようだ。


誰でも調べれば見つけられるような答えを並べているだけの存在だ。


では、何故君に問いかけてきたのだろう……。


それは、君にしか語れない答えがあるからに他ならない。


君がこれまで生き抜いてきた人生は、君だけの冒険譚だ。


そして良くも悪くも、君のことを描き出した回想録でもある。


その一頁を知りたくて、君に問いかけて来たと思えないだろうか。


参考書には決して載っていない、調べても絶対に見つからない、そんな斬新奇抜な君だけの言葉を聞きたいのではないだろうか。


同じものを共有しようとも、そこに生まれる感情や解釈まで共感出来るわけではないことは言うまでもないだろう。


だからこそ聞きたいのだ……君にしか語ることの出来ない、その唯一無二の答えを聞くこと自体が、聞き手の冒険譚に新たな視点をもたらす一頁なのだから。


体裁を繕った文章でなく、思いの丈を殴り書いた乱文でいい……


提出する為にまとめられたレポートでなく、ノートの隅にメモされた雑記でいい……


偽ることのない君自身の言葉であれば、それを聞いた相手の人生という名の冒険譚にも君の言葉が記されて残ることだろう。


そこで記される君の言葉に対するレビューは、君の為にあるのではない。


君の元を離れた言葉は、聞いた人のアフォリズムとして輝く可能性を秘めている。


だから、何も恐れる必要は無いはずだ。


そうやって託した言葉を次に繋いでいくのだと思う……新しい未来を紡ぎだす為に。



だから君には、まだ見ぬ誰かの可能性を導く一頁の語り手であって欲しいと思う。

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紀して洩れる想いの終着点 紀洩乃 新茶 @shinchanokisetsu

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