エピローグ

エピローグ

 翌日、いつになく目覚めがよくて、早く起きたノアは、近くの公園へ散歩に出かけた。初夏の早朝の空気は清々しかった。


 公園のベンチには、偶然なのか、凍汰が座っていた。


「おはよう」


 めずらしく、凍汰から、声をかけてきた。


「お、おはよう」


 ノアは答えると、少し迷ってから、ベンチの端に腰かけた。


「王子は、おまえの時空双子は、最後に、何て言ってた」


 凍汰がいつもの調子でぶっきらぼうにたずねてきた。


「王子は、こちらへ渡る直前に、副神官ロータスから、重大な秘密を明かされていたの」


「重大な秘密?」


「強力な魔力で身を守っている、神官長アンバーの力を封印するものがあるの」


「それは、なんだ」


「悪しきものを浄化できる香料を集めて、それを蜜ろうに混ぜてにろうそくをつくって、そこにアンバーの邪心を封じ込めて、長い時間をかけて燃やし尽くすのですって。ここに必要な香料が記されているみたい」


 ノアは首にさげたアラバスター王子から授けられた銀のスカラベのロケットをあけて、その中に入っていたびっしりと象形文字の記された草から作った紙パピルスを凍汰に見せた。


「古代タムリ文字かな。これは夢惣さんに解読してもらわないと読めないな」


 凍汰はパピルスをじっと目で追っている。


「読み解けたら、探しに行くつもり、わたし」


 ノアの心もとなさげな声の宣言に、凍汰がノアの顔をじっと見つめた。


 凍汰の目には、同意を表わす強い光が宿っていた。


 ノアは心強さとともに、照れくささを感じて、しきりにまばたきをした。


 叔父の夢惣も、助手の礼基も、頼りになる大人だ。


 けれど、ノアは、今この瞬間、隣りにいる少年が、誰よりも頼もしく思えた。


 そして、もう一人の自分だという王子アラバスター。


 初夏の朝日を浴びながら、ノアは、思いを新たに顔をあげた。












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アロマダウザー・ノア 美木間 @mikoma

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