ひるねぶ 〜不眠な彼女に枕仕事を依頼されている。物理で〜

杜侍音

1.抱き枕


「では、昼寝部ひるねぶの活動を開始しますっ!」


(放課後。外から運動部の活動や吹奏楽の練習が聞こえる)

(それに負けじと久寝侑芽くすみ ゆめは仁王立ちで宣言した)


「……と言いつつもう夕方だけどねー。でも、昼でも夜でもない夕方に寝るのが一番背徳感あるって感じするよね。私だけかな?」


「じゃあ来てもらって分かる通り、今日の昼寝部は……ここ、保健室のベッドで活動します。ベッドで寝るなんて、きっと良質な睡眠できちゃうよ〜?」


「もちろん保健室の先生にはちゃんと許可もらったよ? 先生は昼寝部の顧問ですから。学校では非公式だけど」


(久寝がベッドに座ると、少しベッドが軋む)


「じゃあ、私はこっちのベッドで寝るから〜。君もこっちおいで」


「え、何いまさら恥ずかしがってるのー? い〜っぱい私と寝てきたでしょ〜?」


「まぁ、私が人肌がないと寝れない体質みたいなんだけど。だからこそ君は体温高くてとてもいい私の枕なの!」


「んもぉ、早く早く!」


(無理やり引っ張られて、久寝に乗しかかるように倒れる)

(保健室のベッドが強く軋む音)


「んっ──ふふっ、やっぱり君は温かいな〜。すごく落ち着く。君のことをギュッてしてると……んんっ……」



「──はっ! 危ない! もう寝落ちするところだった!」


「今度こそアラームかけとかないとね〜。お昼寝は15分から20分の間がベスト。30分以上寝ちゃうと脳が熟睡し始めるから良くないんだってさー。えっとスマホスマホ……」


(ポケットからスマホを取り出す音)

(スマホをタップする音)


「だから私は間をとって、17分30秒に設定しました〜。賢いでしょ〜」


「あー、私をアホそうな目で見てる〜。言っておくけど、常に学年一位。大学模試はどこもA判定。正真正銘に賢いからね?」


「そうは見えないって君はいつも言うけどさ〜。別にみんながみんな眼鏡ビシッとかけた真面目ちゃんじゃないからね?」


「それよりも勉強、教えて欲しいんでしょ? 六月入ったらすぐ中間だし。だから、対価として君は私の枕になるの」


「ほんとほんと。ちゃんと起きたら教えてあげるから」


(寝そべったままの久寝はベッドをタップするように叩く)


「ほら、横に来て。このまま覆い被さられたらひ弱な女の子の私が潰れちゃうんだから。君は抱き枕になってくれないと。ほらほら」



(ベッドの上でゴソゴソと動く二人)

(添い寝する形になった二人、久寝は腕をこちらに回している)



「ふぅ……あったかい……抱きしめていると安心するな〜」


「……それにいい匂い、私、君の匂い好きだよ。んんっ……」


(制服が擦れる音)


「はぁぁ、このまま寝れそうだよ……あとね、よしよしもしてくれると嬉しいなぁ……」


「へへっ、嬉しい……!」


「あっ、ダメっ、寝ちゃう……ぁあぁ、いいんだったぁ……おやすみなさぁい……」


(久寝はスゥ、スゥと幸せそうに寝息を立てる)




   ◇ ◇ ◇




「──んん、アラームまだか……あと何分寝れ……って、えぇっ!?」


(ペシペシと頬を叩かれる音)


「ちょちょちょ! もう18時過ぎてる! そろそろ完全下校時刻だよ!? 寝過ぎたー! 2時間も寝てるー!?」


「せっかくのアラームも意味なし……でも目覚めはすごくスッキリしてるや」


「ん? あっ、ごめんー! 今日も勉強教えれなかった……。やっぱりちゃんとしたベッドだと睡眠が深くなっちゃうね……ここはしばらく封印だ」


「それに、君が枕として優秀過ぎるんだよ。さすがは昼寝部期待の新人。もぉ、ちょっとは責任取ってよねー」


「うっ、ごめんって……! 今度こそは絶対勉強教えるから! ……だけど、また私の枕になってくれると嬉しいなぁ? なんて」


「うん、ありがと。じゃあ今日のお昼寝は終了! 帰ろっか♪」

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