8.ナイトルーティン


(扉越しに彼女の声が聞こえる)


「──ベストな枕にフカフカの毛布。室温湿度も万全、そして……」


(扉を開けると、久寝がこっちを指差す)


「君も完備! おかえり〜お風呂どうだった?」


「そんなお礼を言うほどじゃないよー。ご飯だって、ただ余り物で作っただけだし。服もサイズピッタリのがあってよかった」


「そそ。それは私のTシャツとズボンだよ。どっちもダボっとして着るやつ。なになに〜変な妄想しちゃった? 私に包まれてる、みたいな?」


「あはは、抱き合って添い寝してる時点であまり変わらないか〜」


「さっ、歯磨きも済んだし、もう後はゴロンと寝るだけだね」


(久寝はベッドに腰掛ける)


「あーでも入浴してから一、二時間経ってからの方がいいよね。深部体温が下がるタイミングで寝るのがベストっていうし!」


「私? は、まぁ先にお風呂入ったからそろそろその時間くらいかな」


「気にしなくていいって、私だけじゃなくて君にも最高の睡眠してもらいたいよ」


「確かに、寝ようと準備しすぎると逆に寝れないというけど」


「もしかして、君も同じで私がいれば寝れちゃうタイプ……?」


「そっかー。じゃあ気にしなくていっか」


「あっ、でももうちょっとだけベッドの中でお話したい。いいかな?」


「ありがと。他にも色々準備したんだよ。そのー、、とか」


「あれってのはぁー、そのー……その時まで内緒! ささっ、早く来てっ! 一緒に寝よ!」


(ベッドが揺れる)



「──君と寝る初めての夜だね。……ねぇ、電気消していい?」


(ピッとリモコンの音と同時に照明は落ちる)


「天井見てて」


(どこかに手を伸ばす久寝)

(するとカチッと音が鳴る)


「プラネタリウム。お部屋で見る用の、綺麗でしょ? 意外と高いからクオリティいいんだよ〜」


「まだ小さかった頃、これを買ってもらって毎晩見てた。一人で、いつも寝られない時にこうやって偽物の星空を見上げてさ。ずっと寂しかったな……」


「ありがとう。でももう大丈夫……だって今は君がそばにいてくれるから。それだけで満天の輝きに見えてくる」


「……好きだよ。うぅ、どうしよう、どんどん君のこと好きになっていく」


「ん? 照れてる? 君も? も〜こっち向いてよー」


「意固地だなぁ。もぉ、その気なら、えいっ」


(背中に抱きつく久寝)


「もしかしてこれ期待されてた? 君って、むっつりえっちだなぁ〜」


「……んー、でも落ち着くなぁ。こうしてるとさ、君と最初に会った時を思い出すんだ」


「覚えてる? 覚えてないとは言わせないけど〜」


「去年の秋、体育祭の時さ。睡眠不足が祟って、倒れちゃったこと。いつも仕事でいない両親にせめて何かで褒めてもらいたくて、あの時は自分を追い詰めるくらい勉強してて。寝ようともしなくてさ」


「そんなバカな私を助けてくれたのが君だったよね。保健委員だった君が私を保健室までおんぶしてくれてさ」


「背中にピッタリと落ちないように背負ってくれた時、私すっごく安心しちゃって。今まで全然眠れなかったのに、あの時ぐっすり寝れたの」


「君には助けられっぱなしだね。勉強とかもっとしっかり教えてあげないと。私ばっかり寝かせられてるし」


「他にもさ、して欲しいことあったら言ってね。私、君のためなら何でもしてあげたい」


「そのぉ、ちょっと大人なことをしちゃうってのも、もし君が求めるなら……それも準備万端だから」


「今夜は夜更かしして、してみる……?」




「……聞いてる? おーい……」


(久寝は身を起こすと、回り込んで顔を見る)


「あ、寝ちゃってる。も〜結構大事な話してたと思うのに〜。まぁ、いっか」


(久寝は頭を撫でた)


「けっこう寝顔可愛いね君。いつも私が先に寝るから初めて見たよ」


「大人なことは、いつの日かにお預けだね。でも、これだけしていいかな。──返事もないし、しちゃうけど」


(唇をつける音)


「……寝る時はいつもキス、しようね。これが私たちのナイトルーティンだよ」


「おやすみ、また明日♪」


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