3.ネックピロー


(電車の扉が開く音)


「──おっ、ラッキー。席二つ空いてるよ」


(扉が閉まると、電車は定刻通り駅を発つ)


「ふぅ〜! 今日は遅くまで文化祭の準備してたからね。そっから夜ご飯食べてーってしてたから帰宅ラッシュは避けれたみたい」


「ん? いいよいいよお金なんて! 私お小遣いたんまりと貰ってるけどあんまり使わないからさ! いつものお礼ってことで」


「だってさ、勉強教えるって意気込んでいたのに……できてないじゃん。全然。まぁ、寝過ぎが原因なんだけど」


「てことを考えると君が元凶……!? うそうそ、冗談だから財布出さなくていいから!」



「にしてももうすぐ文化祭かー。テストが終わったらすぐ文化祭ムード一色になったよね〜」


「てか意外。君ってイベントとか真面目に参加するんだね。だって、実行委員とか面倒なのに自分から手も挙げたよね。まぁ、何とか赤点回避したわけだしちょっとは余裕あるとは思うけど」


「ふ〜ん。できることは後悔しないよう全力で挑む、か。おぉ」


(久寝の口元が自分の耳元へと近付く)


「カッコいいじゃん。そういうの好きだよ」


(するとパッと離れる)


「って言うと思った? ふふ、そんな使い古された言葉じゃ私はキュンとしないぞ〜?」


「別にそんなつもりはないって……はい、マイナスポイント〜。そうじゃないんだよな〜。乙女心がまだ分かってないよなぁ〜」


「ふぁーあ。今日はまだ昼寝部の活動してないから眠くなっちゃったよ。文化祭準備期間は部活動は制限されるもんね〜」


「まぁ、確かに非公式だから私たちは関係ないけど。ノリだよノリ〜。それに制限されてる方がより眠たさ増すじゃん? 授業中に寝ちゃダメみたいな」


「そう、授業ではあんまり寝てないでしょー。というか眠くない」


「君を感じないと私寝れない体になっちゃったからね。責任取ってもらおーっと」


「肩、借りるよ。大丈夫、終点までまだまだかかるもん。先に降りるのは君の方なんだし、その時に起こしてくれたらいいよ」


「んー、眠いけど、人目ある中で寝られるかなぁ? まぁ実際寝てなくても目を瞑るだけで脳は休まるからね。これも昼寝部のプチ活動として、しっかり休ませてもらうね」


「うん、大丈夫だよ。高さちょうどいい感じ。ネックピローみたい。私たちの身体、相性いいのかもね」


「あ……もしかしてこれってさ。周りから見たらカップル、に見られてたりして。同じ高校の人とかいたりして……」


「見せつけちゃおっか……手、繋いでいい?」


(二人の脚の間で手を繋ぐ)


「君の承諾なんていらなくても、私がしたいから繋ぐけどね♪ 人肌、ちょっと借りるね。じゃあ、おやすみ」



   ◇ ◇ ◇



「ん、んん〜……駅着いた? あ、ほんとだ……終点かぁ〜んーん……!」


(座ったまま背伸びをする彼女。ふと、隣にいることに気付く)


「んんっ!? あれっ!? 何で君もここにいるの!?」


「幸せそうな寝顔だったから起こせなかった……? おぉ、そういうことも言えるんだ……」


「とりあえずこっから折り返して乗る感じ? じゃ、じゃあ私は降りるね……」


(二人は電車を降りた)


「って、君も付いて来るの!? ……あ、キセル乗車になるからちゃんと一回改札出るんだ。なるほど」


(彼女だけ先に改札口へと繋がる階段を数段先に上がると、こちらに振り返り、再び耳元に口元を近付ける)


「……そういう真面目なところが、私は好きだよ。人としてだけじゃなくて、その……──うんんん、今じゃないかこれ!」


「また続きは昼寝部の活動の時にね! とりあえず改札はこっちだよ、行こっ!」

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