2.ピローミスト
「今日の昼寝部はここ、体育倉庫でします!」
(昼休み、少しじめっとした体育倉庫)
(耳を澄ませば生徒たちの賑やかな声が微かに聞こえるほどで、室内はとても静か)
「体育で運動した後こそお昼寝だよね。もちろんお昼ご飯は食べたよ。このウィ○ーインゼリーでね!」
「もっとしっかり食べろって、仕方ないでしょー。だって早くお昼寝したかったもの!」
「だからこうして着替えもせず、ずっと待ってたのにー。ちゃっかり君は着替えちゃってさ〜」
「まぁいいや。時間は限られてるんだし、早く早く」
(積まれた体育館のマットにバフっと横になる二人)
「んー硬めのベッドって感じ。それにちょっと埃っぽいし……よいしょっと──んはぁ〜。うん、いい匂い」
(嗅いだ久寝は思わず息が溢れてしまう)
「ボディーシート? それともスプレーだったりして。でもちゃんと使うなんて偉いじゃん。ラベンダー、かな。好きなの? 私も好きだよ〜」
「ピローミストって知ってる? 枕に香りを吹きかけるミストのことなんだ。安眠効果があって、特に疲れた日なんかにはオススメなんだって」
「女子はバスケだったからさ。もう跳んだり走ったりですごく疲れたよ〜。そっちはサッカーだっけ? お互いお疲れさまだね〜」
「……えっ、だからラベンダーのにしたの? ……ほほぉ、昼寝部として板についてきたみたいだね。やるじゃん」
「──んー……もうちょっとだけ、強くギュッとしてほしいな」
「……うん、暑くないよ。むしろあったかくて落ち着く。なんだろ、体操服の方が君のこともっと近く感じられる。足とか出てるからかな」
(足を絡ませるように動かせば、マットの擦れる音がする)
「今度は君も体操服のままがいいなー。もっとあったかいと思うんだ」
「着替えなんて後ですればいいんだよ〜」
「あっ、私は汗臭くない? あと濡れてなんかないよね? 一応君が来るまでに汗拭きシートで拭いたけどさ」
「そうだ、何の香りか分かる? 当ててみてよ。首の後ろとか匂うならどうぞ」
「……んっ」
「少し、恥ずかしいかも……それで、答え分かった?」
「……正解。一発で当てるとか──ちょっとキモーい」
「……ふふん、嘘だよ。よくできました〜」
(頭を撫でられる)
「はぁ、もうすぐ夏だねぇ。こうしてエアコンのないとこで寝られるのはあと僅かだよ。どうしようか、学校で付いてるのって保健室か図書室。あとは職員室とか……忍び込んじゃう?」
「あはは、冗談だよ。まぁ、保健室とかが主な活動場所かな? でもなー、長く寝ちゃうしなー。図書室は横になれる場所とかないし、てか怒られちゃうし。それに夏休みになったらわざわざ登校するの面倒だよねー」
「……もし、良かったらなんだけどさ。夏休み、うち、来る?」
「うん、全然大丈夫だよ。親とかあんまり家にいないし、私ひとりっ子だから、誰にも邪魔されずにいっぱい昼寝し放題!」
「ねぇ、どうかな……? むしろ君には来て欲しいんだ。毎日だって大丈夫だからっ……!」
「……え、課題? 教えてくれるならって……んもぅ、もちろん報酬はちゃんと出すよ。私の枕として一緒に寝てくれるならね」
「えへへ、ありがと。てか、そんなに勉強してるのに何で君は赤点ギリギリなんだか。赤点取って夏休み補習とかやだよ、私。ちゃんと教えてあげるからね」
「さっ、夏休みの計画も立てたわけだし、もう寝るよ。昼休みは短いからね。じゃあ、おやすみ♪」
◇ ◇ ◇
(チャイムの音が聞こえる)
「──ん〜、やばぁ予鈴だ。教室、戻らないと、てか着替えなきゃぁ……」
「ぅわっ、やばっ、濡れてる……。恥ずかしぃ、汗かいちゃってるよ……」
「あれ、君も今起きたとこ? おはよ〜」
「さてさて昼休みもあと5分──……あれっ、16時……? 授業、全部終わってない? えぇっ!? また寝過ぎた!? しかも授業サボっちゃったぁ!?」
「まぁ、私は成績良いし別にこれくらい大丈夫か。それにしてもこの時間までどのクラスも体育なかったみたいで助かった〜。けど、このままだと部活で人来ちゃうよ!」
「じゃあ、私は更衣室に行くから、君はいい感じに解散ということで!」
(久寝が体育倉庫の重い扉を、自分が出られるくらいまで開ける)
「あ、放課後も昼寝部の活動はあるからね。今日こそ勉強教えないと。もちろん、寝てからだけどね♪」
「そりゃそうだよ、まだまだ寝足りないもーん。じゃあ教室で。また後で!」
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