5.仮眠ボックス


「外にいるのは……同じクラスの子だね」


(二人はロッカーから外の様子を覗き見る)

(バレないようにするため囁くように久寝は喋る)


「あの二人ってあんなに仲良かったんだー。どうする? もしかして告白シーンとか……ん? わわキ、キスしちゃった……」


「いきなり、おぉ、それに結構濃密な……わぁ……」


「もう付き合ってたみたいだね。……いいなぁ」


「ん、ん? いや、別に何でも……。それよりも、これはしばらく出れそうにないねー。ふぅ、あっつぅ〜」


(久寝はメイド服を可能な範囲でパタパタとはためかせた)


「まぁ、それもまだいいとして。……何で君は掃除ロッカーに連れ込んだのかな?」


「……思わずって、そりゃ私と君が枕の関係だなんて隠す気持ちは分かるよ? ……なんか文字にするとふしだらだね。でも、一緒に隠れなくても良かったんじゃないかなって」


「べ、別に君が嫌ってわけじゃないよ!? 隠れるのは一人だけでも別によかっんんっ!?」


(外に気付かれるかと思い、久寝を抱き寄せて物理的に口を塞ぐ)

(キスしていた男女は、一瞬音に反応して辺りを警戒するが、すぐに文化祭の騒ぎだと思い込み、再びキスをする)


「んーん! んー……むーん、んん……」


(しばらくして、外の男女は教室を出て行った)


「……ん」


(久寝は立って寝ていた)


「んっんう……。寝ちゃってた……立ってだよ、こんな狭くてあんなドキドキする状況だったのに一瞬でだよ」


「最近は立って寝られる仮眠ボックスがあるなんてニュース見たけどさ。まさかこんなところで体験できるなんてね。熟睡はできないからこそ、短時間で睡眠取ってスッキリできるみたい」


「確かにスッキリ目覚められたよ? でも、私は目覚めが不満です。何でか分かりますか?」


「違う。一人で隠れれば良かったことを怒ってなんかない」


「そう、そっち。急に抱きしめられたから唇をぶつけました、君の胸に」


(久寝は実行委員Tシャツの服越しに胸元を指でなぞる)


「もちろん私が声出しちゃったのは悪いけどさ、女の子はガラスのように丁重に扱わないとダメなんだからね。じゃあ、何するか分かってるね?」


(久寝の頭を撫でる)


「むふふ〜ん……あっ。ふん、これだけじゃ私は満足して寝れないよ」


「ぶつけたのは唇だよ……じゃあ、ケアするのはそっちだよね」


「うわっ! ちょっと直接的すぎたか! こ、これは恥ずかしいね!!」


「……は? なんか飲みに行くって……はぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「ほんと勉強しすぎ。頭固いんだから」


(久寝が少し背伸びすると、唇同士が触れ合う)

(ロッカーが揺れる音がする)


「んふぅっ、あっつ……──不思議だよ、こんなにもドキドキするのにさ、安心して寝れるのは君だけ」


「……好き、なんだよ。てか、ずっと君のことが好きだったから、こうして枕を頼んでたんだよ。さすがに気付いてよっ!」


「──文化祭終わってさ、また期末が来たらすぐに夏休みでしょ? そしたら君と会えなくなるなって。素直に寂しくて……」


「そう、恋人になったら会う口実できるでしょ! だから、まぁー……ね!」


「え? 勉強教えてもらいたかったから、会うつもりだった? もちろん枕もしてって……えぇー付き合わなくても会ってくれたの!?」


「なんだ〜じゃあ告白までしなくても私は寝れたってことか〜。って、枕頼むのに必死みたいじゃん!」


「何度でも言うけど、寝たいから君といたんじゃなくて、君と一緒に寝たかったんだからね」


「まぁ、今日から私たちの関係性はそういうことで……。そう、恋人──兼、枕」


「君がすることはあんまり変わんないかも……? でも、これより私の方が君に色々してあげられるからねっ。夏休み、楽しみにしてて♪」


「……何、妄想した? とりあえず実行委員頑張ってきて! また後で!」

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