6.ヒーリングミュージック


「夏休みだねぇ〜。外は暑すぎて死んじゃうし、こういう日はクーラーの効いた部屋でする勉強が最高だよね!」


「って、夏休みも勉強!!」


(クーラーから風の出る音)

(夏休み。恋人同士になった二人は久寝の部屋で、机を挟んで座り勉強会をしていた)


「彼女の部屋に来たというのに、することが勉強だなんてさー」


「宿題? そんなの初日で終わらせたけど。さっさと終わらせたら後は遊べるじゃん。おかげで手首が腱鞘炎〜」


「失礼な、答え写してなんかないです〜。見れば分かるじゃん。証明を全文書かないといけないとこだけ怠かったけどねー」


「えっ、もう一週間宿題し続けてるのに終わらないの……? か、可哀想……。一体どれだけ丁寧にやってるの!? 私の扱いより良いんじゃない!? 仕方ないな〜」


(久寝は隣にやってくる)


「宿題貸して。ちょっとやってあげるよ」


「あ、自分でするんだ。頑固だなぁ〜。……まぁ、そういうとこもちゃんと好きだから安心して」


「ふひひ、照れてる照れてる。もう私たち恋人だもん。好きってたくさん言うから」


「ま、これ以上聞きたかったら勉強頑張ることだね! でも分かんないとこあったら何でも聞いてね」


「そ・の・代・わ・り。分かってるよね? 夏休みも昼寝部の活動はするからね。……よし。じゃあ私は先にベッドで待ってるから〜」


(久寝はベッドへと腰掛ける)

(カリカリと鉛筆が走る音)


「──海、いつか行こうね」


(後ろから耳元に囁きかける)


「振り向いちゃダメ。私、今着替えてるから」


(ベッドでゴソゴソと布が擦れる音)


「理由は後で分かるよ。まずは集中して、その大問が終わるまでファイト♪」


(筆記音が少しぎこちなくなる。布擦れの音は変わらず聞こえる)


「えい」


(さらには彼の視界に入るように、服を脱ぎ捨てる)


「こーら、集中集中♪」


(久寝は鼻歌を歌いながら着替えを続けた)


「……ふむふむ。見る感じ全問正解かな。成長したね! たくさん勉強教えた甲斐があったよ〜」


「じゃあ、ご褒美。いいよ。振り向いて──」


(振り向くと、ベッドの上に立つ、水着に着替えた久寝)


「じゃじゃーん、水着ー! どやぁ〜、似合ってるぅ?」


「はーい、いつものお褒めの言葉ありがとうございます♪」


「実は昼寝部の目標にはねー、さざなみが聞こえる静かなビーチで昼寝するのがあるんだよー。まぁ、昨日思いついたんだけど」


「でも、外が暑すぎるからさ。ひとまず予行演習として、私、考えたんだよ。家で水着着て、海のBGM流せばいいじゃん! ってね!」


「しかも青色のビッキニ〜。青は一番寝れる色みたいだからね、そこは拘りました。この紐に付いてるリボンも可愛いでしょ〜」


(キャッキャとベッドの上をくるくる回って色んなところを見せる)


「あのー、なんかバカにしてる目で見てるけど、君より私の方が頭良いからね?」


「ヒーリングミュージックって知ってる? 自然の環境音の中にある1/fゆらぎがね、副交感神経を優位に促して、心地良さを与えるんだよ」


「さらにさらに水着に着替えることで、実際にその場にいるように脳を騙して、もっと快適空間へと集中させる、そういう理由があるってわけ」


「ほんとだよ。騙してないもん。ちょっと待って」


(スマホをフリックする音)


「よし」


(続いて海辺で聞こえてきそうな環境音がスマホから流れる)


「はい、どうぞ」


(手を広げながらベッドに寝転ぶ久寝)


「ん」


「お昼寝、しよっか。ぎゅってして」


(続いてベッドに乗ると、さっきよりもベッドが軋む)


「んふー、涼しいけど、君は相変わらずあったかいね。むしろ熱く感じちゃう」


「彼氏と添い寝できるなんてさ〜、もしかして私、これから世界一幸せな睡眠をするのでは!?」


「はぁ〜ずっとこうしてたい。もう何時間も寝れるよ。今はお昼だけだけど、いつか夜にいっぱいお昼寝しようねぇー……」


「ねぇ君、どこ見てるの……?」



「──えっち」



「まぁ、私たちはもう恋人だし。君がもし寝れなくて暇なら、好きなだけ見てていいよ」


「ま、私は寝ちゃうけど。えっちなこと、寝てる間にしちゃダメだよ。今は我慢して、まずは私を寝かせてぇ……んっん……」


「はぁ、寝れそう……じゃあ、今日もおやすみ……」


(しばらくして、海のBGMの中。ベッドが小刻みに軋む音と、冷房の音だけが静かな部屋に響く)


「んん……すーっ、ちょっとごめんね」


「……トイレ、行ってくる。ずっと水の音聴いてたら我慢できなくて……!」


(急ぎ起き上がりベッドから降りる久寝)


「またお昼寝2回戦するからそのまま待っててー! うぅ、漏れそう……!!」

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