第29話 操られた真実

佐藤大臣の計画は迅速に実行に移された。AIによる記憶ストレージシステムの監視体制が整えられ、システムは以前よりもはるかに効率的で安全とされるものとなった。その功績を認められた佐藤大臣は、ついに総理大臣の座に就くことになった。


新しい総理大臣としての佐藤は、国民に向けて演説を行った。「我々の新しい記憶ストレージシステムは、皆さんの生活をより安全に、より便利にするものです。このシステムの改良により、私たちはさらなる未来を切り開くことができるのです」


演説を聞く国民の中には歓声を上げる者も多かった。しかし、リナはその背後に隠された真実を知っていた。佐藤大臣の影の部分は、彼の冷徹な計画と権力欲に深く結びついていた。


ハンクがリナのもとにやってきた。「リナ、佐藤の計画がここまで進むとは…。君はどう思う?」


リナは考え込んだ。「私たちはシステムを改善するために働いてきた。でも、その結果がこれで本当に良かったのか、疑問に思うことがあるわ」


ハンクはリナの肩に手を置いた。「リナ、君は最善を尽くした。それは間違いない」


その夜、リナは深い思索にふけりながら、過去の出来事を振り返っていた。彼女の頭には、佐藤大臣の影の部分が鮮明に浮かんでいた。彼の計画には、単なる技術的な改善以上の目的があったのだろうか。


一方、佐藤大臣のオフィスでは、彼の秘書が報告をしていた。「総理、リナとハンクの記憶改ざんの準備が整いました」


佐藤大臣は冷徹な表情でうなずいた。「良いだろう。二人にはこれ以上の障害となってほしくない。彼らの記憶を改ざんし、すべての真実を封じ込めるのだ」


リナとハンクは、何も知らずにその夜を過ごしていた。翌朝、目覚めた二人は互いに微笑みながら仕事に向かう準備をしていた。


「ハンク、昨日のこと覚えてる?」リナが尋ねた。


ハンクは少し考えた後、首をかしげた。「いや、特に何も…。ただ、今日は新しいプロジェクトが始まる日だろう?」


リナもうなずいた。「そうね。頑張りましょう」


彼らは何も疑わず、日常の業務に戻っていった。しかし、彼らの記憶からは佐藤大臣との出会いや、真実を知った瞬間の記憶はすべて消え去っていた。リナとハンクの心には、かつての使命の痕跡さえも残されていなかった。


佐藤大臣は、オフィスの窓から外を眺めながら、一人ほくそ笑んでいた。「これで、全てが完璧に進む」


記憶ストレージシステムの真実は再び闇に葬られ、リナとハンクの生活は再び平穏に戻ったかのように見えた。しかし、その背後には、権力と野望が複雑に絡み合う物語が隠されていた。


以上でこの物語は終わりです。影を残した状態で終わることに注力してみました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「虚空の記憶」 るいす @ruis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画