くらげびと
武江成緒
夜に焦がれる
真夏の浜辺。
果てもなくひろがる砂は、天日に
その灼熱から身じろぎすらも叶わぬ
ただひたすらに。
夜の
夜の闇を。
やわらかな光をまとう白い月のまなざしを。
何よりも、その月の歌に呼ばれきて、浜をみたす暗い
夜を、
この身を内からも
それすらも。
一顧だにせぬと冷酷に示さんばかりに。
おれの
この凌虐をしかしながら、肌も、肉も、
そればかりか、抵抗すべてを
降りそそぐ熱のまえに五臓六腑をさらけ出して、ただただ
この力なきおれの身は。
白く燃えおるこの浜辺にも、海に体を
おれを
おれも人間であってみれば、周囲に群れるこやつらと
何よりも、この焦熱地獄の砂のほてりも、照り
血も、脳も、
備えていても良いはずだ。
だというに、おれの臓腑をつつむのは。
これは、ひとの
これは、
海に
おれは人間でなかったのか。
人間だとは思いあがった勘違い。その実は、
日のもとにあそび、砂をはしり、海の水へと踊りこむ、周囲のまったき人間ども。
こいつらは、おれに気づく風もみせぬ。
まれに、ちらりと横目をむける者があるかと思えば、なにか錯覚したとでも言わん
ばかりに、たちまち他所へと目をうばわれるのがせいぜいだ。
おれは、生者の目にはうつらぬ幽霊だとでも言うのだろうか。
幽霊というものが、夜の刻限のみうつし世に立ち現れる、その言い伝えは生者の誤解。
日輪が天にかがやく
あるいは記憶に無いのみで、おれは何かの罪をおかし、人間の位からはるかに落ちるこのような
人の道をふみ外し、
精神が割れる。
日輪は天頂をやや過ぎはしたものの、その熱気と輝きとはますます耐えがたいものとなり。
わが脳を
透明なこの肉は、相も変わらず光の
そればかりか、それそのものが
苦しい。
煮えたぎる湯が
一瞬、一秒、一
ここが、地獄か。
そんな絶望の断末魔さえ、もはや浮かぶその
苦しい。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦し
永劫のときが
いつの間にか、うかぶ意識が熱に燃やされなくなっていて。
天は鈍い
日輪は、
焼け
乾いた身体を
はっとするほどに近くまで、潮の唄がせまり来ていて。
やがて、暗い海ののどが、おれをざぶりと呑みこんだ。
嗚呼 ―――。
夜が、来た。
《了》
くらげびと 武江成緒 @kamorun2018
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