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「夢はきっと、とても力のあるものだと思う。それを経験すると自分の人生を変えてしまうくらいの力があるんだ。それを見る前と見たあとでは本当に人生が変わってしまうような、それくらいのすごい力がある。それがきっと夢なんだと思う」と文さんは言った。
「……自分の人生が変わってしまうくらいのすごい力のあるもの」蛍は文さんを見ていった。
「最初はかけらのようなものなのかもしれない。あるいは種のようなものなのかもしれない。でも、それはたくさんの時間をかけて自分の心や体の中で合わさったり、育ったりして、いつか本当の夢になる。古木さんが一生をかけてみる夢にね。それが夢なんだと思う」と文さんは言った。
「私だけの夢」蛍は言う。
「そう。古木さんだけの夢だ」文さんは少しだけ大きな声で言った。
世界は明るくなり始めている。
さっきまで見えなかった二人の顔はちゃんとお互いに見えるようになった。
二人は立ち止まって、一緒に海辺にたった。夜明けまでは本当にあともう少しだ。
「……でも、本当の夢を手に入れることができたとしても、その夢を叶えることはすごく大変なこと。勇気もいるし、体力もいるし、たくさんの時間もいるし、自分の力だけじゃなくて、運もいる。でも、それだけ価値のあるもの。一回きりの人生をかけるだけの価値があること」蛍は文さんを見ながら言う。
「そうだね。そうだと僕も思う。僕もそんな自分の夢を手に入れてみたい。古木さんと話していてそう思った」蛍を見ながら、文さんは言った。
二人はいつのまにか笑顔になっていた。
そのまま二人は少しの間、お互いの顔を見続けていた。
でも、ふと、蛍はなにかに気が付いたような顔をすると、「でも、遠山さん。それって夢もそうだけど、もしかしたら、誰かのことを本当に真剣に愛することも、おんなじことなんじゃないですか?」と蛍は言った。
蛍に(まるで大発見をしたようなとても驚いた顔をしていた)そう言われて、それは、たしかにそうかもしれないな、と文は思った。
太陽が昇り始めたので、二人は並んで一緒に浜辺に座った。そこで夜明けの海を待ちながら見ることにした。
「あ、ほら夜明けだよ! 古木さん」
明るい夜明けの光が世界に差し込んでくると、文さんが遠くの海を指さしながら子供みたいにはしゃいで蛍に言った。(あまりに子供っぽかったから、思わず蛍は小さく笑ってしまった)そこには蛍がずっと見たかった風景があった。その眩しい生まれたての光を見ながら、蛍はずっと、遠慮なく、思いっきり声を出して、(小さな駄々っ子の子供みたいに)泣きじゃくるつもりでいた。でも蛍は泣かなかった。その代わりに、蛍はなんだか、とってもうれしそうな顔で文さんの隣で笑っていた。(涙なんてこれっぽっちもでなかった)
帰りの高速道路の途中の道で、海にくるときにもよったパーキングエリアでコーヒーを飲みながら、二人で休憩をしているときに蛍は突然「遠山さん。もしよかったら、これから私と恋人として、お付き合いをしてくれませんか?」と文さんに言って、危なく文さんは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
文はとても嬉しかったのだけど、理由がわからなくて、(車の中で一度、告白を断られているし)「すごく嬉しいんだけど、でも、どうしてきゅうにそんな気持ちになったの?」と文は蛍に言った。
そんな文さんに蛍は「内緒です。当ててみてください」とうれしそうな顔で笑いながら、そう言った。
それから二人は恋人同士になった。
ただ文さんは二人が本当に恋人になるのは蛍が高校を無事に卒業して、第一志望の文さんと同じ大学に合格してからにしようと蛍に言った。それまではあくまで、私たち二人が、お互いのことをもっとよく知るための時間にしようと言った。そんな文さんの言葉を聞いて、蛍は大きく笑いながら、「はい。それでいいです」と文さんに言った。
遠山文さんは相変わらず出会ったときからずっと真面目ないい人だった。古木蛍はそんな文さんのことが本当に、本当に出会ったときからずっと大好きだった。
(二人の初めてのキスは、その日のお別れのときに、蛍が文さんにしたキスだった)
二人で一緒に。
にっこりと笑って。
歩き出すんだ。走り出すんだ。
蛍の恋 終わり
蛍の恋 雨世界 @amesekai
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