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二人は車からおりると、夜明けの海を見るために、まだ薄暗い海の見えない浜辺までゆっくりと歩いて移動した。(久しぶりの砂を踏む感覚が楽しかった)
夜の海はまだ少し寒かった。冷たい風が広い海の向こうにあるずっと遠い世界から二人のいる暗い浜辺まで吹いてくる。
「遠山さん。夢ってありますか?」暗闇の中で、よく姿の見えない蛍は言う。
「……夢か。どうだろう? 一応、将来はこの仕事をしたいって言うのはあるけど、そのことを夢かと言われると、……そうではないかもしれない。仕事はあくまで現実の続きかな? 僕にとっては。きっとまだ夢はないのだと思う」と文は言う。
そう言ってから、僕にとっての夢は蛍と恋人同士になれることかもしれないと文は思った。(思ってから、蛍に失礼だと思って、すぐにその考えをやめた)
文は思考を変えて海のことを考えた。久しぶりに感じる海は(前にきたときも、夏だった)波も、砂も、匂いも、なかなかいいものだった。蛍に言われて車を出しただけだったけど、本当に悪くないと文は思った。
「私もまだ夢はありません。いろいろとやりたいことはあるんですけど、本当に本気になれるものっていうものが、ずっと探しているのに、どこにも見つからないんです」ゆっくりと浜辺を歩きながら蛍は言う。
波の音と、蛍の波辺を歩く砂を踏む音が聞こえる。
時間とともに世界はだんだんと明るくなってきているけど、まだ少し遠くにいってしまったら、お互いの姿が見えなくなって、離れ離れになってしまうと怖くなるくらい世界は深く暗い色をしていた。
「無理して見つけるものでもないよ。夢っていうものはさ。そのときがくれば、自然にみつかるものだよ。きっとね」蛍を追いかけるようにして、浜辺を歩きながら文は言う。
「……遠山さん。夢ってなんですか?」振り返って蛍は言う。蛍の顔や姿はまだよく見えない。でもその代わりに、……ざーという波の音が、さっきよりもずっとはっきりと闇の中から聞こえてくる。
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