世界はとても静かだった。

 車の中は音楽をかけていない。(そうして欲しいって文さんに蛍が言ったからだった)

「いきなりなんだけどさ、今、古木さんに告白をしてもいいかな?」と文さんは言った。

 その文さんの言葉に一瞬、蛍は言葉の意味をすぐに理解することができなかった。

「恋の告白。僕は初めて古木さんを見たときから、古木さんのことが好きだったんだ。本当は古木さんが高校を卒業してから、古木さんに恋人がいなかったら告白するつもりだったんだけどさ、……まあ、せっかくの機会だから、今してみた」と文さんは言った。

 その文さんの恋の告白を聞きながら蛍はその顔を真っ赤な色に染めた。

「……遠山さん。私のことからかっているでしょ?」と恥ずかしくて下を向いて蛍は言った。

「ううん。本気だよ。嘘じゃないし、からかっているわけでもない」そのいつもよりもずっとまじめな口調の文さんの声を聞いて、蛍は文さんが本当に自分に恋の告白をしているのだとわかった。

「古木さん。僕からの恋の告白は迷惑だった?」文さんは言う。(文と蛍はお互いに恋人がいないことをアルバイトの休憩時間に話して知っていた)

「迷惑じゃありません。……でも、ちょっと困ります」と蛍は言う。

 すると文さんは笑って「それはつまり迷惑ってことでしょ?」と言った。蛍はなんて言っていいのかわからなくて黙ってしまった。

「そっか。うん。まあ、だめだろうとは思っていたけどさ、やっぱりだめか。まあしょうがないね」と明るい声で文さんは言った。

「すみません」と蛍は言う。

「いいんだよ。でも、気持ちを伝えることができてさ、すっきりした。うん。すっきりしたよ」と文さんは言った。

 それから車の中はまた静寂に包まれた。たまに通り過ぎていく反対車線を走っている車のライトの明かりだけが二人のいる真っ暗な深海の世界に変化を与えていた。

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