第97話 キラ†サラ


「粗茶です」

「お紅茶です」

「「いい感じのクッキーもどうぞ」」


 広間の奥に続いていた、元々のマンションとしての原型を残した一角。

 来客用と思しき一室へと通され、いかにも高級感漂うティーセットでもてなされる。


 いい感じのクッキーって、どんな感じのクッキーだろうか。

 一枚いただく。確かにいい感じだった。


「ユカリコちゃんがウチに来てくれるの、久しぶりだね」

「せっかく合鍵あげたのに、ちっとも顔見せてくれないんだもん」


 テーブルを挟んだ対面で愛想良く笑う、顔も声も背格好も瓜二つの二人。

 真月とは旧知らしく、接し方が気安い。


「都会は好かん。悪臭で鼻が馬鹿になる」

「おー、それは大変」

「馬鹿なのは頭だけでお腹いっぱいだよね」


 配信者名『キィラ』こと小此木おこのぎキララ。

 同じく『サァラ』こと小此木サエラ。


 一卵性双生児のバーチャル配信者。今年で活動六周年。

 事務所に属していない、いわゆる個人勢と呼ばれる中では破格の人気を誇るユニット。


 ここへ来るまでの間に、こいつらの簡単なプロフィールは拾っておいた。

 出てきた情報は、生憎と配信者関連のものばかりだったが。

 本名も非公開で、真月から聞いたし。


 どうやら、魔剣士としての知名度は低い模様。

 事実、外見や立ち居振る舞いにも、およそ手練れらしさは窺えない。


 あくまで、表面上は。


〈この二人。宿した悪魔の格は兎も角、同調率だけならユカリコより高いわね〉


 背後で囁かれたジャンヌの言葉に、目を細めた。


 うまくを隠しているが、所作の端々から見て取れる。


 ──そこそこ腕が立つ、か。真月の奴、随分と控えめに言ったもんだ。


「突然押し掛けて申し訳ない」


 舐める程度、ティーカップに口をつけ、ひと呼吸置く。


「失礼ついでに、ちょっと話を聞いてもらえないか?」






「「つまり、ここに居るメンバーを中心にして、協会を乗っ取ろうってコト?」」

「…………ああ……もう、それでいい」


 真月の時よりも更に言葉を選んで説明した筈なんだけれど、またしても曲解された。

 もしかすると、シンプルに俺の説明が悪いのかもしれない。


「派閥争いに嫌気が差している貴様らにとっても、悪い話ではないだろう」

「そうかな? そうかも」

「今の協会きらーい。いっそ更地にしたーい」


 片割れが放った後半の物騒なワードは置いといて、悪くない反応。


 ところでコイツら、どっちがキララでどっちがサエラだ。

 配信に使ってたアバターガワにも相当混乱させられたが、実物は輪をかけて判別が難しい。

 服も髪型もアクセサリーも全部同じとか嫌がらせかよ。誰か見分け方を教えてくれ。


 閑話休題。


「んん……おっけー、いいよ! ユカリコちゃんも一緒だし、面白そう!」

「協会を乗っ取れたら、天獄の配信動画とか撮りたーい!」


 悪くないどころか、かなり乗り気なリアクション。

 難航すると踏んでいた人手集めだが、思いのほかスムーズに運んでくれそうだな。


「「──ただし」」


 おもむろに空気が変わる。


 張り詰める雰囲気。頭蓋の内で鳴る警鐘。

 喉を鳴らしていた山猫が、首筋で爪を立てたような心地。


「話に乗る前に、キミたちのチカラを見せて欲しいな」

「骨折り損には、なりたくないもん」


 …………。

 流石に万事すんなりとは行かない、か。


「分かっ──」

「待った」


 席を立とうとした俺の肩に置かれる手。


「ちょうどいい機会だ。チカラを試しておきたい」


 制止の声をかけてきたのは、金色の瞳を揺らめかせた伊澄。


「俺がやる」

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悪魔の剣で天使を喰らう 竜胆マサタカ @masataka1201

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