第96話 配信者お宅訪問
…………。
「「なんだこれ……」」
高速道路を走る中、俺と伊澄の呟きがシンクロする。
「こういうのが近頃の流行りなのか?」
「知らん」
ディスプレイオーディオにスマホを繋ぎ、飛ばし飛ばしで動画を流すこと四半刻。
助手席に座る伊澄は、完全な困惑顔。
たぶん俺も、似たような表情を浮かべている筈。
「お。歌枠とか雑談とか質問コーナーとか、あとは企業案件なんかも結構あるっぽいぞ」
「全体の三割ほどか」
問題は、それらを除いた残り七割の大半を占めているコンテンツ。
リストの中から目についた適当な切り抜き動画を選び、再生。
「……ほぼ駄弁りながらゲーム実況してるだけ、だよな?」
だいぶ自信なさげに尋ねられる。
安心しろ。俺にもそうとしか見えない。
何故こんな動画がモノによっては七桁も再生されてるんだ。
ネット初心者には理解できん。配信業って奥深い。
と言うか。
「お前まで門外漢とは意外だったな」
いかにも配信とかやってるっぽい感じなのに。
正直フォロワー十万人のインフルエンサーですとか言われたら、何も疑わず信じるぞ。
「……SNSは意図的に遠ざけてるんだよ。もし始めたら、四六時中張り付きそうで……」
なるほど納得。極めて賢明な判断。
確かに見えるぞ。承認欲求モンスターの暴走によって身を持ち崩す未来が、ありありと。
昼飯を挟み、数時間かけて都心まで出る。
真月曰く、件の魔剣士たちは港区住まいらしい。
〈右も左もビルばっかり。よくこんな狭苦しい土地で生活できるわね〉
──同感だ。既に頭が痛い。
なお当たり前の話だが、全ての魔剣士が必ずしも天獄街で暮らしているワケではない。
むしろ比較的まともな奴ほど、頻発するイザコザを嫌って距離を置く傾向が強い。
とどのつまり、天獄街に腰を据えてる魔剣士は、大抵まともじゃないってことになる。
「着いたぞ」
スマホの地図アプリを閉じた真月が足を止め、目の前の建物を指差す。
周りのビル群と比べても頭ひとつ突き抜けた高さのタワマン。
俺と姉貴が年度明けに引っ越す予定である二十階建てマンションの三倍近いスケール。
「ここの最上階だ。バカとナントカは高いところを好む」
ナントカで伏せる方が逆じゃないのか。
わざとやってるなら、大したユーモアのセンスだ。
ノンストップにもかかわらず、優に一分以上昇り続けるエレベーター。
到着した最上階へと降りるが早いか、視界を覆う珍妙な光景に面食らう。
「見ての通りだ。フロア丸ごと買い取って、好き勝手に改造している」
〈何かしらの法律に引っ掛かってるんじゃないの、これ〉
元あった部屋や壁を抜いて強引に設けたのであろう、窓の無い真四角の大広間。
何十台と整列し、低く唸りを響かせる、全て稼働状態のパソコンやらゲーム機やら。
中央には、大型のサーバーPCまで据えられていた。
「これ全部使って配信活動やってるのか? すげーっつーか、なんつーか」
空調やメンテナンスなどの維持費だけでも莫大な額が飛ぶであろう金食い虫な設備。
呆れ半分、感心半分に室内を見渡す伊澄。
そして。ふと、首を傾げた。
「……? 妙だな、キーボードとかコントローラーが一個も見当たらねぇ」
その呟きを耳にした俺も、なんとはなし感じていた違和感の正体に気付く。
所狭しと並んでいるのは、パソコンやゲーム機の本体だけ。
よくよく
否。それどころか、電源ケーブルすら──
「簡単な話だ。そんなものを使わずとも、あいつらは機械を自由自在に操れる」
エアコンの風を鬱陶しげに手で遮り、広間の中央まで歩いて行く真月。
鎮座するサーバーPCを、コツコツと叩く。
「キララ。サエラ。貴様らに客だ。さっさと出てこい」
呼び掛けから、およそ数拍。
甲高いスパーク音と共に、薄暗い室内の全ての機械類から、真紅と深緑の雷が迸った。
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