第95話 ストレージ漁り


「構わんぞ。貴様らに手を貸してやろう」


 誘いをかけておいてアレだが、内心キッパリ断ってくれないもんかと期待してた。


 真月を陣営に取り込む利がデカいことは分かり切ってるのに、驚くほど気乗りしない。

 成績だけは良い不良生徒を受け持つ教師とか、まさしく今の俺の近い心境かも。

 なんなら伊澄も、なんとも言えない顔をしてる。


「協会の乗っ取りか。実に面白いことを考えるではないか」


 割かし丁寧に俺たちの目的を説明した筈なんだけれども、だいぶ曲解されてる。

 確かにそういう受け取り方もできなくはないが、スレすぎだろ。


「くくっ」


 などとつらつら胸の内で愚痴っていたら、何やら目を細めて含み笑い。

 どったのセンセー。


「普段は私を軽んじているクセに、いざとなれば真っ先に頼るのだな。可愛いやつめ」


 ──あ?


「こうも熱心に頼まれては、断るに断れんというもの。私の寛大さに感謝しろ」

「どうどうどうどう。気持ちは分かるが堪えろジンヤ」


 衝動的にグーを振り上げるも、すんでのところで伊澄に抑えられる。

 やはり俺も魔剣士か。一定のラインを超えると自制心が鈍くなる。


〈調子に乗ってんじゃないわよ〉


 深呼吸で己を宥める傍ら、ジャンヌが真月の飲み物に雑巾の搾り汁を滴らせていた。

 どこで覚えた、そんな陰湿なOLみたいな嫌がらせ。






「チッ」


 舌打ち混じり、スマホをテーブルに放り投げた真月が、コーヒーを勢い良く呷る。

 頭蓋の中で、ころころと笑い声が響いた。


「やはり連絡がつかん。黒総の奴、一度消えると大体こうだ」


 戦争を仕掛けるなら兵力が要る。

 そんな物騒極まるセリフと共に意気揚々とコールしたものの、出鼻を挫かれた模様。


「後でヤタにも声をかけておくが、アイツを戦力としては数えられんだろうな」


 八田矢田の強度序列は四百番台半ば。

 戦う姿を見たことは一度もないが、戦闘能力という点では魔剣憑きにさえ劣るとか。


 ただ、可能なら彼女の手は借りておきたい。

 今後どう動くにせよ、事務方に詳しいタイプが居てくれて損はない。


「黒総も正直微妙だが、ヤタよりは戦える。連絡が取れたら精々こき使ってやれ」

「あの人、序列どこらへんだったっけ?」


 伊澄の問いに、真月が指先でこめかみを叩く。


「今は確か百五十位前後だ」


 弱くはないが、特別強くもない立ち位置か。

 まあ仮に序列二桁レベルの手練れなら、とっくにどこかのグループが拾ってるよな。

 少なくとも支部で遊ばせておく理由はない。真月みたいな例外もあるだろうけど。


「最低あと一人か二人、戦闘要員を確保しておきたいところだが……」

「派閥争いとは無縁で、しかも腕っぷしがある奴とか居ないのか?」


 そんなもん都合良く転がってるワケないだろ。


「……ん。居るな」


 居るのかよ。


「二人。そこそこ腕が立つ上、派閥の手垢がついていない奴に心当たりがある」


 しかも二人も居るのかよ。

 大丈夫なのか、そいつら。事故物件なら事前の告知義務があるんだぞ。


「貴様ら『キラ†サラ』という名を知っているか?」


 知らん。誰だ。芸人か。


「……あー、なんか聞いたことくらいはあるような……」


 伊澄が唸りながら首を捻るも、思い出すには至らなかったのか、肩をすくめる。


「魔剣士だ。バーチャル配信者とのな。登録者数は……三百万人くらいだったか」


 ふーん。


「生憎、配信者そっち系は全然分からん」

「俺も……」

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