第94話 派閥
組織というものが作られ、多くの人間を内へと抱えれば、大抵そこには派閥が生じる。
その良し悪しはさておき、それは獣の巣窟に等しい魔剣士協会も例外ではない。
……いや。むしろ獣の巣窟であるからこそ、か。
魔剣と融合し、強大なチカラを得たところで、そこらへんの条件は周りの連中も同じ。
思うまま気の向くまま好き勝手に振る舞えば、必ず反感を買い、対立が起こる。
一層と幅を利かせるため徒党を組むのは、当然の成り行きだろう。
そう考えると、派閥よりも群れと称した方が近いのかもしれない。
ニュアンス的にも、実態を指し示す上でも。
「『スロウン』。あの赤い腕章を掲げたバカ共の呼び名だ」
救急車に詰め込まれた九人を見送ったのち、適当な店へと場所を移した。
併せて昼飯と引き換えで、真月から詳しい話を聞き出す。
「構成員は四百余り。うち百人以上が真性の魔剣士」
今現在、協会が保有する魔剣の数は千とんで八十本。
うち五十は在庫定数。つまり協会に設けられた椅子は、千とんで三十人分。
人員の損耗こそ激しいが、空きが出れば数日中には予備役から補填されるシステム。
そのため、おおむね常に満員と考えて問題ない。
「……真性……第二段階への到達者は、二百人くらいだったよな」
「ああ」
早い話、スロウンには悪魔の
なるほど。確かに最大派閥と呼ぶに相応しい数字だ。
「派閥は全部でいくつある」
「でかいのは三つ。魔剣士、魔剣憑き、魔剣使いの九割が、いずれかに身を置いている」
スロウン以外の二派閥が同盟を組んで勢力を拮抗させ、一定の均衡を保ってるらしい。
逆に言えば、それでようやく釣り合いがとれる程度には一強状態ってことか。
にしても。
「ばかに詳しいな」
「客将としてだが、つい一年ほど前まで党員だったからな」
肩掛けに羽織った金具だらけのコートを這う指先。
よく見れば、左袖の付け根に安全ピンか何かを無理やり剥がしたようなカギ裂き。
縫うなり修繕に出すなりしろよ。
てか。
「どうして抜けたんだ? 最大派閥の客分なんて、相当美味しい立ち位置だろうに」
「あのクソッタレが私を手下のように扱い始めたのでな。顔面を殴り飛ばしてやった」
で、離党の挙句に支部へ飛ばされたと。
まさしく軽率な行動の典型例。芸術点とかあげたくなるレベル。
「参った」
伊澄ともどもトイレに立ち、洗面台の前で溜息。
鏡に映る、いかにも景気の悪そうな顔をした自分と視線が重なる。
「まさか一番の大御所に、いきなりケンカ売っちまったとは」
「仕方ねぇよ。逆の立場なら、たぶん俺だって同じことしたと思うし」
励ますように伊澄から肩を叩かれる。
そう言えばコイツも天獄街を訪ねて早々、揉め事に首突っ込んでたっけか。
……よくよく思い返すと、あの時の魔剣憑きも左腕に赤い腕章を付けてたような……。
まあいい。ともあれ、だ。
「当初のプランが即行でオシャカだな」
魔剣士協会の中で派閥争いがあること自体は、なんとなく知っていた。
ゆえに折を見て適当な一党の門を叩き、内側から少しずつ影響力を得る心算だった。
しかし、こうなってしまうと話は大きく変わってくる。
「どーすっかな」
先程の連中からは限界まで魔力を奪ってやった。少なくとも数日は目覚めない。
が、猶予はそこまで。最大派閥に噛み付いたとして俺の顔が割れるのも時間の問題。
そんな奴を迎えるグループがある、などと楽観視できるほど前向きなタチじゃない。
軌道修正が必要だ。
矢面を伊澄一人に任せ、裏方に徹するか。
或いは──いっそ俺たちが新たな派閥となり、現状に一石を投じるか。
…………。
今後の身振りを決めるにしても、もう少し判断材料が欲しいところだな。
となると……正直あまり気は進まないが……。
「伊澄。ひとつ提案がある」
「ん?」
協会に秩序を敷くという目的を遂げるには、どのみち二人じゃ手が足りない。
仲間が欲しい。協会の内情に精通し、欲を言えば戦力としても使える人材が。
「真月を引き入れないか? アイツは協会の最古参だ。居れば色々と役に立つ」
「…………お前もギャグを言ったりするんだな。ちょっと意外だわ」
ギャグならどれだけ良かったか。
残念ながら大真面目だ。
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