学業の場にアイスは不可のようです

──────




《セミの鳴き声、人の雑踏》


《着信音》


(八葵の声が電話から聴こえる)


[八葵]『先生やっとタバコ吸いにいったよ! 多分小一時間は帰ってこないし、アイス買ってくるなら今がチャンス! 私は昨日話した新作のやつお願い!』


《コンビニの入店音》


~~~~~~


《ドアを開ける音》


[八葵]「おうおうホーちゃんおはようさん! おや、その手に下げたコンビニの袋は……?」


(教室中央からドア前へと八葵の声が近づく)


[八葵]「あっ、もしかしてあだ名が不満かい? ふとした時にニヒルに頬杖をついてるから、頬杖の『ホーちゃん』。……いやいや、人にあだ名を付けるのが趣味の友達がいるもんで。その子にキミのことを話していたら、自然とあだ名が出来上がっちゃって」


(手を伸ばしてあなたの髪を触る八葵)


[八葵]「その髪質、この手触り。うん。いい寝ぐせだ。清々しいまでに寝起き。ベッドから抜け出た瞬間の髪型だねぇ。無造作ヘアが手助けして、頬杖がより映える……かな?」


《あなたが手に持つ袋を漁る八葵》


[八葵]「あ、ちゃんと新作買ってくれてる! ま、賭けの報酬ですからな。悪く思わないよーに。恨むなら雷神さまを恨みなさいな」


《鼻歌を歌いながら席に戻る八葵》


[八葵]「八葵ちゃんの美貌には雷神さまも見蕩れてるからねぇ。雷が落ちるか落ちないかの賭けなんてしてたら、そりゃあ落ちてほしいと願う私の側へ加担するに決まってるじゃないの。文字通り、雷を“とした”女ってワケさ」


(シャクシャクと新作アイスを齧る八葵)


[八葵]「あっ、すごい、美味しすぎる……スイカとライチの香りがこう……いい〜感じにミックスされてて、爽やかで最高! スイカあんまり好きじゃないけど、これなら無限に食べられるかも!」


[八葵]「いや〜、にしてもやっぱ外っついね。窓越しでも伝わってくる。見てあの辺。この前化学の補習でやった……陽炎。陽炎じゃない? ……合ってる? ヨシ!」


《野球部と陸上部が走り込みをする掛け声がうっすらと聞こえる》


[八葵]「うわっ、陸上部と野球部走ってる。この暑いのにまあ……地球くんが悪いよこれは。ぶっ倒れなきゃいいけど。……えっ、それはそう! 地球くん絶対気温の調整ミスってるっよね! 重すぎてバケツから盛大に夏零しちゃってるよねぇ!」


[八葵]「へ? 夏は嫌いなの、って? 夏は……好き。結構好き。ちょっと暑すぎるのが癪に障るけど、私の生まれた季節だし、千紫万紅のエモさと風情があるから、好きにはなっても嫌いにはなれなさそう」


[八葵]「でへへ、使いたかっただけ。現代文のテストで出てきたじゃないスか、四字熟語」


少し大きなひと口でアイスを齧る八葵。


[八葵]「ん〜♡ 冷たくて美味しい! そうだ、そちらをひと口頂戴したく。バニラ味でしょ? もったりした味も食べたい所存で」


木のスプーンでひと口ぶんを掬うあなた。


[八葵]「あ〜……ん。ふむふむ。うわ、何の変哲もないバニラだ、面白みがない」


(面白み、面白み……と呟く八葵)


[八葵]「ふふふ。そんな面白みのないキミには〜? 面白みのある八葵ちゃんから面白みのあるアイスをあげましょう! ほら! あーんしなさいあーん!」


[八葵]「……なにさ、早く齧んなよ。いや君が買ったやつでここまでの態度は流石に調子乗ってるか。……え? 違う? なるほど、間接キスを気にしてる? なればこう……口をつけていない側面から齧るのです。そこにもきっと、味は凝縮されていることでしょう」


[八葵]「美味しい? よかった。……ま、味の好みが似てて嬉しくもなくもないぞよ?」


《ドアが開く音》


[八葵]「あちゃー、先生来ちゃった。……ホーちゃん、一緒に怒られよっか」


(あなたたちはこっぴどく叱られました)




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