吸血鬼学園の問題児~無敵の吸血鬼狩人は生まれ変わって吸血鬼となり何を思う~

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プロローグ「無敵の狩人と最強の吸血鬼の出会いと別れ」

 吸血鬼側は人間達を家畜のように扱い、半永久的に新鮮な血を摂取する為の血肉人形とすることを目標に、そして人間側は吸血鬼という忌まわしき人外を根絶やしにして安心な生活を手に入れる為に。


 そもそも吸血鬼とは何処から現れたのか、それは今となっても解明されていない。

 俺が生まれる以前から、この争いはずっと続いているからだ。


 そしていつしか吸血鬼側には皇族と言われる上位種の吸血鬼が現れ、奴が吸血鬼側を統率するようになった。


 これまで自己中心的に己の吸血欲求でしか動かなかった吸血鬼達が、軍隊のような動きを取り攻撃を開始してきたのだ。無論そのせいで人間側の被害は甚大。


 それに対し人間側は皇族吸血鬼を倒す為に禁忌の実験に手を出し始めたのだ。

 ホムンクルスという最強の人造人間を生み出して皇族吸血鬼と戦わせるという手段に。


 だがいくつものホムンクルスが生み出されては、人の形を成さないまま死に絶えたりと失敗が多く続いた。そしてやっとの成功で生まれたのが俺こと【シュバルツ=フォルトゥナート】だ。


 俺がこの世に生み出されてからは人間側で狩人ハンターとして吸血鬼を只管に狩り続けた。それが自らの役目であり、それだけが生きていると実感できる事だと思っているからだ。


 それから数年の歳月が経過すると、人間側は最後の戦いを行う為に大規模な作戦を開始した。

 皇族吸血鬼が居るとされているレイア帝国に一気に人間側が攻め入り、俺が皇族の首を討ち取るという電撃作戦だ。


 闇夜に乗じて黒装束に身を纏った狩人達がレイア帝国に奇襲をかける事に成功すると、俺は仲間達と共に皇族を討ち取る為に城へと駆けた。仲間達は俺を万全の状態で皇族と戦わせる為に、決死の覚悟で吸血鬼と戦いながら道を作ってくれた。


 だがここは吸血鬼の国……レイア帝国だ。

 仲間達は次々と数で圧倒されていく、しかし人間側もただでは死なない。

 俺の通った後ろからは爆発音が止めどなく鳴り響く。


 仲間達は皆、簡易爆弾を装備して戦っているのだ。何としてでも吸血鬼の数を減らす為に、己の命と共に葬るのだ。人間側の強みは狂気に堕ちた時にこそ発揮されるのだろう。


 国の至る所で爆発音が聞こえる度に俺は心の中で仲間の狩人達の名前を弔うよに何度も唱えた。

 そして同時に誓う。この大戦で散っていた仲間達の為にも俺は必ず皇族を討ち取り、この世界を人間達の為に平和な世界にすると。


 俺は意思を抱いて城へと乗り込むと既に周りに居た仲間達は誰一人生き残っては居なかった。

 しかし歩みを止める訳にはいかず、そのまま最上階を目指した。


 道中で雑魚の吸血鬼共が数百は居たが全員首と胴体を切り離してやった。

 俺は吸血鬼共の返り血を全身に浴びながら最上階の扉を蹴破ると、そのまま玉座に座っている皇族吸血鬼に向かって神速の一太刀を食らわせる。


「お前が皇族の吸血鬼! 別名、か!」

「ほう、この城の最上階まで上がってくる者が居るとはな。感心感心。そして如何にも私が”慈愛の吸血鬼”と人間側で言われている者だ」


 俺の太刀を浴びた皇族吸血鬼は腹部から血を流し始めると、切り口を自らの手で触れて何かを確認する素振りを見せてから、手の平に付いた血を舐めながらこちらを見てきた。


「ふふっ、この私に傷を負わせるとは中々にやるではないか。……ああ、そうかそうか。貴様が噂に名高い血の狩人ブラッドハンターか、なるほどなるほど。しかし私の血がこんな味だったとはな。生まれて初めて知れたぞ。感謝する血の狩人よ」


 そう言って自身の血の味を教えてくると玉座に座っていた皇族の吸血鬼は立ち上がり、並外れた高速移動で目の前へと現れて爪を伸ばし襲いかかる。

 だが……余りにも遅すぎる。それが通用するのは人間の狩人達だけだろう。


「そんな遅い攻撃じゃぁ俺は倒せないな」

「ふむ。この動きすら見切ると言うのか……貴様、本当に人間か?」


 吸血鬼の爪攻撃を刀で軽く受け流すと、ついでに奴の爪を全て切り落としておく。


「爪が長かったんで切ってやったぞ。それは死にゆく者へのサービスだ」

「それは有難いな。何なら私の専属のネイル師にでもなるか?」


 少しでも感情的になって隙が生まれればと思い煽り文句を投げてみたが……皇族吸血鬼は俺の予想を超えていくな。もしかしてこの状況を楽しんでいるのか?

 ふとそんな事を思っていると皇族の吸血鬼は全身を震えさせて口を開く。


「ああ、しかし強いな狩人よ! 久日だぞ、こんなにも血肉が騒ぎ踊るような戦い出来るのは!」 

「そうかい。俺としてはさっさとくたばって欲しい所なんだがな」

 

 目の前に居る皇族吸血鬼は両手を広げて高笑いを浮かべている。奴は真っ赤なドレスを身に纏い、長い銀髪と真紅の瞳が特徴的だ。二文字で表すならな女性とでも言うべきだろう。あと俺より身長が高いのが何気に解せない。


「ははっ! そう言うな狩人よ。この私と対等に戦える者は同種にもおらん。だからこの戦いはじっくりと楽しみたいのだ」

「はぁ……。お前はそうかも知れないが、生憎こっちは戦いを楽しむほど狂気に落ちていないのでな。さっさと終わらせて貰うぞ。この皇族吸血鬼が」

 

 皇族の吸血鬼は通常の吸血鬼と異なる部分が存在する。それは身体能力と治癒力が桁違いに凄まじいのだ。俺が初撃で腹を切り裂いてやったのに今の無駄話で完全に回復されてしまったのが何よりの証拠だろう。通常の吸血鬼ならあれだけで致命傷の筈だ。


「ははっ! 私の前でそんな戯言を言う者がまだ居るとはな。よし、良かろう。狩人の望むように早期決着にしてやろう。ああ、今日という日を感謝せずにはいられないな。主に感謝を」

「それで? 盛大な独り言は終わったか? なら次は首を胴体を切り離してお前の悠久の時を終わらせてやるから感謝してくれよ」


 お互いに軽口を交わすと皇族の吸血鬼は濃い赤色のレイピアを右手に具現化させた。

 この世界では魔法と言われる物があり人間、吸血鬼、共に武器を具現化させる事ができるのだ。


 まあ俺は魔法が使えないという縛りを受けて産まれてきているから関係ないが。

 だが魔法が使えない代わりに驚異的な身体能力を獲得しているから結果的はチャラだ。


「では逝くぞ狩人よ! 私をもっと楽しませてくれたら褒美として私専属の眷属にしてやる!」

「ハッ、それは死んでもなりたくないな!」


 俺と皇族の吸血鬼は互いに剣を構えると、人智を超えた速度の動きで最後の戦いを始めるのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれからどれぐらいの日数が経過しただろうか。俺と皇族吸血鬼は玉座の間で未だに戦い続けいている。いつしか城の外から聞こえていた吸血鬼の声や仲間達の声もなくなり、ただ剣がぶつかり合う金属音と互いの息遣いしか聞こてなくなっていた。


 ……だがどうしたことだろうか。俺は皇族吸血鬼と剣を交える度に戦いを楽しんでいるような感覚と何か言葉では表せない感情が芽生え始めていた。


「もっとだ! もっともっともっと! もっとぉぉぉ! 私を楽しませろ! この体に流れる血が最後の一滴になるまでな!」

「ああ、任せときな。それと最後の一滴とは言わずに、全身を切りまくって全ての血を外に流させてやるよ」


 皇族の吸血鬼と俺は全身を切り傷まみれにして血を流し、俺達は自然と笑みを浮かべながら戦っている。俺の着ていた狩人装束も既に至る所が破損していて、皇族の吸血鬼が着ている真っ赤なドレスも斬撃を食らうと至る所が破れ人並み外れた白い肌が露出している。


「……ふっ、しかしなるほどな。お前の言っていた戦いが楽しいとはこの事だったのか」

「おお、分かってくれるか狩人よ。やはり私達は相性が良いみたいだな」


 ああ、戦いとはこんなにも楽しいものだったとはな。すまない散っていった仲間達よ。

 もう少しだけ、この戦いを楽しんでもいいだろうか。


 俺自身、強すぎる為に全力を出して戦ったことが一度もないのだ。

 大抵の吸血鬼と戦う時は服についた埃を払うような物でいつも不完全燃焼なのだ。


「……だが狩人よ。貴様も気づいているのだろう? 私達は次の攻撃でお互いに息絶えると」

「まあな。だから次の攻撃で、お前の心臓を確実に貫いてやる。それがこの戦いで俺を楽しませてくれた、せめてもの礼だ」


 俺とてホムンクルスと言えど生物だ。それは皇族の吸血鬼とて変わらない。

 お互いに夥しい量の血を流して、やっとの思いでその場に立っている状態だ。

 玉座の間の床には俺と皇族の吸血鬼の血で彩られたレッドカーペットが仕上がっているぐらいだ。


「わ、私の心臓を……! ああ、良い良いぞ狩人! 私はどうやら貴様を好きになってしまったようだ! ……いや、これは好きという感情よりも、もはや愛いしているに近いだろう! だが運命とは残酷な物だ。やっと出会えた最高男性と直ぐに別れないといけないとはな。まったく、貴様がこちら側の種族であれば私達は最高のパートナーになれたと言うのに」

「それはこっちにも言える事だな。お前が人間側で居てくれたなら、きっと俺は最高の人生が送れただろうな」


 俺の言葉に皇族吸血鬼は静かに微笑むと不覚にも月明かりに照らさて見えたその表情は美しいと思えてしまった。まさかこの俺が吸血鬼に……それも皇族に惹かれようとは。

 どうやら自分でも気づかないうちに奴の事を好きになっていたみたいだ。


 はぁ……つくづく運命とは分からないものだな。

 だが俺は人して託された使命を全うする。例えそれが好きな人を殺すことでも。

 

 それに向こうも皇族の吸血鬼として責務を全うするだろう。

 俺と皇族の吸血鬼は互いに剣を構え直すと、刃先から零れ落ちた血の雫が床に着くと同時に――――お互いの心臓を貫いて抱きしめ合った。


「ぐッッ……。あははっ、初めて男性に入れられてしまったな……。こ、これは責任を取って結婚だな狩人よ……」

「ッ……俺も女性に入れられたのは初めてだよ……。しかしその案は良いな乗ったぜ……」


 これが愛する者との最後の時なら……。満更、今までの人生も悪くはなかったと思える。

 俺はこの世に生まれて吸血鬼を根絶やしにする事だけを目標に生きてきたが、その後の事は何も考えていなかったからな。だけど……今なら分かる。これが俺の最高の終わり方だと。


「なあ狩人よ……最後に貴様の名を聞いても良いか……?」


 皇族の吸血鬼は強く抱きしめてくると血の滴る口元から名を尋ねきた。

 そして俺も残された僅かな力でそれに答えようとする。


「ああ、もちろんだ……。俺の名はシュバルツ=フォルトゥナートだ……」

「そうか……シュバルツ……。良い名ではないか……。私の名は【グレーテ=ローゼンベルグ】死んでも覚えてくのだぞ……」

「無論だ。記憶力は良い方なんだ……任せ……ろ」

 

 そう言うと俺は何も見えなくなった視界を静かに閉じて、いよいよ自らの命が尽きる事を悟る。

 だが刹那、俺は最後に願った。またこの世界に生まれる事が出来るのであれば、次こそはグレーテと共に一緒に過ごして生きたいと。


「ま……な……グレーテ……」

「あ……して……るシュバルツ……」


 お互いに掠れた声を絞り出すと細い糸が切れるかのように意識はそこで途絶えた――――

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