5話「クラス代表とは?」
学園の昼食を食べて満足した俺と雪花はそのあと学園の設備を見て回って過ごしたりすると、再び授業の時間が迫ってきた。そう、眠気が異様に濃くなる午後の授業だ。
昔の俺なら眠気なんぞきても気合で耐えられたのだがこの世界に馴染んだせいなのか、この体のせいなのか食後の授業は耐え難い眠気に襲われるのだ。
そして今現在は眠気に耐えながら乙津先生がくるのを待っている最中だ。
周りを見れば他の連中は朝の時と比べて親しくなり周りと話していたり、貴族や血統がどうのこうのという話が其処彼処から聞こえてくる。
「よーし、全員揃っているな。では今から午後の授業を始めて行くぞー」
周りに視線を向けていると教室の扉が音を立てながら開かれて乙津先生が気怠そうな感じで教室に入ってきた。乙津先生はそのまま全員を目視で確認すると教卓の前へと向かう。
どうやら見た感じ乙津先生も午後の授業は眠そうである。
「えーっと最初に伝え忘れていたんだが、このクラスの代表を決めないといけないんだよなぁ」
めんどくさそうに乙津先生が言うと右手に持っていたクリップボードを教卓に置いて、胸ポケットからボールペンらしき物を取り出していた。
「うーむ、つまり学級委員のことか?」
「多分そうでしょうね。悠斗とはそういうのに興味があるのかしら?」
独り言で呟いたつもりの言葉に隣から雪花が俺の顔を見ながら返してくる。
「いや、今のところはないな」
そう、”今のところは興味がない”とういのが正直な気持ちであるのだ。
「先生! クラス代表とは主に何をするのでしょうか?」
教室の左端の方で一人の吸血鬼が挙手しながら席を立つと乙津先生に質問を投げかけていた。
見た感じ貴族吸血鬼ではなさそうだ。きっと雪花と同じ混血だろう。
このAクラスに居るのは基本的に混血で血が濃いか貴族で元々血が濃い連中ばかりだ。
ちなみにこの情報は学園の設備を見て回っている時に雪花から聞いたことだ。
「そう言えば具体的な事をまだ言っていなかったな。クラス代表は主にクラスを纏めて指揮を執るリーダー的な存在だ。そしてクラス代表は今度学園で行われるクラス対抗戦や人間側が主催する大会などに代表として出場する予定の者でもある。だから生半可な者がやればクラスの面汚しになるわけだ」
乙津先生はクラス代表という事を詳しく全員に説明すると、クラス代表となる者はクラスの名誉と責任が重くのしかかるということであろう。
だがこんな責任重大な役割なんぞ好き好んでやる奴はいるのだろうか。
少しばかり興味が惹かれる。
何故ならこの役割を経験した者はきっと良い指揮官となれるだろうと俺は思っているからだ。
というか、そういう目的があってクラス代表という制度があるのだろう。
「ふむ、中々やるではないか吸血鬼側も」
あとはこのクラス代表に誰が立候補するかだが……はてはて誰が立候補してくれるのだろうな。
実に楽しみで仕方がない。
「はい先生! そのクラス代表は推薦でも大丈夫でしょうか!」
「……そうだな。このままだと決まらずに終わりそうだしこの際だ。推薦でも構わん許可する」
「では私は一等貴族の【
背後からそんな女性の声が聞こえてきて振り返ると、その女性の隣には長い黒髪の一等貴族の吸血鬼が満更でもない表情を見せて「やれやれ」と言った感じの雰囲気を出していた。
しかもその一等貴族の周りの席は女性吸血鬼達が埋めていて俗に言うハーレム状態である。
「ちょっと待てよ? 鬼塚の苗字ってどこかで聞いた事があるぞ?」
「馬鹿お前! 鬼塚士郎さんはこの学園最強の生徒会長の弟さんだぞ!」
隣の席から男子達の会話が流れ聞こえてくる。
「ふむ、なるほどな。情報感謝するぞお前達」
「はぁ? なんだよ急に?」
「Cランク風情が気安く話しかけてくんな」
どうやらあの見るからにイケメンの一等貴族の吸血鬼は生徒会長の弟らしい。
しかし俺はそんな事よりも、この学園最強の生徒会長とやらの方が気になって仕方がない。
この吸血鬼の戦士育成機関の最強であるのなら、そいつと戦えば今の吸血鬼がどれだけ戦闘能力を有しているか簡単に測れるからだ。
「ああ、体が疼いてきてしょうがないな」
これはきっと狩人の時の闘争心が掻き立てられているのだろう。
「ははっ、仕方ないですね。こうも女性達から熱い視線を向けられては断る事はできません」
一等貴族の吸血鬼はそう言いながら席を立つと長髪を靡かせながら周りの女性吸血鬼に笑顔を振りまいていた。しかし気になるのはそのイケメンな笑顔を雪花にまで向けていたということだ。
「うっ……悠斗、私駄目だわ。あの手のタイプは苦手な部類よ。さっきから全身の悪寒と謎の震えが止まらないわ」
「それは完全なる拒絶反応ではないのか?」
一等貴族の振りまいた笑顔で雪花がダメージを食らいここまで拒絶反応を示すとは。
存外やるでないか鬼塚士郎とやら。
だがこのままでは推薦されたアイツだけでクラス代表が決まってしまうな。
俺は案外驚いているぞ。この絶好のチャンスを見す見す逃そうとしているアデラにな。
……しかしそんな杞憂は直ぐに消え去るようだ。
「はいっ! 私はアデラ様を推薦します!」
「よし、良いぞ良いぞ。これで二人目だな。他は居ないのか?」
フィオナが手を上げなら席を立ちアデラを推薦したのだ。
まったく、自ら立候補すればいいものを態々彼女に頼むとはな。
だがこれで役者は揃ったわけだ。どれ、俺も立候補してみるか。
「済まないが乙津先生よ。俺は推薦ではなく立候補するぞ」
教卓の前に立つ乙津先生を見据えて言うと周りが暫く沈黙に包まれた。
そして誰かが鼻で笑うような音が聞こえると、
「お前馬鹿じゃないのか? Cランクがクラス代表になれるわけないだろ」
「そうよ。クラス代表は鬼塚士郎様の席よ!」
と言って周りから数多の雑音が聞こえてきた。
どうやら俺がCランクでAクラス居ることが昼食の時に広まったみたいだな。
「んんっ静かにしろお前ら! ……だが確かにコイツらが言っている意味も分かるよな悠斗? クラス代表は各クラスと競って自クラスを勝利に導き、尚且つカリスマ性がある者ではないといけないのだ」
「ああ、分かっている。だからこそ立候補しているのだが?」
乙津先生は少し困り顔で俺を見てくるが、そんな事はさっきの説明で理解しているのだ。
だがきっと乙津先生のその表情の真意は俺自身がCランクだからだろう。
「はぁ……。お前は今日の朝、学園の校門前の橋で三等貴族を病院送りにしただろ? だから力量については別に問題ないと私は判断している。だがお前は忘れている。ここはAクラスだと言うことをな」
乙津先生が朝の行動を話すとクラスの貴族達の空気が少しザワついている様子であった。
そして貴族嫌いの連中からはなにやら熱い視線を向けられている気がするが、今はどれも構っている場合ではない。
「先生、このままでは埒が明かないですわ。ここは一層の事、三人で勝負をして勝った者をクラス代表にするというのはどうでしょう?」
「僕はそれでも構いませんよ」
「俺も別に良いぞ」
アデラの思いがけない援護により俺もクラス代表の座を賭けた勝負に参加できようになった。
アイツはやはり良い奴なのかも知れんな。だがアデラとは別件で決闘の約束をしているんだが。
「お前達がそれで良いなら構わんが……。どうやって勝負するつもりだ?」
「私に考えがありますの。日本には古来より腕相撲という己の力を競う戦いがあると! ですからそれで勝負しましょう」
乙津先生の問いにアデラは自信たっぷりの様子で”腕相撲”という言葉を放つ。
なるほど腕相撲か。あまり経験はないが、まあやってみるか。何事も経験は大事だ。
「そ、そうか……。じゃあ候補者の三人は教卓前に集まってくれ」
「「はいっ!」」
「分かった」
俺達は乙津先生に言われて教卓の前へと集まると、背後からは雪花が凄い睨みを効かせて見てきていることに気がついていた。これは後で事情を説明しないと『お風呂一緒に入るわよ』とか言われても俺を困らせにくるパターンだ。
「ではまずは私と鬼塚さんとの対決ですわね」
「あまり女性と戦いたくはないのですが、止むを得ないですね」
まずはアデラと鬼塚士郎の対決となった。二人は教卓を支柱にして互いに右手を握り合うと、アデラは笑みを浮かべて余裕そうだ。だが鬼塚の方も笑みというか……アデラの胸を見てニヤけているような気がしないでもない。
「では両者! 開始ッ!」
乙津先生の合図で試合が開始された。
俺は後攻なので腕相撲がどんなものか分かるのでこれは有難い。
しかしアデラは何で俺より日本の文化に詳しいんだ?
「ぐあぁぁっ!?」
「ふんっ、女性の胸を見てうつつを抜かしている相手には負けませんわ」
俺の考え事は鬼塚の叫び声で中断を余儀なくされると勝利はアデラのようだ。
しかし彼女は伊達に皇族の子孫と名乗っているだけの事はある。仮にも一等貴族の鬼塚を軽く倒すとは。
「次は悠斗さんの番ですわ。どうぞこんな所で負けないように」
「負けるわけないだろう。お前はそこで大人しく犬のように見ていろ。直ぐに終わらせてやる」
アデラと位置を入れ替わる間際にそんな会話を繰り広げると、彼女は目つきを尖らせて不機嫌そうに見てくる。俺は犬のようにと言ったのだがな。これでは獅子の王ライオンのようではないか。
「ク、クソッ。この僕が女性相手に負けるなんて……少し油断しすぎたようだ。だが次はCランクのお前だ。軽く捻ってやる!」
「相手を女性と見て油断したのなら、お前は潜在的に弱者だな。だがまぁいい。せいぜい俺を楽しませてくれ」
鬼塚と共に右手を教卓に乗せて握り合うと奴からは怒りのオーラが感じ取れる。
恐らく先程の言葉がよほど堪えたのだろう。だがそれでいい。
怒りとは力を解放させる為にもっとも重要となる要素だ。
「両者……開始ッ!」
再び乙津先生の合図で試合が始まると手を合わせただけで鬼塚の力量が大体把握できた。
奴は血が濃いが故に魔法や基礎能力は高いが所詮はそこまでの存在だ。
もっと鍛錬や力の扱いを学んでいれば、そこそこの者になれたというのに実に残念。
「クソックソッ! なんでビクともしないんだよ! この腕は鉄か何か!?」
顔を真っ赤にさせながら鬼塚は俺の腕を曲げようとしているが、そんな無駄のある力の使い方では倒すことは不可能に近い。
「肉体も極めれば鉄となるぞ。若き吸血鬼よ。しかし俺はこのあとアデラとの対決があるのでな、早急に終わらせて貰う」
そう静かに告げると鬼塚の腕を軽く曲げて教卓へと手の甲を付けさせた。
一応、手加減はしたのだが腕が損傷していたら申し訳ない。
「そ、そんな……。この僕がたかがCランクに負けるなんて……。こ、こんなのありえないありえないありえない!」
どうやら鬼塚は気が触れてしまったようだが腕は大丈夫そうだ。
うむ、ちゃんと手加減ができるようになってきた証拠だろう。
「さてアデラ。次はお前の番だが?」
「……そうですわね。しかし貴方と私は血闘の約束をしていますわ。だからその時の勝者がクラス代表となるのはどうでしょうか? もちろん眷属という条件も生きていますわ」
なるほど。手っ取り早く血闘で全てを決めるというわけだな。
うむ、無駄がなくて実に良い案だ。そういう分かりやすいのは好きだ。
「良かろう。では血闘の時まで待つとしよう」
「提案を承諾して頂きありがとうございますわ」
俺達は互いに笑みを見せ合うと席へと戻っていく。
そして気が触れてしまった鬼塚は女性達に席へと連れ戻されていたがな。
「ったく、お前達は私の知らないとこでそんな約束をしていのか。次からはちゃんと先生を通してから約束をするようにな! はぁ……
「あら先生、それはどういう意味かしら?」
乙津先生の発言にアデラが眉を顰めてながら聞き返していた。
というか、さり気なく俺が”問題児”認定されていたが何故だ。
「そのままの意味だ。分かれアデラ」
ボサボサの髪をかきあげながら乙津先生がクリップボードに何かを書き込んでいくと、時を見計らうようにしてチャイムの音が鳴り出し小休憩となった。
しかし俺の横では『詳しい説明を聞かせてくれないと凍らせるわよ?』と言わんばかりに見てくる雪花により小休憩を使い果たしそうだ。
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