12話「クラス全員が俺の敵」
「はぁ……今日も面倒な輩に絡まれて災難な一日だったな」
家へと帰宅して飯風呂全てを終えると、自室のベッドに横になりながら今日起きた出来事を脳内でまとめていた。
取り敢えずとしてはアデラ達を眷属にして皇族についての情報を得られた事が、なによりも大きい成果だと言えるだろう。
そして次に貴族吸血鬼達の親が俺に向けて賞金を賭けた事が新たに得た情報だな。
まったく、そうまでして貴族達は俺を殺したいものなのだろうか。
うーむ、しかし考えられる原因としては貴族達の親は平民にやられっぱなしというのが嫌なのだろう。奴らは平然と醜い行いをする癖にその辺は意外と繊細のようだ。
「だしかし……それだと雪花を狙ってきたあのスキンヘッドの男は一体何者なんだ? 俺としては賞金稼ぎの者とは到底思えない。奴からはそんな修羅を経験してきたような気迫は感じられない上に容姿は完全に高校生ぐらいだったしな」
……いや待てよ。魔法で容姿を変えるという事が出来るのであれば、あるいはそれも可能かもしれん。だけど力量はそこまでだったうえに、やはり奴らは別件だと考えていいだろうな。
「よし、取り敢えず雪花に俺の巻ぞいが及ばないように気を張っておくとするか。それと次に解決すべき問題は俺に賞金を掛けてきた貴族達の件と謎のスキンヘッドの件だ。どれも一筋縄では解決できそうにないが、やるしかない」
自らが次にやるべき事を纏め終えると部屋の電気を消して目を閉じる。
睡眠とは戦う戦士にとって意外と重要な事なのだ。
確かに寝ている間は無防備で襲われやすいというデメリットもある。だがそれでも睡眠不足で奇怪な行動をとり始めたり、判断が鈍ったりするよりかは遥かましだろう。それとこれは自慢ではないが生前の頃の特訓が影響しているのか寝ながらでも戦う事は可能だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が寝てからどれぐらいの時間が経過しのだろうか。しかし今は朝だという事は何も見なくとも分かる。狩人をしていた事から自然と朝になると体が反応するようになっているのだ。
だけど……この形容しがたい息苦しさと暑い感じはなんなんだ。
このベッドにもう一人誰か居るとでも言うのか?
「ったく、こんなしょうもない事をする人物は俺の知る中では一人しかいない」
そう呟いて目を開けると――やはり思っていた通りそこには、
「お・は・よ・う。悠斗起きて。今日も遅刻寸前で時間ギリギリよ」
見事にしっかりと腕と足を絡めて添い寝をしている雪花の姿があった。しかも驚くことにその行動を気づかれないようにした事が俺にとってかなりの恐怖でもある。
普通なら体に触れられただけで自己防衛反応が出るはずなのに、雪花には一度もそれが出たことがないのだ。故に彼女は唯一俺の寝込みが襲える人物と言ってもいいだろう。
「そうか……ならもっと早くに起こしてくれないか? それと毎日毎日懲りずにスマホのアラーム勝手に止めて消すな」
「あら気づいていたのね。悠斗ったら機械音痴だから案外気づかないと思っていたのだけれど」
雪花が腕と足を退かして起き上がると毎日勝手にアラームを止めていた事について認めていた。
そりゃあ最初こそは気づかなかったが、そう何度も何度も起こると疑わずには要られないだろう。
それに俺には機械について超強い【納豆バター】さんとう友達が居るのだ。この人は俺が始めてスマホを使って知り合った人物で、当時は9ちゃんねるという提示版について色々と教えて貰ったのだ。
そして今も尚親交は続いており、雪花の他にスマホの知識は彼から教えて貰い意外と詳しいのだ。まあ何故俺がネット提示版を使おうと思ったのかはまた時間がある時だな。
今は学園に遅刻しないで向かうことの方が優先だ。
「さて雪花。直ぐに着替えるから先にリビングで待っていてくれ」
「え、ええそうね。でもこれは一応言っとかないと気が済まないから言うわね。私も手伝――」
「要らん。さっさと出ていけ」
「……ふふっ、照れ屋ね」
そう言うと雪花は何時ものやり取りをしてから大人しくリビングへと向かった。
もしかしたらこのやり取りは永遠に続くのではないかと思うと少し心配だ。
それから着替えを終えるとトーストだけを食べて雪花を抱えながら学園へと駆けた。
最早、学園に入学してから一度も慌てないで通学した覚えがない。
「お、嬢ちゃん! 今日も未来の旦那に抱えられながら通学かい!」
学園に向かうために絶対に通る商店街を走っていると横から張りのある男の声が聞こえてきた。
この商店街には何度も俺が雪花を横抱きして学園へと走っている事で、どうやら変に覚えられたらしいのだ。
「ええ、そうですよ。悠斗ったら私と離れたくないみたいで。あ、今日も学校が終わったらお肉買いに来ますね」
「そりゃあ青春だねぇ! おう。良い肉仕入れとくよ!」
しかも雪花がここで食料を調達し始めた事で更に顔も覚えられ、今や通るたびに誰かに話し掛けられる事もしばしばだ。
そして俺はここで何かを言うつもりも別にない。面倒事には巻きこれたくはないからな。
「あ、そうだ悠斗。今日はビーフシチューを私の家で作るのだけれど久々に食べに来るかしら?」
「ふっ、愚問だな。当然行くに決まっているだろう」
雪花が俺の方を見てくるのが何となく分かるとビーフシチューという言葉には抗えず夕食を彼女の家で食べる事にした。後で母さんには電話しておかないとな。
ちなみにビーフシチューはカレーのように掛けて食べる派だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さてっと、今日も遅刻は回避のようだな」
「そうね。悠斗が超人並みの力を持っていて助かるわね。本当にどんな体の作りをしているのかしら」
「そうか? 吸血鬼だったらこれぐらい普通……って何だこれは」
俺達が商店街を抜けて駆けていると昨日、外れ者達が襲ってきた校門前の橋へと到着した。
そして雪花を下ろして橋に視線を向けると驚かざる得なかった。
「橋が一晩うちに直っているだと?」
なんと昨日外れ者の一人が爆発して崩落した橋が綺麗に修復されていたのだ。
しかも雑な直し方ではなく綺麗に違和感なくだ。
これはもしやこの学園には手練の工兵でも居るのかも知れない。
「まったく、この学園は変な所で優秀だな」
「そんな事より早く行きましょう悠斗」
巧妙に直された橋について感心していると、雪花が隣から制服を引っ張りながら言う。
「ああ、そうだな」
まあいつまでもここに居てもしょうがない。折角遅刻を回避しているのに、これで教室に入る前にチャイムが鳴ったら意味がない。
俺と雪花は共に教室へと足を進める。それから教室の前へとたどり着いて扉を開けて中に入ると、
「ほう? 珍しく全員が揃っているのだな」
教室内には既に全員が出席していたのだ。貴族達もそれ以外の平民達も揃ってな。
貴族達はいつも遅刻ギリギリの時間で登校してくると言うのに、何故今日に限ってこんなにも早いのだろうか。
「うーむ、これは何かあるかも知れんな。すまんが雪花は先に席に行ってくれ」
「ええ、分かったわ」
その返事を聞いたあと直ぐに周囲に意識を向けて事情を探る。
するとアデラとフィオナが自分達の机に視線を向けたまま固まっている事に気が付いた。
「おい、どうしたんだ二人とも?」
その異様な光景が気になり二人の元へと近づいて声を掛けると、視界に映り込んできたのはありとあらゆる罵詈雑言の数々が書かれた二人の机であった。
しかも、ご丁寧に刃先の鋭利な物で掘られて書かれているのだ。
「ふっ……所詮は日本というのは陰湿な事しか出来ない劣等民族なのですね」
アデラが机を眺めながら静かに怒りを顕にさせている。
「くッ! 私ならまだしもアデラお嬢様の机にすら非道な事をするとは許さんぞ! 極東の猿共が!」
その隣ではフィオナが怒りを爆発させている様子であった。
そこで大体の事情を悟ると周囲へと視線を向ける。
「恐らくアデラとフィオナの机に嫌がらせをしたのは貴族と一部の平民だろう。まったく、こんな時だけ息が合うとは嘆かわしいものだ」
だがこのままではアデラとフィオナがこの場で具現武装を発動して戦いになりかねない。
ただでさえアデラは毒ガスという密室空間に適したスキルを持っていて、フィオナは音もなく忍び寄れる天性の暗殺者としての素質があるからな。
「はぁ……仕方ないか。ここは再びクラス代表としての勤めを果たすとしよう」
そう自分で決めるとアデラとフィオナに「お前達の怒りは俺が代行しよう。だがそれで収まるとは思っていない。故に殺るなら放課後にしておけ」と小言で伝えた。
「はぁ? ちょっと悠斗さん貴方どういうおつもりで?」
「そうだ! これは私とアデラお嬢様の問題でお前には――」
「静かにしておけ。直ぐに終わる」
二人は当然のように勝手に何をしているんだという反応をしていたが、俺が二人に静かに見ているように念を押すと振り返りクラスの連中へと視線を向けた。
「おい聞くぞ吸血鬼共。アデラ達の机に傷を付けたのはお前達なのか?」
まずは事実を確認するべくクラス連中へと問いかける。
しかし返ってくるのは沈黙と嫌悪感の孕んだ視線のみであった。
「答えないのならお前達の全員の具現武装を確認して、刃型が合うかどうか検証しても良いのだぞ?」
恐らくアデラ達の机を掘る時に使用された物は具現武装である確率が高いと見ている。
身近にあり直ぐに使えて証拠も残らないからだ。しかし具現武装は固有の物だ。
その形状は変えられるものではなく、刃型さえ確認してしまえば言い逃れはできまい。
「では一人一人確認するとするか。ああ、そうだ動くなよ。動いた者は即座に犯人と断定する」
全員に聞こえるように言うとまずは一番疑わしい貴族の元へと足を運ぼうする
――だがそうすると、
「クソッ! 何で誇り高きAクラスに、お前みたいな問題児のCランク風情がクラス代表なんだよ! 納得いかねえ!」
「そうだ! それにグレーテ様の子孫と嘯いたイギリス女も許せる訳なかろうが!」
二人の貴族吸血鬼達が急に席を立ち俺に向けて何かを言い放つ。
というよりそれがもはや自白に近いことには気づかないのだろうか。
そしてその二人に同調するかのようにもう一人の貴族が立ちがると、
「おい全員立て! 全員でならきっとあの野郎にも勝てるぞ!」
「「「そうだ! 今こそ貴族の威厳を取り戻す時だ!」」」
などど周りの貴族達に声を掛け鼓舞して席を立ち上がらせていた。
どうやら俺の敵はクラスの貴族吸血鬼達全員ということらしい。
「おい! 貴様ら平民も手を貸せ! 今しかあの野郎を仕留めるチャンスはないんだぞ!」
「知るかよ勝手にやってろ。俺達は貴族に従う気はねえよ。それに俺達が許せないはアデラ達だけだ」
「な、何をッ……! 貴様あとで貴族侮辱罪で覚えていろよ!」
貴族吸血鬼達は戦力を少しでも増やそうと近くの平民達にも声を掛けていたが、誰一人として立ち上がると事はなった。
だが平民達もアデラに危害を加えるのなら俺にとって敵である。
「先に言っておくが、お前達平民もアデラに手を出す気でいるなら俺の敵だ。ここで纏めてしばいてやるから覚悟しておけ」
平民達にも鋭い視線を浴びて事実を伝える。
すると先程貴族と喋っていた平民が席を立ち視線を合わせてくると、
「チッ、なんでだよ。お前も平民だろうがよ! ちょっと力が強いだけで貴族ぶってんのか? だったらいいぜ俺達も戦ってやるよ。なぁ皆立て! 癪だが貴族共と共にあの思いやがり野郎を正気に戻させてやるぞ!」
「「「おぉぉぉう!」」」
貴族達と同じく周りを巻き込んで敵へと変貌した。理由や身分は違えど所詮はやることは同じということ。実は平民も貴族も仲が良いのではとさえ思えてくる。
「さぁ、かかってこい。俺は一向に構わんぞ」
事実上クラス全員と戦う事になると乙津先生が来る前に片付けをしないといけないようだ。
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