第8話 ラーデン帝国
太陽が燦々と降り注ぐ、大陸一明るい土地。そこがラーデン帝国だ。ラーデン帝国は常にかんかん照りで、曇る日がほとんどない。
レインの影響で常に雨が降っているリンドベル王国とは正反対な気候をしていた。そんなラーデン帝国は、太陽の神であるソルの守護を受けていた。
ラーデン帝国は太陽の恵みにより、作物が毎年豊作で、食糧に困ったことがなかった。
しかし稀に日照りや干ばつが起こり、水不足に陥る。これはソルがわざと起こしていた。ソルは国民を甘やかしてばかりでは、国が弱くなるという考えを持っていた。
あえて危機的状況に陥らせて、それを超えてさらに強くなって欲しいのだ。
そんなラーデン帝国は世界で最大の領土を持っていた。これは太陽の加護を受けた戦士たちの影響が大きい。太陽の加護は、陽の下に居ると傷がすぐ治り、力が増すといったものだった。
戦士たちは太陽の加護のおかげで、勇猛果敢に戦うことが出来、その領土を広げていった。
そしてラーデン帝国では誰でも偉くなれるチャンスがある。この国で偉くなるのは非常に簡単だった。
強くなればいいのだ。ラーデン帝国では腕っ節の強さが全てだった。強くなり、戦争で武勲を挙げれば、すぐに権力を手に入れることが出来るのだ。
武勲を示すために皆戦争を望んでいた。そして強さが全てのため、帝国では下克上も日常茶飯事だった。
国民性として、自分より弱い者に従うのが嫌なのだ。そのため帝国内での争いもかなり多い。家臣が主君を殺すことも、農民が戦士を殺すこともよくあることだった。
殺し殺され、常に命を磨き合うことで、この国の人々は強くなっていったのだ。
そして今日も帝国内で争いの火種が燻っていた。
ラーデン帝国の首都にある宮殿の前に多くの戦士が集まっていた。彼らは現皇帝に不満を持つ、いわゆる反乱分子というやつだった。
そんな戦士たちを率いるのは、ラーデン帝国の将軍だった。将軍は皇帝に成り代わるために、反乱分子を集めて下克上を起こしたのだ。
宮殿に押し寄せる戦士たちの前に、騒ぎを聞きつけた現皇帝が姿を現した。そこに現れたのは女性だった。
今の皇帝は女だった。つまり女帝なのだ。女帝の名前はアレクシア。身長は百七十センチほどで、女性にしては高い方だった。アレクシアは黒髪に浅黒い肌をした美女だった。
そんなアレクシアは護衛も付けずに、一人で将軍たちの前に立ち塞がった。
「残念だ、将軍。まさかお前が謀反を起こすとはな……」
「軟弱な女の下に付いていることは出来ん! 今日ここで、私が皇帝になるのだ!」
将軍は国のトップが女性であることに不満を持っていた。将軍はアレクシアが女であることを利用して、現在の地位に就いたと思っているのだ。
「この軍勢だ。諦めて皇帝の座を私に譲るがいい。大人しくしていれば、命だけは助けてやろう」
将軍はアレクシアに大人しく降伏するよう呼びかけた。それを聞いたアレクシアは失望したような表情をした。
「ふっ、舐められたものだな。私が、皇帝である私が命乞いなどすると思ったか!」
アレクシアは将軍の軍勢を目の前にして、啖呵を切ってみせた。
「そうか、ならもう貴様を女だとは思わん! 一人の戦士として、戦って死ぬがいい! 戦士たちよ、あの女を殺すのだ!」
将軍はアレクシアに引く気がないとわかると、戦士たちに指示を出した。戦士たちは一斉にアレクシアに斬りかかった。
「かかってこい!」
そう言うとアレクシアの髪が燃える炎のように赤く染まった。そしてアレクシアは身の丈ほどある大剣を構えた。
迫り来る将軍の軍勢にアレクシアは飛び込んでいった。
勝負はアレクシアの死により、一瞬で終わると思われていた。しかしそれは将軍の予想外の結果となった。
アレクシアが大剣を振るうと、業火が舞い、それに触れた戦士たちが消し炭になったのだ。目の前の地獄のような光景に戦士たちは怯んだ。
「戦士たちよ! 我々には太陽の加護がある! 臆せず戦うのだ!」
将軍から発破を掛けられた戦士たちは、再びアレクシアに突撃した。
しかしアレクシアに一撃を入れることは叶わなかった。アレクシアは大剣を軽々と振るい、迫り来る戦士たちを両断していった。
辺りには肉が焦げる匂いがし、アレクシアの一振りごとに血飛沫が舞っていた。
「これがアレクシアの力か……」
アレクシアの桁違いの実力に戦士たちは怖じ気づいていた。そんな戦士たちを見た将軍は、自身が直接アレクシアと戦うことにした。
将軍は巨大なメイスを持って、戦士たちを退けてアレクシアに近づいた。
そしてアレクシアと向かい合った。将軍はメイスを振り上げてアレクシアを叩き潰そうとした。
アレクシアは大剣でメイスの一撃を受けた。あたりに重い音が響いた。アレクシアの足下には大きなヒビが出来ていた。
アレクシアは将軍の一撃を耐えると、メイスを弾き、大剣を横一文字に振るった。その一撃は将軍の華美な鎧ごと胴体を両断した。
「見事、だ……」
将軍はそれを最後の言葉にし、絶命した。将軍を失い、アレクシアの圧倒的な力を目撃した戦士たちは散り散りに逃げていった。
「ふぅ」
戦いを終えたアレクシアの髪は元の黒髪に戻った。そしてアレクシアは宮殿の兵士を呼び、敗走した戦士たちの処分を命じた。
アレクシアはそのまま宮殿の中へと戻っていった。
※
宮殿に入ると、アレクシアは奥にある一室に入った。そこにはラーデン帝国を守護する、太陽の神であるソルがいた。ソルはかなりの大男で、燃えるような赤い髪が特徴的だった。
「いやー、実に良い余興だった! さらに強くなったな、アレクシア!」
ソルは先ほどのアレクシアの戦いぶりを褒めた。
「ソル様を倒すまで、私は誰にも負けるつもりはありません」
アレクシアはいつかソルを倒すことを夢見ていた。ソルを倒して、自身が神になろうとしているのだ。
下克上の精神は、女帝であるアレクシアにもあったのだ。
「ははっ! 楽しみにしているぞ!」
ソルは余裕そうな態度だった。神である自分が負けるとは露ほどにも思っていないのだ。
「それではソル様、次に攻める国ですが……」
そしてアレクシアはソルと次に戦争を仕掛ける国について話し合いを始めた。
「そろそろど派手な戦いが見たいな。やはりここは、ケイムス王国を攻めるか!」
ケイムス王国、それは神の一人、シュネーが治めている国だった。
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