第3話 近づく戦火
いつもなら雨の降る音が心地よいはずのレヴォルの街は、にわかに沸き立っていた。それは隣国である北方の諸国がゲルチェ王国の艦隊に制圧されたからだ。
ゲルチェ王国は自在に風を操る魔法使いにより、船を自由に動かせる。そのため艦隊による海戦で無敵の強さを誇るのだ。
そんなゲルチェ王国は精力的に支配地域を広げていた。まるで世界征服をしようとしているかのように、他国に戦争をしかけ領土を奪っているのだ。
ゲルチェ王国に支配された地域は食糧や税金の徴収が厳しくなると噂されており、その魔の手がこのレヴォルの街にも来るのではないかと言われているのだ。
レヴォルは王国の端にあり、国境からほど近いため、敵軍が来ると真っ先に戦火に覆われてしまう。
「大袈裟だなー。大丈夫だよ、わざわざこんな小さな街に来ないって」
レラは皆の反応が大袈裟だと笑っていた。しかし周りの大人たちは不安そうにしていた。リンドベル王国は建国してからそこそこ長い歴史があるが、その中で戦争を経験したことがなかった。
それは平和で素晴らしいことなのだが、今回は逆にそれが仇となった。戦争の経験がないため兵力に十分に人数を割けていなく、また戦術などの知識も乏しかった。
簡単な話、リンドベル王国は平和ボケしていたのだ。
仮に、足りない兵力を補うために今から徴兵をしたところで、素人の集団が出来上がるだけで、何の戦力にもならない。
しかし敵国の侵攻に備えて警備はしなければならないが、兵力は全く足りていない。
王国の民は、何とかまた黒い雨が降って敵国から守ってくれないかと祈りをする始末。どこまでも他力本願な国なのだ。今、国と民は危機に陥っていた。
しかしそんな風に混乱が起こっていても、仕事はしなければならない。レラはいつも通り家々に配達をして回っていた。
だがどこの家に行っても皆戦争を怖がっており、それにあてられてレラも次第に不安な気持ちになってきた。
そんな不安を表に出さずに気丈に振る舞いながら、レラは最後の配達先であるレインの家に向かった。
「おじさーん、開けてー!」
「はいはい」
レラが扉をノックするとレインは扉を開けた。そしてレインいつもの通りレラを迎えた。レインは特に怖がっている様子もなく、全くいつも通りだった。
そんなレインの様子にレラは少し安心した。
レラは荷物が入ったバッグを床に置くと、食糧や生活用品を出しながら愚痴を言い始めた。
「皆恐がり過ぎだよねー。どこ行っても戦争の話ばっかりで嫌になっちゃう」
レラは集団ヒステリーを起こしている街の皆にうんざりしていた。
「戦争は恐ろしいものだからね、仕方ないさ」
レインのまるで戦争を知っているかのような口ぶりに、レラは疑問を持った。
「おじさんって戦争経験したことがあるの?」
「秘密」
「そもそもおじさんって何歳なの?」
「それも秘密」
レラはレインに質問をするがはぐらかされてしまった。
「ふーん、まあいいや。ところでおじさん、新しいボードゲーム持って来たから遊ぼうよ!」
「仕事はいいのか?」
「今日はここで最後だから大丈夫!」
そしてレラはレインの家でいつも通り仕事の疲れを癒やした。レラはいつもより長くレインの家にいた。なぜならここが街で唯一落ち着ける場所だからだ。
※
数日後、国境警備隊の一人が早馬を飛ばしてレヴォルの街にやって来た。
「ゲルチェ王国のものと見られる斥候部隊が国境付近に向かって来ています!」
警備隊員の報告に街はパニックになった。敵国の兵士が近づいて来たとき、どうすればいいかわからないのだ。
街の人々はひとまず逃げる準備を始めた。皆が家に駆け込み準備をする中、レラはレインの元に向かった。
「どこ行くんだ、レラ!」
「おじさんのところ! たぶんこの事態に気付いてないだろうから、教えてくる!」
レラは丘の上にあるレインの家に走って向かった。息を切らして到着したレラは、レインの家の扉を開けた。
「おじさん! 早く逃げるよって、あれ? おじさん?」
その家にレインの姿はなかった。
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