第7話 暴風の訪問者
雨粒が矢のように家にぶつかり、轟音を立てて風が吹いていた。レヴォルの街を暴風雨が襲っていた。数年に一度あるかというほどの大荒れの天気だった。
木々は大きく揺れて、中には風の力に負けて根元から倒れるものもあった。家も風の影響で揺れるほどだった。
屋根が飛ばされそうな強風のため、家の中にいても安心できなかった。仮に外に出たならば、そのまま風に飛ばされそうなほどだった。
そんな暴風雨の中でもレラの仕事は休みにはならなかった。むしろこの荒天だからこそ、配達の仕事の需要が増すのだ。皆が家から出られないためだ。
「もう! こんな天気でも働けだなんて、人使いが荒すぎるよ!」
レラは文句を言いながらも各家に配達をしていった。
「ありがとうね、レラちゃん。大変だったでしょう? ちょっとオマケしておくからね」
配達をすると、街の人はレラに感謝の言葉を伝えた。そして感謝の印に報酬が少しだけ増えた。そのためレラは悪い気はしなかった。
そしてレラは最後の配達先である丘の上のレインの家に向かった。道中は風を遮るものがなく、レラは矢のような雨風に晒された。
ようやくレインの家に着くと、レラは家の扉を思いっきり開き、中に飛び込んだ。
「聞いてよ、おじさん! この天気で配達をって、あれ? お取込み中?」
レインの家には珍しく訪問客がいた。そこにいたのは女性だった。
「うわ、すごい綺麗……」
その女性は濡羽色の艶やかな黒髪に、染み一つない褐色の肌を持っていた。顔もとても整っており、スレンダーでスタイルも良く、まさに絶世の美人だった。
そこにいたのはゲルチェ王国を守護する神、カミカゼだった。
カミカゼを見たレラは、思わず見惚れてしまっていた。
「レイン、お客さんが来たよ」
カミカゼは突然やって来たレラを見ると、レインに話しかけた。
「レラか。この天気だから今日は来ないと思ってた」
「配達の仕事に休みはないんだよ!」
レラはバッグを床に置き、中から荷物を出して、それをレインに渡した。
「今日もありがとう」
「毎度あり!」
荷物を受け取ったレインはレラに報酬を渡した。そして報酬を受け取ったレラは、二人の邪魔をしないようにさっさと帰ろうとした。
しかしそれをカミカゼが引き留めた。
「この天気の中で帰るのは危険だよ。ここで少し待ったらどう?」
「いいんですか? 邪魔じゃないですか?」
レラは遠慮がちにカミカゼに聞いた。
「もちろん! レインも良いよね?」
「あぁ、別に良いぞ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
レインとカミカゼから了承を得たレラは、少しレインの家に留まることにした。レラは空いていた椅子に座った。
「私はレラです。お姉さんの名前は?」
「私はカミカゼ。よろしくね」
レラとカミカゼは互いに自己紹介をした。
「カミカゼさんは、おじさんの友達なの?」
「そうだよー」
レラの質問をカミカゼは肯定した。するとレラは一つのことに気付いた。
「ということは、カミカゼさんも神様なの?」
レラからの質問にカミカゼは少し驚いたような顔をした。そして笑顔でレラの質問に答えた。
「結構物知りだね。そうだよ、私も神の一人だよ」
「あまりに綺麗だから女神様かと思ったら、本当にその通りだった!」
レラはカミカゼが女神だとわかって、その美しさに納得した。
「それにしても、レインが神だと知っているなんて、信頼されているんだね」
「脅されて仕方なく教えたんだ」
「はは! 神を脅すなんて、なかなかやる娘じゃないか!」
カミカゼはレラのことを気に入ったようだった。
「カミカゼさんは何の神様なの?」
「私は風の神だよ」
「そうなんだー。そっか、だから今日はこんなに風が強いんだね!」
「正解!」
レラは今日の天気の理由を当てた。雨の神と風の神が同じ場所にいるのだから、暴風雨になるのも当然だった。
「今日はどうしておじさんのところに来たの?」
「ちょっとレインに話があってね」
そう言うとカミカゼはレインに向き直り、真面目な顔をして話し出した。
「レイン、戦争に君の力を使うのはズルだよ」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろう。平穏な暮らしを守るためだ」
カミカゼは数週間前のゲルチェ王国の侵攻について、レインに愚痴を言った。レインは生活のためだと理由を正当化した。
「ルールは守ってくれないと困るよ」
「お前たちが勝手に決めたルールだろ。俺が守る必要はない」
「もう、相変わらず意地悪なんだから!」
カミカゼが言うルールとは、神たちの間で作った戦争に関するものだった。神たちは戦争をする際に、自身の能力を使わないというものだ。
神の力を使えば、人間はあっという間に死んでしまって勝負にならないため、能力を制限しようと決めたのだ。
神たちは自分たちの力が人間同士の戦争にとって、オーバーパワーだとわかっているのだ。例外として、加護という形で人間に能力の一部を授けるのは認められていた。
しかしそれもあまり強い力を授けないように、慎重を期していた。
「ねぇねぇ、何の話?」
そんな神たちの事情を知らないレラは、話についていけなかった。
「この前にゲルチェ王国が攻めてきただろ。あれはカミカゼのせいなんだ」
「え!? そうなの!?」
レラは一気にカミカゼを警戒した。
「そのことはもう謝っただろ。許してくれよ。ほんの出来心だったんだ」
カミカゼはバツの悪そうな顔で言い訳をした。
「もう攻めたりしないから、安心して」
カミカゼは一息つくと、最後にレインに警告をした。
「最後になるけど、ソルがそろそろ大きなことをするみたいだよ」
「本当か?」
「確かな情報だよ」
ソルとはレインやカミカゼと同じ神の一人だ。ソルはカミカゼ以上に国を獲るゲームを楽しんでいた。
「それじゃあ、そろそろ帰るね。あんまり長いこと国を空けると、王がうるさいからね」
カミカゼがいない国は風の力が弱まるため、用事が済んだカミカゼはさっさと国へ戻ることにした。
「レイン、レラちゃん、元気でね」
そう言うとカミカゼはレインの家を後にし、暴風とともに去って行った。
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