星空に映る、鳥居のその先で。
とるっぽう
第1話 星空に映る逆鳥居
その噂はよく、囁かれていた。
――昨日誰と誰が鳥居の中に入っていったけど1人しか戻ってこなかったとか。
――鳥居のなかから人形の影が出てきた。とか
とにかく沢山の、共通点が鳥居だけの話題。
でも、それは、確かなものであった。
新月の夜月に一度だけその鳥居は現れる。
何処に出てくるのかは定かではない、基本はバラバラで、学校の屋上だったり、マンションの上の階のベランダから見えたとか、小さな丘の上だと聞いたときもある。
小さい子供から腰の曲がった老人まで、幅広い世代が目にする星空に映る逆さまの鳥居。
出現の共通点は高いところ、そして―――
―――新月の夜。
★☆☆☆☆☆
キラキラと、星の輝く黒い空。
あの、星の光の一つ一つが遠い宇宙の彼方から何年もかけてこの空に映っていると考えると、なんだがものすごい奇跡的なものを感じるのは僕だけなのだろうか。
星の光の一つ一つが遠い宇宙の彼方から来ているのだから、この目の前に広がる逆さまの鳥居もそうなのか。
今日は、新月の夜。
星の光のみが漆黒の空を儚く照らすその日
に、僕は通っている高校の屋上に来ていた。
ゴクリと唾を飲み込む音がやけに周りに響いた気がした。
緊張をなんとかしようと、目を瞑り、深呼吸をしようとして、
―――――シャン。
それは鈴の音か空耳か、沈黙を続けるこの夜の空間にそよ風が耳を、頰を、全神を包み込むかのように通り過ぎ、目を開けると……
そこは一面星の世界。
星の海とでも例えるのが正解だろうか。
目の前にはさっきまで上にあった鳥居が逆ではなく星の海に生えるかのようにたたずんでいて、さっきまで下に見えた闇夜に包まれた校庭のグラウンドが、高校の校舎が逆さに見えていた。
なのに何故か屋上のコンクリートの床だけが足元に広がっている。周りを見れはフェンスもあるがそれ以外は星星星。星の海だ。
目の前の鳥居はなんの特別感も、妖しさもなく、ただただ、そのポッカリと空いた口のようなところからも星の海が覗けた。
半ば無意識に、鳥居の前へと足を進め……
右足が鳥居を越えた瞬間に僕の意識はブラックアウトした。
★★☆☆☆☆
人は人生の中で一度は自分の存在に、意識について疑問を覚えると思う。
世の人達がどうなのか本当にそう思うのかは分からないが、少なくとも僕はそうだった。
中学生よりも、前、小学校の中学年頃のときだったかな。
それは本当に純粋な疑問から来た。
人間は死んだらどうなるのか。
当時読んでいた児童向けの文庫小説では、人は死んだら灰になってはいサヨウナラとか言っているキャラもいたため、灰になるのかぐらいだった。
実際、ひいばあちゃんの葬式のときも火葬によって骨だけとなり、その後墓に骨を入れた………様な感じだったと思う。
だから灰になるってことで理解した。
肉体は灰になるということは。
じゃあ、意識は?俗に言う魂。心。それはどうなるのか?死んだ瞬間に何もなくなる?でも、どうやって認識する?
急に怖くなって、両親にくっついてただただ泣いた。
それからは余り考えないようにしたがこれが発端だった。
中学生2年生になってしばらく、理科は得意だったので中3の範囲まで予習をして気がついた。
この世界のあらゆる法則、物質は理科でできている。
人間が、生命が生きているのも、物が落ちるのも、世界が見えるのも、天候が変わるのも、すべての物が存在しているのも何もかも、この世界のほぼ全て、いや全部は理科で、証明できる。
理科が無くなればなんてもし◯ボックスで言ったりでもしたらどうなるんだろうなとでも、思ったがそれよりも強い思いが生まれた。
この世界の法則達が何かのプログラムのように思えたのだ。
この世界はリアルなゲーム、フルダイブ型のVRは実現できたら法則のすべてがプログラムによって作成される、人工知能だってプログラムの塊だ。
つまり、ゲームの世界だとしてもおかしくはない。
そう考えたが最後、死んだらどうなるのかという過去の疑問が生まれ、怖くなっていった。
生きるのが怖い。死ぬのが怖い。こんなふうに考えてしまった自分が怖い。
死にたい。死にたくない。死にたい。死にたくない。死にたい。死にたくない。死にたい。死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい。
★★★☆☆☆
寒い、体を起こす。
明るかった。
なぜ?ここはどこだ?
目の前に広がっているのは学校の屋上。
しかし、明るかった。
記憶を辿る。確か………そう。
新月の夜に逆さまの鳥居をくぐった、そしたら意識が遠のいて………
今に至るってわけか…………
うむ、分からん。
ぱっと辺りを見渡してもいつもの学校のように感じるのに何処か違和感を感じてしまう。この違和感の正体は何だ?
その時、ガチャリと音がした。
音の先は屋上の入口、鉄製の扉がキイキイと耳障りな音をたてて開かれる、とっさに立ち上がって身構る。
「やっぱり………いた」
漆黒の髪に白い瞳、明らかに人間なのか疑わしい目をしたその少女の声は、僕を見つめて発せられた。
「だ、だれ…、…だ、……」
無機質な白い瞳に見つめられ怖気づいたのだろうか、自分の口から発せられた声は酷く震えていて裏返っていた。
少女は後ろを見渡して、首を傾げていた。
「いやお前だよ!」
定番すぎるスルーの仕方についつっ込んでしまうと私?とでも言いたげな顔で自分のことを指さしたのでうんうんと首を立てに振って頷く。
「そうですね〜、悪い、魔女でしょうか?」
「なんで疑問形…?」
「何でもクソもありません、周りがそう言うのでそうかなと」
先程まで正面にいた少女の声は突然後ろから聞こえてきて、
「さて、貴方………どうやってここに来ましたか?」
振り向けば少女はおらず、今度は真上から冷酷な、声が。
急いで見ればスカートが重力に反した状態で空中に逆さまに立っており、白い瞳に全てが見透かされるような、そんな気がした。
怖い。おしっこ行きたい。
「と、鳥居をくぐって……」
流石に嘘を付くとバレそうというか怖い予感がしたので正直に答える。
「その、鳥居の色は?どの様な条件で現れた?」
「な、なんだっていいだろ、」
流石に答えたくなかった、死にたかったなんて。だから、そんなことよりと言葉を続けて
「ここは、何処なんだ」
そう続けた。
★★★★☆☆
「ここは、あなたのセカイの裏に存在するもう一つのセカイですよ……………死ねなくて残念でしたね」
「もう一つの世界……………って!なんで死のうとしてたのを………」
言ってもいないのになんで………?
それに魔女というとも怪しい。一体この少女は何を考えているのか。
「まぁ、ぶっちゃけてしまうと、貴方がどうやってここに来たのかも、何を考えてここに来たのか、何を考えているのか。
そんなものは全部わかってしまうんですけどね」
言っている意味がわからない。
じゃぁなんだ、この少女は全部わかっているのに、質問をしてくるし、さらには考えていることもわかるだと?
なんのために?そもそも、この少女は何者なんだ?
「だから言ったじゃないですか私は悪い魔女だと」
僕の思考を読み取った様なタイミングで告げられた声は少女から漏れていた。
「セカイなんてものは全て一種のプログラムのようなものなんです」
彼女は突然語りだす。いつの間にかさっきまで少しは感じていたふざけたような空気はなくなり、真剣なまるで突き刺してくるかのような空気が漂う。
「一つのプログラムが意識を持つそのプログラムが成長して、生命を作り出す」
「そして、生命が死んだら魂を輪廻の輪に返し新たな別のセカイの魂と交換する」
「貴方が何をしようと関係ありません。
たとえ貴方が死んだとしてもそれはセカイにとっては誤差の一つ」
少女の瞳は僕に向けられている。その、無機質な様な白い瞳が。
「人間が蚊を一匹殺しても特に何も思わないでしょう。セカイも同じなんです」
そして、と彼女は続ける。
「人間なんて、生物なんて、生命なんていずれ死にます。永遠なんてなく、ただ己の死が確定した状態で生きるんです」
「いいですか、東雲達也クン。死が確定している生命の時間を自ら縮めてしまうのは愚かです」
「愚か………?」
「はい、人間には無限の成長が進化が隠れているのですから、それを最大限利用して、セカイを巻き込んで、そして死んでください」
「無限の成長…、?進化…?」
どういう意味なのか完全に理解したわけでもない。ただ、彼女の、魔女の目は挑発しているかのように細く笑っていた。
「今死ぬ意味なんてない、最大限好き勝手して、セカイを巻き込んでしまえばよいのです」
「でも、どうすれば、何をすれば………?」
「そんなものは自分で考えろとでも言いたいところですが、一つだけ道を差し出してあげましょう。」
「道?」
「セカイのプログラムを解明してみてください、セカイの真相を解き明かしてみてください」
「セカイの真相………」
明らかに地雷だ。
なぜなら彼女の顔が怪しいくらいに笑っているから、彼女がマジョだから。
でも、彼女の魔女の目が。
―――どうせ無理だろうけど。
とでも、言いたげないや、言っている。
僕には無理だろうと。自殺しようとしていた人間には、無理だと。
そんな挑発的な目に僕は、反応してしまった。
★★★★★☆
やってやる。
セカイの真相を解き明かしてやる。
魔女の挑発に、魔女の挑戦状に立ち向かおう
――――シャン
と、鈴の音がした。
「あっ………」
気づけば周りは星の海。
魔女はいない。空に浮かぶは逆さの鳥居。
学校の屋上、満面の星空の下で、新月の夜、星空に浮かぶ鳥居の下で。
僕は、もう少し生きてやっても良いかな、と思った。
★★★★★★
星空に映る、鳥居のその先で。 とるっぽう @toruppou
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