サキュバスちゃんは致したい

「あの……本当にここで脱ぐんですか……?」


「だって、こんな狭いところで……そりゃ、欲しいって言ったのは私ですけどっ……でも、……さっきからずっとニヤニヤしてるじゃないですかぁ。こんなっ、試着室に二人で入っちゃうとか、狭いし恥ずかしいですよぅ。……ふぇっ? なら俺が脱がせようって、なに言ってっ、あっ」


プチ、プチ、とボタンを外す音


「やっ、本当に脱がせてるっ。そんな、密着したら息が掛かってっ、んっ、ブラウスのボタン……全部外されたぁ。(脱がされる音)やっ、あんまり見ちゃダメですぅ」


「……なるほど、って言いましたっ? 今のなるほど、は何ですかっ? シャツを脱いでキャミソールになった私を見ての『なるほど』はっ、それは私のお胸がやはり貧相だという確認っ、ムググ……」


ふみまへんすみませんほえがほほきかっられすねこえがおおきかったですね……」


「じゃ、さっきのTシャツ着てみますね。んしょ、ふぅ。どうですか? Tシャツだな、って……そりゃそうですよっ。へ? これも着てみて、って、いつの間にっ? てかこれ……水着……じゃないですか……? ふぇっ? 水着の生着替えが見たい……? ここで、ですかぁ?」


「え? そのためにTシャツ着せた、って、わざとっ? Tシャツの下でうまいこと着替えろってことですね。そういうのがいいんですか? ……わ、わかりましたよぅ。着替えてみますぅ。んしょ、キャミソールは……脱ぎづらいですね。……よ、っと。下着はすぐ外せますけど。え? 俺がやるって、んんっ、」


口を塞がれる


「(ああああっ、ニンゲンさんに口を塞がれてるぅ!? なにこのシチュ! え? 待って待って、右手がTシャツの中に入って……あっ、肌に触れるっ、ああっ、ゾワゾワするぅ! わざと指這わせるのダメですぅ。んんっ、やらしいっ、ニンゲンさんの指がっ、ブラのホックに……、目ギラギラさせながら私をっ、舐め回すように、見てるっ)んんんっ!」


パチン、とホックが外れる音


「……ぷはっ。……私もうっ……こんなっ、こんな密室で、はぁっ、そんなことされたらっ、我慢の限界ですぅっ!」


*****


バタン、とドアの閉じる音


「んもぅ、あなたのせいですからねっ。まさか試着室で鼻血出すだなんて、サキュバスとしてあるまじき行為ですっ。本来は私が興奮させる側で、ニンゲンさんが鼻血を出すべきシーンなのにっ」


「汚しちゃったTシャツは買い取りになっちゃうし、二人で試着室に入らないでください、ってお店の人に怒られちゃうし、まったくぅ。予定よりだいぶ早い帰宅になってしまいましたけど、……でも、楽しいデートでしたね❤」


「……え? 改まってどうしました? 聞きたいこと? 試験のことですか? ……ええ、まぁ、ですよ。……ふぇ? 試験のあと、ですか? それはっ、一人前のサキュバスとして世の男性方を誘惑して……へ? 試験のあとも一緒にいられるのかって?」


「……それは難しいですね。私たちサキュバスは不特定多数の男性を誘惑するのが天命ですし、そもそも私たちと人間とでは生きる世界が違いますし……」


「へ? 正装が見たい? あんなに嫌がってたのに、どうしました? もしかして致してくれる気になったのですかっ? ……まずは正装を見てから? まぁ、いいですけど……あまり期待しないでくださいね(ごそごそと服を脱ぎ出す)」


「じゃ~ん! サキュバスは悪魔の仲間。男性の精気を吸い取って生きる魔族なのですっ。そしてこれがサキュバスとしての正装です! ボンテージ風の黒革のビキニは背中でクロスしている紐がポイントでぇ、パンツはしっぽの邪魔にならないように浅く、背中には小さな二枚の羽根。ニーハイの網タイツはガーターベルトで緩めに装着! そして頭には二本の角! かんっぺき!(ポーズを決める)」


「(膝を突く)……は、んっ、な、何をっ……しっぽはっ、掴んじゃダメって……言っ……やぁっ、そんな風に撫でないでぇっ。ああっ、しっぽの先持ったままっ、角を触るとかっ……ん、ダメ……ですよぅ、」


「ニンゲン……さん、また悪い顔にっ、なって……やぁんっ、もぅ意地悪しないでぇ(涙目)」


「ふぇっ? 好きな女の子いじめたくなるのは男の習性だ、って……えっ? って言いましたっ? 今っ、」


キスの音


「んっ、」


「――あなたのキスは……甘い、ですね」


「ひゃっ、しっぽ、離してくださいよぅ! ふぁっ、んんっ、(キスの音)尻尾掴んだままのっ、キスは、ダメですぅっ!」


「ふぇ? 意地悪されるの嫌いか、って、そんなっ。そんな質問意地悪ですぅぅ」


「呼びづらい、ですか? でも名乗るわけにはいきませんので……へ? じゃあ勝手につける? マリア? 私に名前をっ!? だ、だだだダメです! サキュバスは名前を付けられてしまうとっ、(慌てて口を押える)」


「な、なんでもありませんっ、いや、そのっ、だから名前はっ、」


「うにゃぁ! んっ、しっぽ、ダメだってばぁっ。わ、わかりましたっ、言います、言いますからぁ! ……サキュバスは悪魔です。ので、名を与えられてしまうと、それは契約となってしまうので……、」


「えっ? 契約するって、そんなっ、あなたの命が掛かっているのですよっ? 契約だなんてそんなっ! ……マリアは俺の、って……」


「やだ、なんだか泣けてきちゃいました……そんな、そんな風に言っていただけるなんてっ。私はあなたの。あなたは、私の……」


「では早速、ですね! 愛し合った二人は結ばれるものと決まっていますものっ! ……え? まだしないっ? 時間かけてたっぷり楽しむ、ですかっ? そんなっ、ここまできてじらさないでくださいぃぃ」


「……でも、意地悪されるのは、嫌いじゃないかもしれないです。あなたになら。(キスをする)」


「──ね、致しましょう?」



おしまい

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【ASMR】サキュバスちゃんは致したい にわ冬莉 @niwa-touri

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