第21話 イヌホオズキの花言葉



休日の昼下がり。

結仁と茉白は変わらず結仁の家でくつろいでいた。


結仁はダイニングテーブルで読書。

茉白はソファで昼食後の微睡みと闘っていた。


しばらくそんな調子で居ると、結仁は思い出したように席を立ち可愛らしくうとうとしている茉白に言った。


「ちょっと買い出し行ってくるから、少し寝てろよ」


「…すみません、さすがに眠気に勝てなくて」


茉白はニコッと笑いかけた。


「じゃあ、行ってくるな」


「行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」


結仁は家を出た。

茉白はまたうたた寝を始める。



\ピンポーン/


インターホンが鳴り響く。

茉白はその音に目を覚ました。


(なんだろう…。)


茉白は起きて間もないしょぼしょぼな目を擦りながら体を起こした。


\ピンポーン/


2回目が鳴り響く。


(上田くんかな?)


玄関へ向かった。

このマンションはオートロックなので何も疑わず扉を開けた。

すると扉の向こうには結仁の親友、志穏が立っていた。


「やっほ〜!近くに来たから来ちゃっ…?!」


志穏は茉白と目が合う。

茉白も目が合うと同時に、「あっ」と驚きながら口を覆った。


少しの静寂の後、先に言い出したのは志穏だった。


「…えっと、あの〜…し、東雲さん?ここ、結仁の家で合ってますよね…?どうして…?」


志穏は家の上田と書いてある表札と茉白を交互に見ながら、何も理解出来てない様子で言った。


「あっ、えっと、あの…その…」


茉白は顔が少し赤らみ、もごもごと呟いた。


(なんて言えばいいの…!この状況!上田くんと私だけの秘密が…)


茉白は整理がつかない様子。


次第に状況を掴み出した志穏は茉白に問い直した。


「えっと、あの学校でも有名な東雲さんが、なぜこちらに…?」


茉白は俯いたまま話した。


「あの…その、ここじゃあれなので…まず中で話しませんか…?」


志穏は、「えっ」と驚きながら言う。


「…ここ、結仁の家…ですよね…?」


「とにかく、一旦気にせず上がってくださいっ」


茉白は俯いたまま言った。

2人は玄関を入りリビングに腰掛けた。


手入れのされている家具、丁寧に整理されている本棚、綺麗に並べられている小物や食器、日用品。


志穏は結仁の家だと確信した。


「…まず、なぜ結仁の家に東雲さんが…?ま、まさか、結仁と…ど、同棲?!」


急に真剣になったと思えば、思い込みを口にしては大袈裟に驚く志穏。

大きく話が逸れる。


しかし、それが効いたのか茉白は同棲の言葉に顔を真っ赤に染め上げた。


「どっ?!同棲だなんて…!ちっ、違いますっ!」


「じゃ、じゃあなんで〜!って…まさか!結仁のお世話係?!」


また違う思い込みをぶつける志穏。

行ったり来たりな思い込みに茉白は目をまわした。


「通りで結仁の女子力が高い訳だ…、謎が解けた…」


「そ、それも違いますっ!」


茉白は必死に志穏の思い込みに抵抗した。


(ど、どうすれば…)


茉白は整理のついてない頭で必死に考えた。


「じゃあ、東雲さんと結仁はどーゆー関係なの〜!!」


志穏は急に茉白の肩を掴むと、ゆさゆさと揺らした。

茉白は揺らされるがまま揺らされた。


「せ、説明しますからーっ!」


2人ともがパニックになった。


…。


少し時間を置いて落ち着くと、志穏が話し出した。


「…私、眞鍋志穏です。あの、なんで東雲さんが結仁の家に?」


「眞鍋さん、知ってますよ。上田くんからよく聞きます。実は私、ここでご飯食べさせてもらってて…」


少し恥ずかしそうに茉白は答えた。


「実は上田くんとはご近所さんで…」


「…お隣さんとか、ですか?」


志穏は少し考えるように言った。


すると茉白は指で上を指して言った。


「お隣ではなくて、丁度上の階の部屋が私の家で…」


「なるほど〜」


志穏は納得したように頷くと、少し反省した顔つきで言った。


「…って、さっきはごめんなさい、変な思い込みばっかりしちゃって…。困っちゃいましたよね…?」


「…いえいえ、大丈夫です。私もパニックになってたので。それと敬語じゃなくて大丈夫ですよ。私のことは好きに呼んでください」


茉白はニコッと志穏に笑いかけた。

そんな茉白に見とれてポカンとしている志穏。


「…か、可愛い((ボソッ…。」


「…?」


志穏は静かに呟くと気を取り直して言った。


「じゃ、じゃあ茉白ちゃんで良い?」


「全然良いですよ」


志穏はグッと拳を握ると急に茉白の手を握った。


「まだまだ聞きたいこと沢山あるけど、一旦!私達、友達で良いんだよねっ!茉白ちゃん!」


クラスメイトともロクに話さない茉白にとって、友達という単語はとても新鮮だった。

そんな志穏の言葉に嬉しくなる茉白。


「と、友達!ぜひっ!」


志穏の手に包まれた茉白の手。

茉白は志穏に応えるように握り返した。


すると、


\ガチャッ/


玄関の方向から鍵を開ける音がした。

2人は玄関に顔を向けた。


扉が開く。


結仁が帰ってきた。


「ただいまーって…えっ?」


結仁が見つめる先には茉白の手を握る志穏の姿。

状況が掴めない。


すると志穏と茉白は立ち上がり、結仁に近づいた。


「ちょっと?結仁〜?説明してもらお〜か〜?」


志穏は茉白を見た後にニヤニヤと結仁を見つめる。

結仁は苦笑いを浮かべながら茉白の方へ目線を逸らした。


茉白はモジモジと結仁から目を逸らした。


「…バレたか」


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完全無欠な美少女!!実は不器用?! 式田かず @kaz_nda

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