第20話 ご褒美



結仁が自宅に到着すると、茉白は既に帰宅していた。


扉を開けると茉白が出迎えてくれた。


「上田くん、おかえりなさい!」


「東雲、ただいま」


「今日は早かったですね!」


茉白は顔を上げて微笑んだ。

結仁はケーキの箱を茉白の前に差し出した。


「これ、東雲へのご褒美。学年一位、おめでとう」


茉白の目が驚きで見開かれた。

彼女はケーキの箱を見つめ、次に結仁を見て、そして再びケーキに目を戻した。


「わあ、ありがとうございます!すごく嬉しいです!」


とても嬉しそうな茉白を見て結仁は少し照れた。


「まあ、夕飯終わったら食えよ」


照れ臭くて結仁は茉白から目線を外して言った。

茉白は箱を大事そうに抱えるとニコッと笑いかけた、


「はいっ!そうですねっ!」


……


夕飯をとりおわり、茉白はソファに座ると結仁は冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。


茉白は箱を開け、中のフルーツショートケーキを見て笑顔になった。

結仁はその笑顔を見て、自分も嬉しくなった。


「さっそく食べようか。」


二人はケーキを取り出し、リビングのテーブルに並べた。


結仁がフォークを渡すと、茉白は一口ケーキを口に運び、幸せそうに微笑んだ。


「美味しいです!上田くんこのケーキ、すごい美味しい!」


茉白は満足そうに言いながら、フォークをもう一度ケーキに突き刺した。


美味しそうに頬張る茉白の姿は、学校にいた時の大人びた雰囲気から打って変わって無邪気な1人の少女のようだ。


結仁は茉白をじっと見る。


その時、彼女はふと思い立ったように結仁と目を合わせた。


「上田くん、口開けてください」


結仁は驚いた。


「えっいや、俺はいいよ」


「遠慮しないで!」


そこまで言うならと仕方なく従う事にした。


「…わかった。あー」


そう言って目を瞑りながら口を開けると、茉白はふふっと笑いながらケーキを切り分けた。


切り分けた一口分をフォークに刺すと、


「はい、あーん」


茉白が丁寧にケーキを運び、結仁の口に一口分のケーキを差し込んだ。ケーキの甘さとフルーツの爽やかさが口の中で広がり、結仁はその美味しさに目を見開いた。


でもそれよりも、恥ずかしさが勝った。


「…ケーキ美味しいけど、やっぱり恥ずかしいな」


「ふふっ、照れてるんですか?可愛いですねっ」


そう言うと茉白はまた一口頬張った。


そんな姿を見ながら、フォークを見る。

結仁は肝心なことに気づいた。


茉白が使っているフォークで…。


(間接k…っいやいや、考えるのはよせ…)


結仁は意識し出すとしきりに顔が赤くなり口元を押さえていた。


そんな結仁に目もくれず、ケーキに夢中になっている茉白。


不意に結仁を見た。


「…?なんで口元を押さえて…?」


「っあこれは」


結仁は悟られないように目を逸らした。


「…もしかして、もう一口欲しいんですかー?」


茉白は結仁をからかうように言った。

茉白は結仁を横目ににやりと笑うと、純白髪を耳に掛ける。

すると手に持っているケーキを刺したフォークを少し高めに見せた。


茉白のその言葉に反応して結仁は少しムキになって言う。


「っちがう!」


「じゃあなんで口元を?」


「…その、無意識に…フォーク」


結仁の支離滅裂な発言に茉白はフォークを見つめた。


少し考えるような動作があると、段々と気づき始めた。


「…っ?!あっ、上田くんっ、そっそれはちがっ!えっと…、」


結仁とフォークを交互に焦ったように見る茉白。


茉白はとうとう、顔が真っ赤になり燃え尽きた。


「…っ!」


そんな茉白に結仁は口をついた。


「…俺もさっき気づいたし、他意は無いからな」


「分かってますよ、、」


2人は黙り込むと俯いてしまった。

しばらく気まずい空気が流れる。


その静寂を切るように、茉白はボソボソと話し始めた。


「…嬉しかったです」


「ん?なんだ?」


茉白は俯きながら言ったので、結仁の耳には届いてなかった。


すると茉白は結仁を上目遣いで見た。


「あ、えっと…その、ケーキ…嬉しかったです!」


「そうかよ。喜んでくれたなら良かった」


すると茉白の表情は次第に神妙になっていく。


「…私、こういう"ご褒美"というものは貰ったことがなくて。なんというか、とても不思議な気持ちになりました」


「…親からも貰ったことは無いのか?」


茉白は小さく頷いた。


どうやら複雑な理由があるみたいだ。


「…東雲。誕生日、いつだ?」


「…誕生日ですか?12月の19ですけど…」


「わかった!」


結仁は元気に返事を返すと、茉白は急にわっと話し出した。


「…いやっ!だからといって何も用意しなくて大丈夫ですからねっ!」


茉白はカレンダーに目をやり、急に困り顔で結仁に噛み付くように言った。


「いーや、その日は楽しみにしとけよな」


結仁は茉白の頭を撫でる。


純白のサラサラな髪。

ずっと触っていたくなる感触とともにシャンプーの甘い香りがする。


急な結仁の動作に茉白は黙り込んだ。


「…上田くんばかり…ズルいです」


その言葉に結仁は微笑みながら冗談混じりに言う。


「俺は元々ズルい奴だよ」


不意に食べかけのケーキに目をやる。


「…東雲、ケーキ、乾いちまうから美味いうちに早く食えよ」


茉白は結仁のぶっきらぼうながらも思いやりのある言葉に笑った。


「そうですねっ!残りもいただきますっ!」


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