【実話怪談】先住人の居る借家

縦縞ヨリ

私の実家の話をさせてください

 私は父に連れられて、まだ空き家だったその家を見に行きました。

 とても古い借家で、非常に凝った造りの広い家です。立派な床の間に、意匠を凝らした船底天井の部屋。

 家賃は相場の半額強。

 二階に上がると、今にも背中に誰かが触れそうな嫌な気配がしました。

「パパ、ここお化け屋敷だよ」

 

 前の住人は三日で出ていったそうです。

  

 まだ引っ越す前、一人で道具を持ち込んで試験勉強をしていました。

 隣室でガラッと襖を開ける音がしました。

 その場で電話して、母に迎えに来てもらいました。


 そんな家にも慣れ、私と弟は、目を閉じて頭の中で家の中を一周すると、幽霊が居るか分かるという遊びをしました。目を閉じます。

「階段上がったとこ女の人が立っててそれ以上行けない」


 船底天井の立派な和室は当初弟の部屋でした。

 夜、襖を開けて部屋に入ると、奥の窓に激しくおいでおいでをする手が映っていたそうです。

 弟は悲鳴を上げつつ、窓の障子を閉めたとの事。

 よく部屋に入れたね?


 その後、私がその部屋を使う事になりました。

 ちなみに引越し前に「ガラッ」と音がしたのもこの部屋です。

 その部屋で寝るようになってから、週一くらい、酷い時は三日連続金縛りに遭うようになりました。

 最初は怖かったのですが案外慣れるもので、むしろ疲れが取れなくて困りました。

 

 ある夜、ふと目覚めると身体が動かず、しかし何故か手だけは自慰の真似事の様に動いていました。

 は? と思うと同時に、女性の高い笑い声が耳元で響きました。

 何せ当時は純情な少女でしたから、私は激怒しました。

「ふ ざ け ん な」

 金縛りの中、腹の底から怒声が出ました。瞬間、身体は自由になりました。

 その後、金縛りには遭わなくなりました。


 気持ち悪い女が住み着いている。

 私と弟はそう思っていたのですが、父は何故か、

「この家にはお姫様が居る」

 と言っていました。着物を着た高貴な人だと言います。

 そんなものでは無かったと思います。

 もっと肉感的で、いやらしいものでした。


 その後十年程して、仲の良かった父と母は仲違いして別居しました。

 いつからか話が通じなくなってしまった父だけがあの広い家に残りました。


「元々お琴の先生が住んでたそうよ」

 母は言いました。

 そこで理解しました。

 この地域は元々お妾街で、囲われた芸妓さんや愛人さんが沢山住んでいたのです。

 

 何年か前の元旦、父はその家で一人、亡くなりました。

 父の生家は大きな料亭で、沢山の芸妓さんが出入りしていたそうです。


 終

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