【19話】ハプニング
服飾店を出た四人。
それからも、色々な場所を訪れていく。
ジュエリーショップに入ったり、オシャレなカフェでスイーツを食べたり、ベンチに座って談笑したり。
そんな様々な体験はユウリにとって初めてのことばかりだったが、どれもが楽しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いつしか夕焼けの赤がポプラの街を染めていた。
「そろそろ帰りましょうか。お夕飯は、ポプラ名産の牛肉を使った料理らしいわよ」
アメリアの言葉に、テンションの上がる三人。
夕食についてあれやこれやと話しながら、一行は宿へ戻っていく。
宿に戻ってしばらく。
ユウリたちの部屋に、従業員が夕食を運んできた。
「ご夕食でございます」
大きなテーブルに載せられていくのは、牛肉を使った様々な料理。
美味しそうな料理に、四人の視線が吸い寄せられていく。
従業員が部屋を去ってから、四人は食事を始めた。
料理を口にした四人は、全員が全員とも「美味しい!」と同じ言葉を口にする。
「ユウリの料理と同じくらい美味しいのう!」
「そいつは最高の褒め言葉だ! ありがとうな、フィア」
「フィアさんばっかり褒められてずるいです! 私はユウリ様の料理の方が好きですよ!」
「へぇ、ユウリちゃんの料理ってそんなの美味しいのね。私も食べてみたいわ!」
絶品の料理に舌鼓を打ちつつ、話に花を咲かせていく。
四人の食事をする手は早く、あっという間に料理は空になった。
「ふぅ、食べた食べた。大満足だぜ」
「ユウリちゃん、まだ満足するのは早いわよ」
腹をポンポンと叩くユウリに、アメリアがフフっと笑う。
「この宿の目玉は大きな露天風呂よ。それに入らず満足するのは、いけないことだわ」
「おぉ、そうか。温泉宿だもんな!」
人生初の露天風呂に、ユウリのテンションはグングン上がる。
入るのが今から楽しみだ。
「じゃあ三人で先に入ってこいよ。俺はその後で入るからさ」
それを口にしたとたん、他の三人の顔が一気にユウリへと向いた。
三人とも、何言ってんのこいつ? 、みたいな顔をしている。
ほんわかしていた雰囲気が、急に冷たくなってしまった。
「……お前ら、急にどうしたんだよ」
三人の態度急変の理由が分からないユウリは、恐る恐る聞いてみる。
ユウリの目の前まで来たリエラが、両肩をガッと掴んだ。
服飾店で試着を迫ってきたときと、なんだか雰囲気が似ている。怖い。
「ユウリ様。こういう時はみんなで一緒にお風呂に入るんですよ」
沈黙すること数秒。
ユウリは「えええええ!?」と大声を上げた。
風呂に入る時は、衣服を全て脱ぐはずだ。
他の三人と一緒に入るとなれば、色々と見えてしまうのは確実。
その刺激に、ユウリは耐えられる気がしない。
「当然じゃな」
「まぁ、普通はそうよね」
アメリアとフィアも、リエラと同意見のようだった。
「ユウリ、ひょっとしてお主恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ!」
「何を恥ずかしがることがあるんじゃ? よく分からん」
普段は頼れるヤツなのにのう、と呟いたフィアが肩をすくめた。
「フィアさんの言う通りです。行きますよ、ユウリ様」
リエラが手を掴んできた。
掴む力はかなり強く、簡単には振りほどけそうにない。
「リエラ、本当にやめてくれ!」
「ユウリ様と初めてのお風呂……ふふふ」
リエラは妄想の世界に入ってしまった。
ユウリの話など、まったく頭に入っていない様子だ。
(こうなったら……!)
「フィア! アメリア!」
リエラの説得を諦めたユウリは、他の二人に助けを求める。
それはもう必死に、救援要請する。
しかし、二人は首を横に振った。
「ユウリ、往生際が悪いぞ。観念せい」
「怖がらなくていいのよユウリちゃん。お風呂に入っちゃえば、きっと恥ずかしくなくなるわ」
こうして、ユウリの救援要請は却下された。
お風呂楽しみね、なんていう話をしながら廊下を歩き出す、ユウリ以外の三人。
行き先はもちろん、露天風呂だ。
(ここまでか……!)
全てを諦めたたユウリ。
こうなってしまったのなら、もうやることは一つしかない。
ユウリはギュッと目を瞑る。
お風呂から上がるまで決して開かない、そう強く誓った。
「つ、疲れた」
露天風呂から部屋に戻ってきたユウリは、どっと疲れていた。
ずっと目を瞑っていたので、風呂を楽しむ余裕などまったくなかった。
さっぱりリフレッシュしている雰囲気の三人とは、大違いだ。
(早く横になりたい)
疲れているユウリは、そんなことを思った。
「もう寝ようぜ」
ユウリの提案に、他の三人は頷いた。
部屋の壁際に設置された、巨大なベッド。
四人はその上で、体を横にした。
左から順に、アメリア、フィア、ユウリ、リエラという並びだ。
ふかふかのベッドの上で目を瞑ったユウリは、すぐに強い眠気を感じた。
ほどなく眠りにつくだろう。
だがそれを許さないかのように、リエラが抱き着いてきた。
「ユウリ様~」
寝言を言いながら、ユウリの顔を胸に押し付けるリエラ。
ユウリを抱き枕みたいに扱ってくる。
以前なら、このまま朝までリエラの抱き枕になっていただろう。
しかし、今のユウリは違う。
日頃からリエラに抱き着かれているユウリは、両腕の拘束から抜け出す術を身に着けていたのだ。
「ふふふ」
小さく含み笑いを上げながら、拘束から逃れるユウリ。
そのまま寝返りを打つと、ぼよん。
大きくて柔らかいものが、ユウリの顔面に当たった。
フィアの胸だ。
リエラとはまったく違う感触に、ユウリは顔を赤らめる。
フィアは、その場でぐるりと回転。
体が上下反転になる。
「肉……肉をもっと食べたいのう」
寝言を呟いたフィアが、そのまま抱きついてきた。
ぷにぷにの太ももが、ユウリの顔面に密着する。
(寝相が悪いにもほどがあるだろ!)
フィアから離れようと、体をよじよじ動かすユウリ。
しかしここで、事態が悪化してしまう。
引き剝がしたはずのリエラが、背中から抱き着いてきたのだ。
前後から抱き着かれ、サンドイッチ状態になるユウリ。
密着されているせいで、体が思うように動かせない。
逃れようと試行錯誤するが、どうもうまくいかなかった。
「こうなったら……!」
ユウリのとった行動は、諦め。
色々頑張ったが、もうどうしようもない。
こういうときは、思い切りの良さが大事だ。
「今日は一日、楽しかったな」
ユウリはポツリと呟く。
今日一日の体験は、どれもが新鮮で楽しいものだった。
露天風呂や、二人の美少女に抱き着かれている今の状況など、アクシデントはあった。
でも、そういうのもなんだかんだで楽しいと感じている自分がいる。
きっとそれは、みんながいるからだろう。
「また、みんなで来たいな」
ゆっくり目を閉じるユウリ。
その口元は、楽し気な笑みを浮かべていた。
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