【37話】武器修繕


 あのお方の正体を探りに、リエラがモルデーロ王国に向かってから二日。

 

 自分の部屋にいるユウリは、外出準備を進めていた。

 そこに、フィアとソフィがやって来る。

 

「暇じゃから遊びに来たぞ! ソフィも一緒じゃ!」

「こんにちは!」

「ダメだろフィア。ソフィはまだ病み上がりなんだ。連れまわすのは良くない」


 ユウリは小さくため息を吐いた。


 狂化の髪飾りを着用している間、ソフィの体はずっとダメージを受けていた。

 元気そうに見えるが、目に見えないダメージが残っているかもしれない。

 今は安静にして、しっかり体力を回復させるべきだ。

 

「……うう、そうか。すまんかった、ソフィ」

「いえ、体も元気になってきたしもう大丈夫です。それにフィアさんに誘ってもらえて、嬉しかったんです!」


 ソフィはとても人懐っこい。

 目を覚ましてからのこの数日だけで、すっかり仲良しになった。


「元気になったのは良いことだけど、まだしっかり休まなきゃダメだ。そうやって安心しているときが一番怖いんだから」

「はーい」


 返事をしたソフィアが嬉しそうに笑った。

 

「なんだかユウリさんって、お母さんみたいですね。一番幼いのに、なんだか不思議です」

「まあな。リエラもフィアもだらしないから、俺が面倒を見ることが多いんだ。問題児たちを放っておけないからな」

「む! それは聞き捨てならんのう! リエラはその通りじゃが、わらわはしっかり者じゃろ! 撤回を要求するのじゃ!」


 ムキーとなったフィアを、はいはい、とユウリは軽くあしらう。

 こういうやり取りはいつものことだ。

 

「ソフィは、だらしないところを見習っちゃダメだぞ」

「それは残念です。私もユウリさんに怒られてみたかったので」

 

 ソフィがペロッと舌を出す。

 結構お茶目な性格をしているのかもしれない。


(でも、元気になったみたいで良かった)


 ディアボル王国の兵士を傷つけたことを、ソフィはかなり気にしていた。

 それをずっと引きずってしまいそうで心配していたのだが、この分では大丈夫そうだ。

 

「ん、なんじゃユウリ。出かけるのか?」


 フィアの視線は、荷造り中のリュックへ向いていた。

 

「ああ。エルフの里へ行ってこようかと思ってる。ビトーのおっさんに用があるんだ」

「ビトーといえば、あのドワーフみたいな見た目をした鍛冶職人のエルフじゃな! しかし、どうしてじゃ?」

「これを修復してもらおうと思ってな」


 ユウリは、ヒノキノボウルグを取り出した。

 そこには、狂化の髪飾りを破壊する時にできた多数のヒビが入っている。

 

 今のままでは、いつ壊れてしまうか分からない。

 肝心なところでそうなったら最悪だ。

 

 壊れてしまう前に、きちんと修復をしておきたかった。

 

「前にあのオッサン、『武器で困ったことがあれば、何でもやってやる』って言ってただろ? だからさ、その言葉に甘えようと思ったんだ」

「武器を変えるという選択はないのかの?」

「それも考えたけど、やっぱり俺はこれが良いんだ」

 

 新たな武器に変えることも考えて、昨日は一日ファイロルにある武器屋を巡っていた。

 色々な武器を手に取ってみたのだが、どれも今一つ。

 

 結局は、慣れ親しんだ武器であるヒノキノボウルグが一番良いという結論に達した。

 山の中で拾った木の棒が、ユウリにとっては最適で最強の武器なのだ。

 

「今回、フィアは留守番だ。ここに残ってソフィの看病をしていてくれ」

「分かったのじゃ。ビトーによろしくな」

「おう。ドワーフみたいなエルフ、っていうお前の悪口、しっかり伝えてきてやるぜ!」

「てめえら! 誰がドワーフだ!!」


 バン! と勢いよく開かれたドア。

 部屋に入ってきたのは、今まさに噂をしていたエルフ。鍛冶職人のビトーだった。

 

 突然現れたビトーに、フィアは目を白黒させる。

 

「なぜお主がここにおるのじゃ!?」

「モルデーロ王国と戦争したって聞いたからよ。もしかしたら、お前らが巻き込まれてるかもしれないって思ってな」

「なんだ。俺たちが心配で来てくれたのか」

「そんなわけあるかよ! その……娘が行ってやれって、うるさかっただけだ! お前らのことなんか別に心配しちゃいねえよ!」

 

 動揺しているビトー。

 嘘をついているのがバレバレだ。

 

(相変わらず素直じゃないオッサンだなぁ)


 そんなビトーの心遣いを、ユウリは嬉しく感じる。


「それにしても、ナイスなタイミングで来たな。ちょうど今から、オッサンのところに行こうと思っていたんだ」

「なんだ、武器のことか?」

「ああ。オッサンに修復して欲しい武器があるんだ」


 手に持っていたヒノキノボウルグを、ビトーに渡す。

 

 それをまじまじと見たビトーは、驚いた表情になった。

 

「この棒きれがお前の武器なのか? よくこんなので、今まで戦ってきたな」

「ああ。俺には特別なスキルがあるからな」


 【勇者覚醒】のことをビトーに話す。

 

 始めは怪訝な顔をしていたビトーだったが、話が終わる頃には納得してくれていた。

 

「なるほどな……。【勇者覚醒】を発動すれば、お前のステータスに加え、武器の強さも上がる訳か。棒切れで戦えてこれたのは、それが理由だったんだな。で、修復してほしいのはこのヒビか?」

「ああ。壊れる前に修復してほしいんだ」


 ユウリがそう言うと、ビトーは目を瞑ってしまった。

 腕を組み、考え込んでいるような表情をしている。

 

 しばらくして、ビトーの瞳がすうっと開いた。


「五日だ。五日後、またここへ来る」


 それだけ言ったビトーは、ヒノキノボウルグを持って立ち去っていった。

 

 挨拶もなしに去っていったビトー。

 もしかしたら、挨拶するのが恥ずかしかったのかもしれない。

 

(あのオッサンらしいな)

 

 素直になれない頑固親父に、ユウリは苦笑いした。

 

******


 五日後。

 ユウリの部屋へ、約束通りにビトーがやってきた。

 

「ほらよ」


 ビトーにヒノキノボウルグを手渡される。

 

 ボロボロだった外見が、とても綺麗になっている。

 あれだけ入っていたヒビは、完全に修復されていた。

 

 しかも、それだけでない。

 修復されたヒノキノボウルグには、色々とカスタマイズが施されていた。

 

 持ち手にはグリップが付けられていた。

 おかげで、以前より断然持ちやすくなっている。

 

 さらに、全体的に丈夫になっている気がする。

 それでいて、以前と重さは変わらない。

 

「修復ついでに中身をいじって、丈夫にしておいた。これで、強度がかなり上がったはずだ」

「うおおおお! ありがとなビトーのオッサン! あんた天才だな!」


 ビトーの腕とサービス精神に、大きく感動したユウリ。

 嬉しさのあまり、ぐっと身を乗り出す。

 

 それにはいっさい反応せず、ビトーはドアへ向かった。

 

(また挨拶もなしに帰るつもりか?)


 そんなことを思ったのだが、今回は違った。

 

「そう思っているなら、今度俺の家に飯でも食いに来い。お前たちが来れば娘が喜ぶ」

「おう! 必ずみんなで行く! 楽しみにしていてくれ」

「そんじゃ、せいぜい頑張れよ」


 部屋を去っていくビトー。

 その口元は、微かに笑っていたような気がした。

 

「ありがとうな、おっさん」


 頼んだこと以上の仕事をしてくれたビトーの気持ちが嬉しい。

 去っていく頑固親父の背中に、ユウリは大きく感謝をした。

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