【11話】オーガもどき
ロッソたち四人は、この人型モンスターと遭遇。
そして、戦斧で斬り殺されてしまったのだろう。
返り血まみれの人型モンスター。
ロッソの青いバンダナ。
この二つが、そんなことを物語っていた。
人型モンスターを、ユウリはまじまじと見る。
(オーガに似ているようだけど、なんか違うな)
鬼のような顔に、筋肉隆々の巨体。
人型モンスターは、オーガに近い特徴を持っていた。
だが、体の色が違う。
オーガが赤色なのに対し、この人型モンスターは灰色をしている。
さらに、戦斧を手に持っている。
リエラを襲っていた赤色のオーガは素手で、武器を持っていなかった。
(オーガによく似た別のモンスターか? うーん……)
モンスターの知識に乏しいユウリは、人型モンスターの正体が分からないでいた。
「リエラ、あのモンスターのこと知っているか?」
「いえ、分からないです。私も初めて見ました。ですがオーガによく似ているので、近しい種族かもしれません」
「とりあえずこいつの名前は、『オーガもどき』だな。俺は今からこいつを狩る」
冒険者として生きて行く以上、これから多くの戦いに身を投じることになるだろう。
ゆくゆくは強敵と出会うような場面も出てくるはずだ。
それに備え、ユウリは少しでも実践経験を積んでおきたいと考えた。
オーガもどきの力量が、オーガと同程度なら問題なく狩れるはずだ。
仮にオーガより強かったとしても、ケタ違いに強くなければ勝てるだろう。
「リエラは下がっていてくれ」
リエラには悪いが、いても邪魔になるだけだ。
相手が一体なら、一人の方がやりやすい。
理由を口にせずとも理解してくれたのか、リエラはすぐに後方に下がってくれた。
「【勇者覚醒】」
スキルを発動したユウリは、爆発的なスピードでオーガもどきの懐に飛び込んだ。
「オオッ!?」
戸惑いの声を上げるオーガもどき。
しかしそうなりながらも、右手に持つ戦斧を振り下ろしてきた。
反応してくるあたり、なかなかだ。
ただ驚くだけで何もできなかったオーガよりも、実力は上のように思える。
向かってくる戦斧に対して、ユウリはヒノキノボウルグを下から上に繰り出す。
選んだのは、真っ向からのぶつかり合いだった。
結果は、ユウリの勝利。
ヒノキノボウルグが、戦斧を弾き返した。
戦斧を弾かれたオーガもどきは、後ろに押し返された。
大木のように太い足が、数歩後ろに動く。
「グオオオオオッ!!」
オーガもどきが、大きな叫びをまき散らした。
激昂状態というやつだろう。
自分よりずっと小さい少女に力負けしたのが、よほど悔しかったのかもしれない。
ロッソのバンダナを手放したオーガもどきが、戦斧を両手で握った。
本気でかかってくるようだ。
ユウリへ踏み込んできたオーガもどきが、戦斧を振り下ろしてきた。
両手で握っていることで、先ほどよりも威力とスピードが大幅に増している。
しかしユウリにしてみれば、大した違いはない。
両手で握ったオーガの本気の攻撃も、誤差レベルのパワーアップだ。
少しの脅威も恐怖も感じない。
振り下ろされる戦斧に合わせて、ヒノキノボウルグを繰り出す。
結果は先ほどと同じ。
オーガもどきの戦斧が、再び弾かれた。
それでもオーガもどきは諦めることなく、戦斧を振り下ろしてきた。
二度の攻撃で通用しないのは明らかなのに、また同じことをしてくる。
「学習能力がないのか?」
呆れつつ、合わせるようにしてユウリはヒノキノボウルグを繰り出す。
そうして五回ほど打ち合った時、オーガもどきの戦斧が砕け散った。
ヒノキノボウルグの攻撃を受け続けたことで、耐久が限界を超えたのだろう。
武器を失ったオーガもどきの表情に、強い怯えが浮かんだ。
「これ以上長引かせてもしょうがない。終わらせるか」
つま先で地面を、トンと蹴ったユウリ。
オーガもどきの顔面の位置まで、軽々と飛び上がる。
「じゃあな」
オーガもどきの眉間めがけて、ヒノキノボウルグを突き出す。
飛び散る鮮血。
眉間に、ヒノキノボウルグは易々と穴を空ける。
オーガもどきは声をあげることもなく、その巨体を地面に伏した。
「すごい……すごすぎます!」
圧倒的な勝者であるユウリに、リエラはらんらんと瞳を輝かせていた。
(少しは強いモンスターかと思ったけど、あんまりだったな)
拍子抜けではあったが、実戦経験は積むことができた。
それができただけでも良しとしよう。
ゴブリン討伐依頼と、オーガもどきの討伐。
その二つを終えたユウリとリエラは、ダホス山からファイロルへ戻った。
二人はまず、冒険者ギルドに向かった。
依頼の完了報告をして、報酬金を受け取るためだ。
(4,000ゴールドゲットだぜ! これで今晩はゆっくり眠れるぞ!)
喜びを味わないながら、受付嬢にゴブリン討伐依頼の完了報告をした。
それを終えたユウリは、続けてオーガもどきのことも報告していく。
恐らくロッソたち四人は、オーガもどきに殺されたこと。
ユウリがそれを討伐したこと。
「ユウリさん、あなたはいったい……」
オーガもどきの報告を終えるなり、受付嬢の目が大きく開いた。
驚愕しているのは明らかだ。
どうしてそんな反応をするのか。
受付嬢の反応に、ユウリは心当たりがなかった。
「ユウリさんが倒したモンスターは、アッシュオーガ。オーガの上位種にあたるモンスターです」
受付嬢が口にしたとたん、ギルド内にいる冒険者たちが一斉にざわつき始めた。
「あの嬢ちゃんがやったのか!?」
「すげぇや! 俺は今、伝説の瞬間に立ち会っているんだ!」
討伐者本人であるユウリを置き去りにして、勝手に盛り上がる冒険者たち。
彼らの口ぶりからして、アッシュオーガはとんでもない化け物みたいだ。
(でも、そんなに強かったか?)
通常のオーガよりは骨があったが、特に苦戦することなく討つことができた。
あれが化け物レベルだったとは到底思えない。
冒険者たちの大きな盛り上がりに、ユウリは疑問を感じる。
「アッシュオーガってそんなに強いのか? そうは思えなかったけど……」
「アッシュオーガの危険度は通常種の数十倍にもなります。これを討伐したとなれば……ユウリさん、あなたの実力はSランク冒険者相当ですよ!」
受付嬢の言葉に、大きな衝撃を受けるユウリ。
それと同時に、受付嬢や冒険者たちが見せた反応の理由を理解した。
冒険者ランクの上から二番目に位置する、Sランク。
それに見合う実力を持つというのは、さぞかし偉大なことなのだろう。
「やりましたね、ユウリ様!」
「お、おう」
笑顔で抱き着いてきたリエラに、戸惑いながら返事を返す。
Sランク冒険者相当の功績と言われても、正直実感が湧かない。
アッシュオーガがその功績に見合うだけの強敵だったとは、どうも思えなかった。
(逆に言えばそれだけ、【勇者覚醒】が強力なスキルってことか)
危険度の高いアッシュオーガを赤子同然に扱ってしまうような、強力なスキル。
【勇者覚醒】の強大な力を、ユウリは改めて感じた。
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