【9話】Aランク冒険者も余裕で撃退

 

 筋肉の盛り上がったロッソの屈強な腕を、そのままギュッと握ってやる。

 

 メキメキメキ……。

 屈強な腕から聞こえてきたのは、骨の軋む音だ。

 

「ああああッ!」

 

 顔をひしゃげたロッソが大きな声で叫んだ。

 目からはボタボタと涙を流している。

 

「彼女に二度と手を出すな。さもないと、お前の腕は二度と使い物にならなくなるぞ」

「分かった! 言うことを聞く!」

「本当か?」

「あぁ、約束する! だから頼む、早く放してくれ!!」


 パッと手を開き、ロッソの腕を放してやる。

 

 腕が自由になったロッソは、顔が真っ青になっていた。

 殴りかかってきた時の威勢は、完全に消え失せている。

 

「て、てめぇら、早く行くぞ!」


 ユウリに握られていた腕をさすりながら、ロッソは逃げるようにしてギルドを出ていった。

 仲間三人も、急いでその後を追っていった。

 

「すげぇ……」

「あのロッソをやっちまいやがった。何者だよ、あの嬢ちゃん」

 

 非力そうな少女が、Aランク冒険者のロッソを撃退。

 そんな非常識な結果に、冒険者たちは息を呑んでいた。

 

 緊張した空気が張りつめる。

 しかしそれは、すぐに熱い雰囲気へと変わった。

 

「いいぞ嬢ちゃん!」

「最高にかっこよかったぜ!」

「ロッソの野郎にはムカついてからな! スカッとしたぜ!」


 周囲から飛び交うのは、多数の褒めたたえる声。

 そしてそれは、前方からも聞こえてきた。

 

「助けてくれてありがとうね、お嬢ちゃん。ロッソさんにはずっと困っていたから、とっても助かったわ!」


 カウンター越しに、アメリアがニコっと笑う。

 

 青色の髪に、はちみつ色の瞳。

 リエラより少し上くらいの見た目からして、18歳くらいだろうか。

 グラマラスな体型をしている美人さんだ。

 

「別に気にしないで良いよ。それより、俺達も依頼を受けたいんだ」

「それじゃあ二人とも、ギルドカードを出してちょうだい」


 ユウリとリエラは、カウンターの上にギルドカードを出した。

 

「ユウリちゃんとリエラちゃんね。今紹介できそうな依頼は、これくらいかな」


 カウンターの下からいくつかの依頼書を取り出したアメリアは、横一列に並べた。

 

 それらを見たユウリは、心の中でため息を吐く。

 

 思っていた通り、どれもこれも簡単な内容ばかりだった。

 そうなれば当然、報酬金も低くなる。

 

(まずいな。このままじゃ宿代が稼げない)

 

 ユウリの目的は、宿の最低価格帯である3,000ゴールド以上を稼ぐことにある。

 しかしカウンターの上に並べられている依頼の報酬金は、どれも2,000ゴールドにも満たないものばかり。

 

 この報酬額では、宿を借りることができない。

 そうなれば、今晩もリエラと同室になってしまう。

 

(……今日も徹夜か)


 そんな風に諦めかけていたときだった。

 報酬金4,000ゴールドの依頼を発見する。

 

 その依頼書を手に取り、アメリアへ向ける。

 

「これだ! これを受けたい!」

「ゴブリンの討伐依頼ね。……よし。これで依頼受注は完了よ。あとの詳しいことは、依頼書を確認してね」

「おう!」


 アメリアから依頼書を受け取る。


「二人とも頑張ってきてね!」


 笑顔で手を振るアメリアに見送られながら、ユウリとリエラは冒険者ギルドを出た。

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