【7話】美少女と寝泊まり


 二階の突き当たりにある角部屋。

 リエラに手を掴まれているユウリは、そこに連れていかれる。


散らかっていますが、入って下さい」


 二人は部屋の中に入る。

 

 部屋は六畳ほどの空間になっていた。

 転移前にユウリが暮らしていたワンルームアパートと、ほとんど同じ広さだ。

 

 床には、脱ぎ散らかした服やゴミが散乱している。

 これを少々と捉えるかどうかは、人によるだろう。

 こまめに整理整頓していたユウリからしたら、少々の域を軽く超えていた。

 

 しかし今は、そんなことを気にしている余裕はない。

 密室空間で美少女と二人きりという状況に、ユウリの緊張は高まっていた。

 心臓の鼓動が先ほどからうるさい。

 

「ユウリ様、もしかして緊張されています?」

「あああ当たり前だろ! 今にも心臓が爆発しそうだ!」

「でしたら、寝る前に少しお話しましょう。きっと緊張が和らぎますよ」


 ユウリの手を放し、シングルベッドの縁に腰をかけるリエラ。

 すぐ隣の場所を、左手でポンポンと叩く。ここへ座って、という誘いだ。

 

(……リエラの言う通りかもしれないな)


 会話をするうちに、この緊張も少しは紛れるかもしれない。

 それに、この世界の知識に乏しいユウリは、色々と話を聞いておきたかった。

 

 リエラの左手の案内に従い、ユウリはベッドの縁にちょこんと腰を下ろす。

 

「おかしなことを言うけど、俺、この世界のお金のことを良く知らないんだ。良ければ教えてくれないか?」

「もちろんいいですよ!」


 これから生活していくにあたって、金についての知識を知っておくことは必須。

 まずはそこから聞くことにした。


 この世界の通貨は、ゴールドという貨幣を使用しているらしい。

 日本円に換算すると、1ゴールドの価値は1円くらいだった。

 分かりやすくて助かる。

 

 ちなみにここの宿代は、一泊3,000ゴールドとのこと。

 ファイロルにある宿屋の中では、最低の価格帯みたいだ。

 満室の原因は、安価な価格設定にあったのかもしれない。

 

 金について理解したユウリは続けて、食事や文化など、色々な話を聞いていく。

 

 ユウリの質問にリエラが答える。

 そんな風に話を進めていく中で、モルデーロ王国とディアボル王国の関係についても触れた。

 

「モルデーロ王国って知ってるよな?」

「はい。メロガ平原を超えた先にある国のことですよね」

「ディアボル王国と敵対してるみたいだけど、どうしてだ?」


 ディアボル王国のことを、憎き隣国、と神官長は言い表していた。

 そうまで言うのなら、何かしらの深い因縁があるはずだ。

 

「申し訳ございませんが、それについては分かりません」


 申し訳なささそうな顔をしたリエラが、ペコリと頭を下げる。


「この国に来て、まだ日が浅いんです」

「別に謝らなくていいよ。……もともと別の国にいたのか?」

「はい。ここより遠く離れた国から来たんです。……実は私、家出してきたんですよ」


 力なく笑うリエラ。


「伯爵家の三女として、私は生きてきました。でも私、貴族家のしがらみとかがずっと嫌いだったんです」


 バツが悪そうにしたリエラは、視線を少し下に向けた。


「……15歳の誕生日、父が何の前触れもなく政略結婚の話を受けろと言ってきました。政略結婚なんて嫌、と拒否したのですが、父はそれをつっぱねたんです。そこで感情が爆発した私は、家を飛び出してこの街に来たんです」

「そうだったのか……悪いことを聞いたな」

「いえ、気にしないで下さい」

「でも、どうして冒険者になったんだ? 他にも仕事はあっただろ」

「私、ずっと冒険者に憧れていたんです」


 視線を元に戻したリエラは、ニコリと笑った。

 

「貴族社会で生きてきた私にとって、縛りの少ない冒険者はまさに真逆の存在。とても魅力的でした。私の探し求めてきた自由が、そこにはあったんです」


 同じだ、とユウリは思った。

 ユウリもリエラも、自由な生き方に魅力を感じ、冒険者になることを選んだ。

 同じ理由で冒険者になった人間とパーティーを組めたことが、なんだか嬉しく感じる。

 

「もうこんな時間に! ユウリ様、そろそろ寝ましょう」


 時刻は午前一時。

 話をしているうちに、結構な時間が経っていたみたいだ。

 

「そうだな。じゃあ俺は床で寝る――え」


 ユウリの両肩をガッと掴んだリエラ。

 すらっとした腕とは思えない強力な力で、ベッドの上にユウリを押し倒した。

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