番外編 挫折の若手騎士はおもしれえ女と出会う(後編)
第三騎士団は体の良い左遷先であり、聖女様のお飾り。鍛錬したことは全然役に立たないと聞いていたのに……
「寺院の皆は後退して!」
「聖女様をお守りしろ! 封印杭も死守しろ!!」
「何でこんな所にアンデッドが!!」
逆だった。今回の行き先は国境近くで、
「ひるむな!!!」
「杭を奪われた!!」
聖女を含む寺院関係者一行は後方へと遠ざけたが……前線は騒然としていた。
(チッ!しくじった。聖女様の加護を受けた剣の方がよかったか?)
近くで戦っていた同僚の剣が折れ、彼をフォローするためにアンデッドに斬りかかる。俺の剣は何とか堪えてくれていた。聖女の真似事でも役に立ったみたいだ。
同僚を抱え木陰に逃げ込むが、俺も傷を負ってしまった。
「おい、これを飲め!」
俺は持っていたポーションを同僚に渡す。彼の方が傷が深い。せめて彼が動けるようになれば……無理か……。
木陰には今回の儀式に使う封印杭が落ちていた。これは逃げる最中に落としたようだ。とりあえず杭も
(助けを待つ? いやこんな状況だ、聖女たちを守るので手一杯だろう。俺達の事なんて誰も助けない。自力で……でも怪我で思うように動けない。―――しまった、アンデッドに気付かれた。ダメだ……もう助からない)
「メル!! ダメです! 行ってはいけません!!」
後方から悲鳴に近い声が聞こえてきた。後方もダメか……偉い事を言ったが結局何の役にも立てなかった。最悪だ……
覚悟を決めた時だった。アンデッドは何者かが放った魔法によって弾かれ同時に
「大丈夫?」
鈴を転がした声と共に何かが舞い降りた。それはブルーのローブを纏った少女。身の丈ほどの杖を持っている。はめ込まれた石は仄かに輝いているので、先ほどの魔法は彼女が放ったのだろう。
更には両手首には護符のブレスレットを嵌めている。あれは聖女や寺院でも
昨晩会った少女だった。
「……なんだ、聖女様の侍女だったのかよ。ありがとう、奴らを払ってくれて助かった。悪いがこんな状態で送ってやれない、今のうちに聖女様の元へ戻れ」
昨日の悪態を見られていたからか、心なしか息が苦しい……いや、同僚も苦しそうなのでアンデッドがまき散らした瘴気らしい。
「それは……出来ないかなツ?」
彼女は悪戯っぽく笑うと、ウエストポーチの中から瓶を取り出す。毒消しだ。何の迷いも無くそれを俺達にぶちまけた。
「な゛っ!!!」
何が起きたか分らず唖然としたが、彼女は真剣な顔をして素早く両手を合わせて祈った。
「この者達を清めたまえ」
急に息苦しさが消える……それは同僚も同じようだった。
しかし、彼女は毒消しのポーション1人分を2人で使った。寺院のシスターも力はこんなに強力だっただろうか。しかもこの毒消しだってせいぜい数日後に回復するものなのに。
彼女は驚いている俺の脚の傷に持っていた小瓶の液体を注いだ。一瞬痛みが走ったがその後は次第に和らいでくる。ここまで即効性のある傷薬を見たことが無い。
同僚も彼女の手当てを受け目に光が宿り、こちらを見て頷いた。動けるという顔をしている。
「ありがとう……動けそうだ。君を後方に戻るまで護衛する。さぁ……」
「結界杭どこに落ちたか分かる? あれが有れば……」
また話を聞かない……ため息を吐き、先ほど拾った杭を彼女に見せる。
「これの事か? なら早く聖女様の元へ戻るぞ」
「予備の方だ! こっちの方が都合がいいや! よかった。じゃあ、やってみようかな♪」
―――やってみる!?
「おい、待て!? やってみるって……なんだ!? 今ここでか??」
またもや彼女は何の迷いも無く杭を地面に突き立てた。
(この杭は貴重な奴で! 聖女にしか使えない……)
「この杭を突き立てし土地よ清浄に。穢れし者を払いたまえ」
杭を中心に半球状の光の壁が展開され、それは徐々に大きく成って行く。その光の壁に触れたアンデッドは塵のように空に還って行った。
(なんだこれ……見たこと無い)
「よし、結界のポイントまでこれでカバーできたかな。よかったぁ……じゃあ予定通りポイントに向かって結界の張り直しを……」
「こらー!! メルッ! 何やってるんです!? 勝手に居なくなって!?!? あっちは大混乱ですよ!? 戻りますよ? また聖女様にいびられても知りませんからね!?」
唖然としていたら、青い髪の侍女見習いがやって来るなり、彼女の腕を思いっきりひぱって去っていった。
「ごめーん! フロー!! でも上手く言ったでしょ?? ……って、お兄さん達、ばいばーい!!」
引きずられながらも、あの笑顔でこちらにひらひらと手を振りながら、彼女達は後方へと消えて行った。夢のような出来事と共に俺達が受けた傷もすっかり治っていた。
◆ ◇ ◆
結界更新の儀は無事に終わり、一人も欠けることなく城に戻った。城に戻る途中も謎の侍女から聖女様からの差し入れポーションが配られ皆の傷も治っていた。
(このポーション、あの子が細工した奴だ……)
そして一か月後、新しき聖女が誕生した。名前はメルティアーナ=ソルフロー。薄桃色の髪に紫の瞳を持った乙女。その力は先代の聖女の力を凌駕する。しかもガキと思っていたら、16歳らしい。
女神寺院は聖女候補の彼女をシスター見習いとして秘密裏に育てていたらしい。
そんなとんでもないもの隠さないで貰いたい。
「今日から聖女を務めますメルティアーナ=ソルフローです。護国の聖女として皆様のお役にたてるよう尽力してまいります。不束者ですが、よろしくお願いいたします」
(―――!……綺麗だ)
聖女の衣装を纏い、落ち着いて話せば年相応の女の子だ。
新しい聖女様は、積極的に加護をかけるなど前任に比べて良く働いた。しかも分け隔てなく気さくで優しいときた。国の治安や雰囲気も次第に良くなったのは語るまでも無い。
この一件を経て俺……いや僕は言葉使いと態度を改めた。危険を顧みず俺達を助けた聖女への忠誠を込めて。それに辞めるのもやめた。
◆4年後◆
「聖女様? 後方に居る
「いや……だって。ドラゴン強いから手伝おうと思って」
4年経って彼女は成人し、容姿も大人びたが……お転婆は変わらなかった。いや、最近は拍車がかかり、覚えた魔法を撃ちたいが為に積極的に前線に紛れ込むので、こちらも大変だった。ここは心を鬼にしてガツンと言わなくては。
「メルティーナ様! お気持ちは嬉しいのですが、前線でうろちょろされるとこちらも守りきれません! もう少し大人しくして頂かないと困ります!! もっと聖女らしく振舞ってください」
「ごめんなさい! 副団長」
素直な所は……その、可愛いと思う。
「見つけましたよ、メル。まぁた前線に……それはメルが悪いです。そんな魔法バカだから縁談が白紙になるんです。……クロフォード様ご迷惑をおかけしました。さぁ、帰りますよ」
「はぁい」
涼しげな目元の侍女、フローティアとも相変わらずのようだった。
メルはあの出来事を覚えていない様だったが……あの時彼女に守ってもらった恩義を僕は忘れない。なにが有ろうとも、どんな手を使っても彼女を……。
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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~ 雪村灯里 @t_yukimura
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