相談者のAくん
ここで紹介した物語群は、いずれも物語の中で語り部となっていた『実在の人物たち』、その顔写真の裏に、異なった筆跡でびっしりと書きつけられていたものだ。
彼らは皆、とある交差点で異常な死体で発見された。
写真は全て、その死の直前に何者かに撮影されたもののようで、自撮りではあり得ない角度から、信号待ちをする様子や横断歩道を渡る姿がブレ気味に撮影されている。
「これが、先月くらいから数日おきに机の上に置いてあって」
私に今回の件を相談してくれた友人の弟くん(仮にAくんとする)は、沈痛な表情で写真を指さす。
「なにか、心当たりはあるんですか?」
私の質問に、Aくんは絞り出すような声で言った。
「この写真の裏に書いてある、怪談?の中で、たまに交差点で死んだ男の子がいるみたいな話あるじゃないですか」
たしかにその通りだ。そのことに言及していない場合も、どの話にも共通して、男の子の幽霊が登場する。
「同じ場所で同じ霊によって起きたことだ、という話ではないんですか?」
「はい、そうです。その、交差点で死んだ男の子というのは、僕の友達──いえ、親友なんです」
私は、はっと息を呑んだ。
写真をさす指が震えている。
Aくんは、訥々と友人が亡くなった経緯を話し始めた。
「写真を撮るのが、好きなやつでした。同じ読書クラブの仲間で、すごく、すごく仲が良かったんですよ。僕たち。でも、あの日はなんていうか、すごくつまらないことで喧嘩しちゃって」
もう原因を覚えてないくらい、些細なことだったという。
「それで僕、つい、お前なんかもう知らないって、嫌いだって」
自分が友人にぶつけた言葉を繰り返すAくんの声は、ひどく掠れていた。
「帰りに後悔して……次の日謝ろうと思ってたんですよ。でも、あいつ、その日の帰りに交差点で轢かれちゃって……なんですぐに仲直りしようとしなかったんだろう、俺……」
「そんなことが……」
「だからきっと、怨んでるんです。交差点を通る人を殺して、次は僕だって、そう言ってるんだと──」
「それは、違うと思いますよ」
私は、少し強い口調でAくんの言葉を遮った。Aくんが、困ったような、睨みつけるような表情でこちらを向く。
「なんでそう言えるんですか」
「この被害者の名前、私もニュースを調べてみました。死亡日順に並べてみてください」
私は、メモ帳に被害者たちの苗字を書いていく。
「この頭文字を並べてみてください」
「っ!これって……」
ご め ね な か な お り
──ごめんね。仲直り。
「きっと、ただあなたに謝りたかったんだと思います。でも、きっと伝える方法が他になくて、こんな回りくどい方法を使ったのかと……それか、照れ臭くて君自身に気づいて欲しかったのか」
私がそういうと、Aくんの目から、大粒の涙が一滴零れた。
やがてポツポツと、雨が降り始めるようにいくつもの涙が落ちていく。
「おれっ」
Aくんは掠れる声で言った。
「俺の方こそ、ごめんっ……仲直り……俺もしたい……お前が死んじゃってから……ずっと後悔してた……絶交なんて言って……本当にっごめんなさい……ずっとずっと……友達、だよっ」
ふっと、部屋の中だというのに風が吹いた。
私たちの髪が、わずかに揺れる。どこか、血の匂いが混じっているような気がした。
いつのまにか、Aくんの隣に同い年くらいの少年が立っていた。おそらく、彼が交差点の幽霊なのだろう。
話に書かれていたのとは違って、生きている人間と変わりのない、綺麗な顔をしていた。
少年は言葉を発することなくAくんに、柔らかく触れ、涙を拭う。
「──」
Aくんが彼の名前を呼ぶ前に、少年はバイバイの仕草をして消えた。
そして後には、Aくんの押し殺したような嗚咽だけが残った。
都内某交差点における連続怪死について 弓長さよ李 @tyou3ri4
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