勇気の一歩が、再生する⑤
レイド・スタークス。彼の種族は
建物が倒壊し、更地となり炎が燃え盛るエリテアの第八区域。……剣を支えにして片膝をつき、
「はぁ……はぁ……ぐっ……」
「
「まだ、勝負はついてないぜ」
「今まさに、貴様の敗北が決定づけられるだろうに」
ザーレジアは手を突き出し、凄まじい魔力の
「『
「ぐっ、うぅぅぅぅっ!」
レイドは聖剣を盾にして、必死に耐えた。重みで足元の地面に亀裂が入る。大気が
「ふっ!」
衝撃を受け止めきって、波動を反射させた。遥か上空へとかき消えてゆく。
「はぁ……近いな、おい」
ザーレジアはレイドの
「ここからでも反撃できないか?」
「さぁね」
レイドの瞬発力は常人のそれを超えていた。それゆえに反撃を恐れて遠くから魔法や魔術を行使していたザーレジアだったが、もはやその必要はなくなっていた。
「……この
「いいや、今回もしくじるさ」
ニヤリと不敵に笑った
「貴様……! もういい、貴様の命と都市を
再び波動の構えをとった
――くそ! あと
この距離ならば。ほんのわずかな隙さえあれば。彼は踏み込み、魔神に致命的な一撃を与えることができる。
そう、レイドがそう思った直後だった。自身より少し離れた
まだ五歳くらいの幼い少女がそこに隠れているではないか。
――この区域は全員避難したはずじゃ!? ……しかし、どちらにせよ今の僕ではどうしようもない、か。
英雄は
……だが。それを大きく開いた。
――噓だろ!?
何故ならレイドは、その目で確かに見たからだ。
瓦礫の裏の少女へ、少年が歩いていくのを。
その少年は――ヴァン・ストーリアだった。
この都市で、
ヴァンはもう一方の手を差し伸べた。
――もう安心だ、俺に任せろ。
「……」
ヴァンの心の声に少女は、無言の
……物音を立てないように、慎重に。
そう、例えるなら時限爆弾の導線を切断する時だろうか。失敗は、許されない。
ところが。コツ、と。小石に
『――ッ』
二人の、声にならない声。背筋が凍る。なぜか。
「
魔神が、こちらを凝視していたからだ。
魔力の
ヴァンは、雪景色の
『もう安心よ。私に任せて』
――言葉には出さなかったけど、
余計なことをしたかもしれない。だがこれを「間違い」であると断言できるだろうか? ……答えは
――俺は、この自分の行動を信じたい!
「君は逃げて!」
ヴァンは回り込む形で魔神に突っ込んだ。恐怖で身体が思うように動かない。それを必死に奮い立たせる。せめて少女が身を隠すくらいの時間を稼ぎたいという一心で。
確かに
「自分なんか」と、そう思っている……。しかし、誰かの為ならば。
その、大きな、勇気の一歩を踏み出すことができる――!
牙突。彼が一番得意とする剣術を繰り出した。
「あああぁっ!」
「ふっ、空想の得意な
現実は非情だった。牙突よりも先に
しかし、その数秒が世界の命運を分けることとなる――!
「ハァッ!」
「しまっ――」
「ぐぼぁ……!」
ザーレジアは
「……ありがとう。君のおかげで助かったよ」
ふらふらになりながらも、直立する
「いえ……ごめんなさい」
それに対し、ヴァンも頭を下げた。
「どうして謝るんだい?」
「余計なことをしてしまったかなと思って」
そう話した少年を見て、赤髪の英雄は拳を強く握りしめた。
「……まずは、顔を上げてくれ」
ヴァンは言われた通りに顔を上げ、視線をレイドに合わせた。
「……ごめん、時間が無いから一回で聞いてくれ。僕のこの蒼い左目はね、代々受け継がれてきたものなんだ。全てはあらゆる厄災を断ち切るために。あの魔神はその一つさ」
「……?」
「『魔石』のことは知ってるね? 魔力、精霊光を秘めたあの資源さ。それをこの瞳で見れば、厄災を解決するための記憶を再生できる」
「あの……」
レイドは続けた。
「そうして明確な解決法を探って戦いが避けられない時、瞳に
「……」
「そこで、だ」
レイドが聖剣を
「君が、次の後継者になってくれないか」
「えっ?」
それを聞いたヴァンの
「元々誰かに
「でも……!」
そこへ、
「何を話している? 結果は変わらない。待っているのは破滅だけだ」
ザーレジアが
「……さぁ、早く選ぶんだ。僕はどの道、敗北してしまうからね」
「な、なんで! レイドさんは最強だから勝てますよ! 頑張ってください!」
「
よく見ると、レイドの左目の空色が抜けてきているではないか。
「あ……」
それに気づいたヴァンは、思わず声が出た。
「でも、君なら勝って未来を切り
世界最強の英雄、その最後の希望であること。それを自覚したヴァンは、呼吸を整えて。決意を胸にした。
「……分かりました。頑張ってみます」
レイドはニコッ、と微笑んで。
「ありがとう。では、この聖剣を受け取ってくれ。それだけでいい」
その刹那。ヴァンの瞳が片方、
「その聖剣の名は『エスペランサ』。絶対に手放さないで……さぁ、後は頼んだよ」
いつの間にか背後に人が立っていた……ベータ組の担任、マリだ。ひょいと背中にヴァンを
「いいんだね、レイ」
マリが、唇をぐっと噛みしめながら。
「はい。きっと今でなくても彼を選びます」
「……そっか」
ふっと微笑みを浮かべたマリは、振り返って。
「あ、それともう一つ!」
レイドが、張り裂けんばかりの声を上げた。ヴァンが振り向く。
「少年! 君は
そして……。
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